パドレスの本拠地サンディエゴは海軍がベースを置く基地の街である。博物館には空母ミッドウェイが公開されている。
 軍事都市ならではのイベントと言っていいだろう。パドレスは毎年4月、海軍や海兵隊員への敬意と親しみを込めて「ミリタリー・オープニングデー」と名付けたゲームを行う。選手たちは迷彩服のようなユニホームでのプレーが習わしとなっている。

 この日に限ってフィールドは「戦場」と化すわけだが、もともとベースボールには軍事用語が多い。ダグアウトは「退避壕」であり、スカウトは「偵察」である。
 その伝で言えば、ユニホームは「戦闘服」と訳されるべきかもしれない。日本では東北楽天の星野仙一監督が、好んでこの言葉を口にする。闘将の野球観が垣間見える。

 考えてみれば、選手とともに監督やコーチまでひとつのユニホームに身を包んで戦うのはベースボールくらいのものである。たとえばサッカーやラグビーにおいて監督やコーチの服装は基本的に自由である。

 こうした点から見ても、ベースボールのチームは「軍隊」に近いのかもしれない。当たり前の話だが、序列に関係なく戦場の軍人は皆、軍服を着ている。スーツ姿の指揮官なんて見たことがない。

 巨人が創設80周年を記念してユニホームを一新した。巨人軍というからには「軍服」か。目を引くのは左袖に刺繍された2つの大きな星と2つの小さな星。これは計22度の日本一を表している。いわば武勲の可視化である。

 5度のW杯優勝を意味するブラジル代表を持ち出すまでもなく、サッカーのユニホームにおいて優勝回数を示す星印は珍しくない。しかしベースボールにおいては数例しかない。その意味では革新的なユニホームでもある。

 それ以上に私がしびれたのは原辰徳監督がユニホーム開発者に語った次の一言だ。「ユニホームは戦闘服でもあるけど、タキシードでもある」。これは球団創設者である正力松太郎の遺訓のひとつ「巨人軍は常に紳士たれ」を意識してのものだろう。では、それをグラウンドでどう表現するのか。ある意味、日本一奪還よりも難しく、そして格調高きミッションであると言えよう。

<この原稿は14年3月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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