富山サンダーバーズのプレーイングコーチとして、2シーズン目を迎えることとなりました。昨季はコーチ、選手の両面で頑張っていこうという気持ちでスタートを切ったものの、どちらも満足のいく仕事をするところまでには至りませんでした。今季は指導者としても、プレーヤーとしても、納得できるシーズンにしたいと思っています。
 昨季、選手としての成績は71試合に出場し、打率3割3分、77安打、20打点、3本塁打、36盗塁でした。正直言って、自分としては物足りない数字です。リーグ最多の盗塁を除いて、打率、打点、本塁打すべて、もう少し高い数字を残さなければいけなかったと反省しきりです。NPB復帰には、普通の成績ではなく、突き抜けた成績が必要だと考えているからです。

 昨季はスタートがあまりにも悪すぎました。タイミングがまったく合わなかったのです。その理由のひとつはストライクゾーンの広さにありました。NPBよりもBCリーグはストライクゾーンが広いということをすっかり失念していたのです。もうひとつは、練習不足だったことも否めません。いつもならタイミングを外されても、下半身で粘って打つことができましたが、すぐに軸が崩されてしまっていたのです。

 練習不足になってしまった要因は、初めてのコーチ業との両立がうまくできていなかったことにもありました。というのも、「コーチとして、ちゃんとやらなければ」という気持ちが強過ぎてしまい、空回りしてしまっていたのです。しかし、シーズン途中、進藤達哉前監督に「そんなにコーチらしくしなくても大丈夫」と声をかけてもらったことで気持ちが楽になり、徐々に調子を取り戻していくことができました。今季、新しく就任された吉岡雄二監督にも「コーチだからではなく、選手と同じ目線でやってくれていいから」と言っていただいているので、今季はスタートからダントツの成績を出し、シーズンを通して活躍したいと思います。

 僕自身が選手として活躍することは、指導者としての自分にとっても非常に重要になります。昨季、初めてコーチに就任したということで、僕はこれから自分と同じようにNPBを目指している選手たちに、これまで自分が経験したこと、以前のサンダーバーズ時代にはどういうことを取り組んできたのか、ということをすべて伝えてあげたいと思っていました。ところが、自分自身の成績が良くない中で躊躇してしまい、なかなか選手たちにアドバイスすることができなかったのです。それでは選手たちにも良くないばかりか、自分自身の成長を止めてしまいます。今季は選手としてきちんと成績を残し、コーチとしてもしっかりと指導やアドバイスをしていきたいと思っています。

 優勝に不可欠な“一体感”

 さて、チームとしては昨季、前後期ともにあと一歩のところで優勝を逃すという悔しい思いをしました。その要因は、もうひとつチームがまとまりきらなかったとことが挙げられます。優勝がかかった時期、正直言って、チーム全員が同じ方向を向いているというふうには感じられませんでした。優勝に向けて「絶対に監督を胴上げしよう」というものが選手から伝わってこなかったのです。

 リーグ創設2年目の2008年、サンダーバーズは初めてリーグ優勝を達成しました。僕もその時のメンバーとして、優勝の喜びを味わいました。その時、練習でも試合でも、チームには一体感がありました。しかし、残念ながら昨季はグラウンドに出ても「何が何でも優勝する」という雰囲気はほとんど感じられなかったのです。ミーティングでは僕も含めた監督、コーチから「ひとつにならなければ優勝はできない」と言ってはいたのですが、残念ながら最後までその雰囲気をつくり上げることはできませんでした。

 僕自身の反省としては、少し選手と壁をつくってしまったかなという点です。そのために、選手の本音を聞きだすことができませんでした。もっとコミュニケーションをとっていれば、チームの雰囲気は少しずつ変わってきたかもしれません。吉岡新監督も「コミュニケーションをはかり、チームをひとつにまとめることを一番大事にしたい」と言っていましたので、僕自身も今季は選手が本音を言えるように、コミュニケーションを大事にしていきたいと思っています。

 成長著しい2年目・大上戸

 今季、さらなる成長が楽しみな選手といえば、2年目を迎える大上戸健斗(遊学館高−大東文化大)です。昨季は新人ながら56試合に出場し、打率3割6厘、59安打、23打点、2本塁打の成績を残しました。彼は非凡なバッティングセンスの持ち主で、バットコントロールがいいので、広角に打つことができます。また、リストが強く、逆方向にも強い打球を打つことができるのです。実際、昨季打った本塁打2本のうち、1本はレフトスタンドに運んだものでした。チャンスにも強く、本人次第ではNPBへ道を開くことは十分に可能な選手です。

 開幕当初は、ケガをしていたこともあり、特に目立った選手ではありませんでした。しかも引っ込み思案の性格が災いしていました。練習後、ほとんどの選手が残って個人練習をするため、バッティングゲージなどは数が限られるのですが、大上戸はいつも「自分はいいです」と遠慮してしまうのです。しかし、シーズン終盤になってレギュラーに定着すると、責任感が出てきたのでしょう、遠慮することなく、しっかりと練習に取り組んでいる姿が見受けられるようになりました。さらに聞くところによると、帰宅後も必ず素振りをしていたようです。成績は、こうした努力が実った結果でしょう。

 当面の課題は守備です。昨季でだいぶ成長はしたものの、NPBに行くには、もう少し守備を鍛えなければいけません。そしてバッティングにおいても、打率3割5分は打てる力はありますので、昨季の成績に満足することなく、さらに高いところを目指してほしいですね。ぜひ、首位打者を狙ってほしいと思います。

 サンダーバーズは初優勝した08年以来、リーグ優勝、北陸地区優勝がありません。10年からは、前後期の優勝さえもしていないのです。ファンも首を長くして、歓喜の瞬間を待っているはずです。今季こそは、チーム一丸となって、優勝を勝ち取りたいと思います。応援、よろしくお願いします。

野原祐也(のはら・ゆうや)>:富山サンダーバーズプレーイングコーチ
1985年1月7日、埼玉県生まれ。大宮東高では3年時に1番打者として活躍。国士舘大では4番に座り、4年時には主将を務めた。2007年、富山サンダーバーズに入り、1年目から首位打者、本塁打王の2冠に輝く。2年目は主砲としてチームをリーグ優勝に導き、2年連続でMVPに選出された。09年、育成ドラフト1位で阪神に入団。7月には支配下登録され、9月には一軍デビューを果たす。翌年からはケガなどもあり、一軍復帰することなく、昨年、戦力外通告を受ける。13年、富山のプレーイングコーチに就任。主力として活躍し、盗塁王に輝いた。
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