いよいよ2014年のJリーグがスタートします。22日にはシーズン幕開けを告げる富士ゼロックス・スーパーカップで、サンフレッチェ広島(13年リーグ優勝)が横浜F・マリノス(同天皇杯優勝)に2対0で完勝。史上2クラブ目のリーグ3連覇に向け、順調な仕上がりを見せているといっていいでしょう。
 広島は1月の天皇杯決勝で横浜FMに敗れており、そのリベンジを果たしたかたちです。広島の勝因は、天皇杯決勝の時に比べ、前線からボールを奪いに行くハイプレスが機能していたことです。各選手が自分の定位置より前で相手のボールを奪おうとしていました。

 ハイプレスは、むやみやたらに仕掛ければいいというものではありません。選手がバラバラに動いてしまうと、ワンタッチパスや細かいパス交換で局面を打開されてしまいます。広島は、相手ボールが中央からサイドへ出た時に、プレスをかけにいく選手がパスコースを規制していましたね。他の選手はそれを確認した上で、選手間の距離をコンパクトに保ちつつ、カバーリングやマークの受け渡しをしていました。うまく統制がとれていたと思います。

 スーパー杯でのMF野津田岳人、FW浅野拓磨という若手の台頭も、明るい材料です。広島にはFW佐藤寿人やMF青山敏弘といった不動のレギュラーがいます。実績のある選手で陣容を固めれば、勝利には近づきます。しかし、それは一時のもの。下からの突き上げがなければ継続して強さを持つチームにはならないのです。

 有望な若手が出てくれば、中堅、ベテランも「このままではいけない」と気が引き締まる。年齢に関係なく、プロは試合に出てなんぼの世界。控え選手でいいと思っている選手はいません。中堅、ベテランたちは、若手を抑えられるだけのプレーをしないといけないのです。そして、野津田や浅野の活躍を見た同年代、さらに下の世代の選手たちは「俺たちも」とモチベーションが上がったのではないでしょうか。広島はベテラン、中堅、若手が共存し、ますます競争が激しくなっています。常勝クラブになるためのいいサイクルに入ったと思いますね。

 胸躍ったフォルラン加入

 広島の対抗馬にして、今季最大の注目チームは、やはりセレッソ大阪でしょう。ウルグアイ代表FWディエゴ・フォルラン獲得のニュースには、胸が躍りました。思えば、Jリーグ開幕時は各チームがこぞって素晴らしい選手を獲得しました。当時はリーグに華やかさがありましたね。そして日本人選手が本物のプロとはどういうものかを知ることができた。今日の日本サッカーの礎になったと言っても過言ではないでしょう。

 フォルラン獲得は、C大阪の選手たちにとっていい刺激になっていると思います。世界で活躍してきた最高のお手本がいるわけですからね。私も鹿島アントラーズ時代にジーコを見て、基本技術を見直し、揺るぎない自分のプレースタイルをつくることができました。フォルランと一緒にプレーすることで、日本代表FW柿谷曜一朗をはじめ、他の選手たちがどのように変わるのか楽しみですね。また今季はフォルランを見るために試合会場へ足を運ぶファン・サポーターの増加が予想されます。こうしたチャンスを逃さないためにも、他の選手たちも周囲の期待に応えなければいけません。そのためにはさらに精神面、技術、質すべての部分を高める必要性があるでしょうね。

 また、C大阪と対戦する他チームも、フォルランを通じて貴重な経験ができます。特に、ディフェンダーは“世界”を体感するチャンスです。私が現役時代に対戦してきた中で、最も印象に残っている外国人選手は、横浜マリノス(現横浜FM)の元アルゼンチン代表FWラモン・ディアスです。ディアスは左利きで、フィニッシュはほとんどが左足。それがわかっているのに、彼を止められなかった。

 ディアスは決して足が速い、当たりが強いという選手ではありませんでした。しかし、彼は独特の間合いとタイミングを持っていたように感じます。ディフェンダーが「今ならボールを奪える」と思って飛び込んで来た瞬間、スッと方向を切り替えて、プレッシャーがかかっていない状態でシュートを打つ。そんな日本人選手にはない“いやらしさ”がありました。

 世界的な選手たちのプレーを間近に観たり、一緒にプレーしたりすることによって、自分の力が通用するのかしないのかがわかります。今のままでは通用しないとわかれば、どうすればいいのかを考えようとします。そうやってJリーグの中で外国人選手と日本人選手が切磋琢磨しながら、日本サッカーは成長してきました。その結果、今や日本はW杯出場の常連になりつつあり、選手の海外移籍も増えてきた。国内のレベルが上がってきたからこそ、フォルランのような大物選手も東洋の島国に来ることを拒まないような環境ができたと思いますね。

 21日のキックオフカンファレンスでは、村井満チェアマンが「笛が鳴るまで全力でプレーする」「リスタートを早くする」「時間稼ぎのような選手交代をしない」ことを各チーム、選手たちに要望しました。これらは、いわば当たり前のことですが、チェアマンが今のJリーグを客観的に見た時に、必要と感じたのでしょう。私も賛成です。大物選手の加入という話題だけでなく、実際にJリーグの試合を観たすべての人たちに、日本サッカーの熱意を感じてもらえるような魅力あるリーグになることを願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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