非常に寂しい試合でした。23日、Jリーグ史上初の無観客試合となった、J1第4節の浦和レッズ対清水エスパルス戦です。一部の心無いサポーターが犯した浅はかな行為が、多くの人の夢を奪ったという事実は遺憾に思います。


 報道によると、一部サポーターが掲げた「JAPANESE ONLY」という横断幕には、「外国人の方が入ると応援の統制がとれなくなるので、ゴール裏の席で観戦しないでほしい」という意図があったとのことでした。しかし、これは実に身勝手な理由です。いかなる理由があっても、差別的な言動は、あってはなりません。様々な縁があって、日本に住み、日本が大好きと言ってくれる外国人はたくさんいます。今回起こった問題によって、外国人の信頼を大きく裏切ったことでしょう。

 また、横断幕を強制的に撤去できなかった浦和の運営体制も、クラブに対する不信感を抱かざるを得ないものでした。そもそも掲示者との同意がなければ、撤去できない規約をなぜつくったのか。たとえ危険性のある掲示物であっても撤去できないのか。浦和には、根本的な部分から改善に向けて、徹底的に議論を重ねていってほしいですね。また、他クラブも決して対岸の火事と思わず、管理・運営体制を見直すべきです。

 サポーターの声援は、選手がどんな状況でも自らを奮い立たせるための起爆剤になります。その起爆剤の大切さを、無観客試合を戦った選手たちは強く感じたと思います。中には、「なぜ自分たちがこういう状況に置かれなければいけないのか」と不満に思う選手もいたでしょう。清水の選手にとってみればなおさらです。しかし、繰り返しになりますが、たったひとつの横断幕が、どれだけ多くの人に影響したのかを考えなければいけません。

 浦和サポーターの応援の熱狂ぶりは、Jリーグ屈指です。私も彼らがつくりだすスタジアムの雰囲気は素晴らしいと感じています。ああいう中でプレーしたいと思っている選手は多いはずです。そういった浦和サポーターらしい迫力は、ぜひ続けていってほしい。残すべきところは残し、改めるべきところを改める。クラブ、選手、サポーターが三位一体となって、差別撲滅に取り組んでいくことを強く願っています。

 鹿島、好調の要因はダヴィ&若手

 さて、ここからは開幕して1カ月のリーグ戦を見ていきましょう。私の印象としては、ここ数年で改革に取り組んできたチームが、好スタートを切ったように映ります。特に、鹿島アントラーズの好調ぶりが目立ちますね。今季はここまで4勝1敗。私も「今年の鹿島はいいですね。要因は何ですか?」とよく聞かれます。それはずばり、FWダヴィと若手選手の存在です。

 ダヴィは昨季に加入し、10ゴールを挙げたものの、期待通りの活躍ができたとは言えませんでした。大きな要因は、ボールを受けたいがために、中盤の位置まで下がってきてパスをもらおうとしていたからです。これによりダヴィの力強さとスピードが十分に生かされていませんでした。しかし、今季はゴールに近い位置でボールを受ける場面が増えてきています。

 これは、ダヴィの使い方をチーム内で統一できているからに他なりません。昨季より、早い段階でダヴィにボールを預けるようになってきました。また、ダヴィの足元ではなく、前方にパスを送るようになっています。チーム全体が彼の特長をより生かそうとしているのがうかがえます。

 それに伴い、ダヴィもパスを受けた後、相手から厳しいマークを受けている状況なら、中盤の選手にボールを預けて、ゴール方向に向かうようになってきました。他チームでゴールを量産していた本来のダヴィに戻りつつあると思いますね。

 そして、鹿島好調の要因の2つ目は、若手の台頭です。トニーニョ・セレーゾ監督は昨季から若手選手を試していましたから、それが実を結び始めてきたように感じますね。DF伊東幸敏、MF土居聖真、FW豊川雄太らが、豊富な運動量で周囲をサポートできています。若手が汗をかいて広いエリアをカバーすることで、ベテランにかかる負担を軽減できている。そのおかげで、MF小笠原満男といった経験豊富な選手がチームをコントロールできているのです。

 鹿島が今後も好調を維持するためには、今、実践できている戦い方を継続することです。攻撃面では相手の守備組織を横に揺さぶるサイドチェンジを有効に使う。守備面では攻守の切り替えを早くして、高い位置からディフェンスを仕掛ける。相手にボールを持たれてしまった場合は、ペナルティーエリア内に入れさせないよう、外に追い込む。攻守両面で運動量が求められますが、そこで若手がどれだけ汗をかけるかが重要ですね。これから暑い時期を迎える中で、今のクオリティを継続できれば、5季ぶりのリーグタイトルも見えてくるでしょう。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから