二宮: 藤田さんは守備の際、打球を処理したら速く投げることを強く意識しているとか。
藤田: 肩が強くないので、普通のゴロであれば捕球の際にグラブは閉じません。当てるだけですぐに右手に持ちかえます。ゴロだけでなく、ゲッツーの場合もショートからの送球を捕ってから投げるまでのスピードを追求しますね。セカンドはランナーがスライディングしてくるので、早く投げてベースから離れないとスパイクされてしまう。ケガを防止するためにも速く投げることは大切です。
二宮: それを意識し始めたのはいつ頃ですか。
藤田: 野球を始めた頃から意識していましたね。小学校の時、軟式野球で守備の練習をバッティングより優先してやっていました。それで時間があれば家で壁当てをして、捕って投げるを繰り返していたんです。

 憧れは巨人・川相

二宮: 壁当ては、ゴールデングラブ賞に10度輝いた宮本慎也さんも少年時代に取り組み、守備を鍛えたとか。捕って投げる基本をひとりで練習できるので効果的なのでしょうね。
藤田: グラブとボールがあれば、いつでも練習できますからね。僕の場合は、親に大きな鉄板を用意してもらって、それを壁の前に置き、的にしていました。鉄板を置く角度を変えると、ボールのはね返りが変わってくる。地面に対して90度に立てれば、ゴロが返ってきますし、45度に寝かせると小フライになる。家の庭で小学校時代、壁当てをやり続けたのは今にも役立っていると思います。

二宮: 当時、憧れていたプロ野球選手は?
藤田: 巨人の川相昌弘さんです。家族がジャイアンツファンで、よくテレビで中継を見ていました。派手さはなくとも、確実にプレーをするところが好きでしたね。たまに見せるファインプレーもすごくカッコ良かったんです。

二宮: 鳴門第一高時代は甲子園出場こそなかったものの、関西の強豪大学である近畿大に進学。2年時からショートのレギュラーになります。やはり守備には自信があったと?
藤田: はい。ただ、体が細くてパワーもないので、バッティングは苦労しました。木のバットに慣れるのも1年くらいかかりましたね。2年になって、ようやく結果が出始めました。

二宮: とはいえ3年春と4年春には首位打者にも輝いています。
藤田: バットに当てるのだけはうまかったので、それで結果を残しているうちに少しずつ力がついてきました。それまでは体格的にプロは無理だと思っていましたが、3年の終わり頃からはスカウトも見に来てもらうようになり、意識し始めましたね。

 打球は「横から見て捕れ」

二宮: 大学の日本代表にも選ばれる内野手となり、2004年のドラフトで横浜から4巡目指名を受けます。当時の横浜はチーム成績こそ低迷していましたが、内野には実力のある選手が多かったですね。
藤田: セカンドには種田仁さんに内川聖一(現福岡ソフトバンク)がいて、サードは村田修一さん(現巨人)、ショートは石井琢朗さん。この中に割って入るには、ものすごく壁が高いなと感じました。

二宮: 石井琢朗さんもゴールデングラブ賞を4度獲得している守備の名手です。勉強になる点も多かったのでは?
藤田: プロ入りして同じポジションでノックを受けさせてもらったのですが、後ろから見ていても本当にうまかったです。プロに入ってからショートになったのが信じられないくらいのレベルでした。

二宮: 彼はもともとピッチャーとしての入団。野手に転向したのは4年目からです。うまいと感じたのは具体的に、どの部分?
藤田: 下半身の使い方です。元ピッチャーだけあって、下半身が強い上に、うまく使えるから、どんな打球が飛んできても捕り方がいい。だから送球が絶対逸れないんです。宮本さんもそうでしたが、いい選手は送球ミスをしません。捕り方がいいから無理な投げ方にならない。それはプロに入って大いに学んだことですね。

二宮: 2年目以降、主にセカンドで出場機会を増やしていきますが、心の中ではショートへのこだわりがあったと?
藤田: 小学校からずっとショートでしたから、プロでも石井さんを抜いてレギュラーになりたい気持ちは強かったですね。出場はセカンドが多かったですけど、練習ではショートのポジションについていました。

二宮: 結局、石井さんは08年に自由契約となり、広島に移籍します。守備に関するアドバイスで印象に残っていることは?
藤田: 「打球を正面から見ず、横から見て捕れ」と言われました。普通は「打球の正面に入って捕れ」と教わるものですが、石井さんの場合は違いました。「人間、正面から飛んでくるものは距離感がつかみにくい。だから、真正面に入るのは良くない」と。

二宮: それはアマチュアで教わる守備の常識を覆す考え方ですね。
藤田: そうですね。石井さんの場合、打球が飛んできたら真っすぐに行かず、ちょっと右にずれて膨らむんです。打球の飛んでくる位置を左肩くらいにおいてボールを横から見るような体勢をつくっていました。そうすると打球との距離感がつかみやすくなり、うまく捕れる。石井さんの教えは今でも強く印象に残っています。

(最終回につづく)
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藤田一也(ふじた・かずや)プロフィール
1982年7月3日、徳島県鳴門市生まれ。鳴門第一高(現鳴門渦潮高)を経て、近畿大時代は関西学生野球リーグで首位打者2回、ショートのベストナインに4度輝く。05年にドラフト4巡目指名を受け、横浜に入団。セカンド、サード、ショートを守れる守備力を買われ、09年、10年には連続で100試合以上に出場する。12年6月に内村賢介とのトレードで楽天へ。徐々に先発機会を増やして同年は63試合ながら打率.308をマークすると、13年はセカンドのレギュラーに定着。自己最多の128試合に出場して打率.275、1本塁打、48打点でチームのリーグ優勝、日本一に貢献した。セカンドのベストナイン、ゴールデングラブ賞も受賞。175センチ、75キロ。右投左打。背番号「6」。








(構成:石田洋之)
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