桜とともに、今年もプロ野球が開幕した。
 7年ぶりに誕生したプレーイングマネジャー、中日・谷繁元信新監督の采配ぶりは? 楽天の高卒ルーキー・松井裕樹はどこまで通用するのか? 福岡ソフトバンク、大型補強の成否は? ニューヨーク・ヤンキースに移籍した田中将大は何勝できるのか?……今季の日米のプロ野球の見どころをあげていけば枚挙に暇がない。その中から、いくつかスカパー!で野球中継を観戦するにあたってのポイントを紹介したい。

 谷繁PM支えるベンチとベテラン

 セ・リーグは、どの評論家に聞いても巨人の3連覇を推す声が強い。野手では機動力の使える片岡治大、いぶし銀のベテラン井端弘和、新外国人のレスリー・アンダーソンを補強。唯一の弱点とみられていた先発投手陣には、広島から昨季10勝の大竹寛が加わった。原辰徳監督が「シーズンに向けて不安はない」と胸を張る陣容だ。

 巨人の独走に待ったをかけるとしたら、どのチームか。私は中日が不気味な存在だとみている。今季の中日は元監督の落合博満GMの下、谷繁元信選手兼任監督が誕生した。試合に出ながら指揮を執るプレーイングマネジャーは激務だ。直近では東京ヤクルトの古田敦也が選手兼任監督を務めたが、故障もあって2年間で出場は計46試合。監督に専念することが多かった。

 兼任監督の難しさを経験者である野村克也は次のように語る。
「大変なのは攻守の切り替え。守っていてカーンと手痛いホームランなんかを打たれるとキャッチャーの立場では悔いが残る。すぐに気持ちを切り替え、監督として味方の攻撃で采配を振るうのは難しかったですよ」

 野村はプレーイングマネジャーとして1973年に南海をリーグ優勝に導いた。彼をサポートしたのが元メジャーリーガーのドン・ブレイザーだ。野村はブレイザーとの間に2人だけのサインをつくり、試合中の采配を任せたこともあったという。こういった実体験を元に、野村は兼任監督成功の条件に「優秀なヘッドコーチ、助監督をつける」ことをあげる。

 今回、谷繁を補佐するのは森繁和ヘッドコーチだ。8年間で4度のリーグ優勝を果たした落合博満監督の下で強力投手陣をつくりあげ、先発投手の決定から継投にいたるまで一切を託された人物である。

 中日の強みは投手力にある。セットアッパー浅尾拓也の故障離脱は痛いが、変則サイド右腕の新人・又吉克樹らがブルペンに加わり、先行逃げ切りのゲームプランが組める。カギとなる継投は監督自らボールを受けており、判断はしやすいだろう。森もグラウンドの指揮官と連携をとって、ブルペンの準備などはスムーズに進められるはずだ。
 
 問題は野村が指摘していた「攻守の切り替え」である。攻撃に移った時、どのように谷繁を支えるのか。特に谷繁が打席に立ったり、走者として塁上にいる際には意思疎通が難しくなる。その点も落合GMは抜かりなく考えているようだ。今季から中日ベンチには辻発彦内野守備走塁コーチが復帰した。現役時代は言わずと知れた常勝西武の主力選手である。先の野村も「辻がいれば、中日は細かい野球をしてくるだろう」と話す。

 中日には野球をよく知っているベテランが多い。投手では球界最年長48歳の山本昌をはじめ、開幕投手を務めた川上憲伸がいる。森は「だいたい1週間に1試合は監督も(選手業を)休むことになるでしょう。そういう時には山本昌とかベテランを先発させて若いキャッチャーを育てるかたちにしたい」とプランを明かす。川上も「結果を残すことだけでなく、僕が若いキャッチャーと組んで育て監督をサポートするのも、ベテランピッチャーとしての役割」と自覚は十分だ。

 野手では中軸を担う和田一浩、内野の要となる荒木雅博に、巨人から小笠原道大も移籍してきた。小笠原はここ数年、絶不調に喘いだが、「下半身の使い方がしっかりしてきました。体の仕組みが正しい状態に戻ってきて、バランスを取り戻しつつある」と復活への手応えを感じている。ここ一番の代打として勝負強さを発揮すれば、相手ベンチには怖い存在となるはずだ。プレーイングマネジャーを補佐するコーチ陣とベテラン。この歯車がガッチリとかみ合った時、中日は打倒・巨人の一番手に躍り出るのではないか。

 楽天連覇のキーマンは6番打者

 巨人中心のセ・リーグと比較すると、パ・リーグは混戦が予想される。昨季の日本一、東北楽天は絶対的エースの田中将大が抜けた。昨季の田中はレギュラーシーズンで24勝0敗と無敵の強さを誇った。彼ひとりがつくった貯金24は、チーム全体の数字(貯金23)を上回る。

 仮に田中の24勝分を他の投手でカバーし、12勝12敗と五分の星を残したとする。これを昨季の成績にあてはめると、楽天は70勝71敗3分。ソフトバンクを下回り、Bクラスに転落する。机上の計算とはいえ、連覇への道は決して容易ではないことが分かるだろう。

 5球団の競合の末、獲得した高卒新人の松井は、オープン戦で防御率1.13の好成績を残し、開幕ローテーション入りを果たした。新戦力の台頭は明るい材料だが、昨季、日本シリーズMVPに輝いた美馬学が「ひとりで田中の穴を埋めることはできない」と口にしたように、チーム全体で戦力ダウンをどこまで食い止められるかがシーズンの行方を大きく左右する。

 チームを率いる星野仙一監督は「今年は殴り合いのケンカになる」と戦いぶりを予想する。つまり、点の取り合いが増えるというわけだ。昨季以上に打線の援護が求められる中、今季は新助っ人としてケビン・ユーキリスがやってきた。メジャーリーグ通算1053安打、150本塁打、618打点。残留したアンドリュー・ジョーンズとともに、4、5番コンビを組みそうだ。

 ユーキリスの強みは出塁率の高さにある。メジャー通算打率は.281ながら、出塁率は.381。いかに選球眼がいいかを物語っている。ジョーンズも昨季はリーグ最多の105個の四球を選んだ。塁上の走者を還すのがクリーンアップの本来の仕事だが、彼らはチャンスメイクもできる。

 となると、2人の後を打つ6番打者が打つか打たないか。この差が得点力に大きく影響を及ぼす。楽天打線の要ともいえる打順を任されそうなのが、生え抜きの枡田慎太郎だ。まだ規定打席に到達したシーズンはないが、昨季は夏場以降、6番に定着。打率.272、8本塁打、47打点をあげた。

「本音を言えば、僕もクリーンアップを打ちたいです。ただ、打順は僕が決めることではないので、もし6番を任せてもらえるなら、ぜひ、そこで打ちたい。打点を稼げるおいしい場面は好きなので、前の3人にはどんどん塁に出てもらいたいですね(笑)」

 キャンプで会った際、本人はヤル気満々だった。星野は枡田の打力を買っており、2年前には守備に不安があるにもかかわらず、ショートで起用したほど。「思い切って振れ。当てに行くな」と常々、発破をかけている。彼が6番で機能すれば、7番・松井稼頭央、8番・嶋基宏と打線の切れ目がなくなる。6番打者を固定できるか否か。これこそが楽天連覇のカギと言っても過言ではないだろう。

 マー君、予測不能なツーシーム

 海の向こうでは、ヤンキースに鳴り物入りで入団した田中将大のデビューが近づいている。現地時間4日、敵地でのトロント・ブルージェイズ戦で先発予定だ。年俸総額とポスティングシステムでの入札金を合わせて、ヤンキースが右腕に支払う金額は実に182億円。そのピッチングに日米問わず、熱い視線が注がれる。

 メジャーリーグと日本とでは、同じ野球でも異なるところがある。バッターのパワーはもちろん、ボールの質に、マウンドの硬さ……。審判も大物新人には「ナメられたくない」との思いから、ストライク・ボールの判定が辛くなる傾向がある。特にピッチングに直接関わるボールやマウンドの違いは厄介だ。過去、日本からやってきたピッチャーは総じて、この克服に頭を悩ませてきた。

 昨季、クローザーとしてワールドシリーズ制覇に貢献したボストン・レッドソックスの上原浩治も、「とにかくメジャーのボールは大きくて滑りますね。もうツルッツルです。マウンドはめちゃくちゃ硬いですよ。正直、コンクリートの上で投げているような感覚です。1回、スパイクが刺さったら、そこから動かせない。だから、踏み込みは浅くなるし、歩幅も狭まる。日本では“下半身を使って投げろ”と言われますが、その投げ方では投げられません」と苦労話を口にした。テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有も1年目は抜け球が多く、ランナーなしでもセットポジションで投げたり、試行錯誤していた。

 当然、こうした情報は田中もしっかり仕入れ、対策を考えているはずだ。楽天でチームメイトだった美馬は今年初め、自主トレ期間中に田中とキャッチボールをした。その際、目を丸くする出来事があったという。
「米国製のボールでツーシームを投げていたんですけど、右や左に浮いたり、沈んだりして予測がつかない。あれを打つのはきっと大変じゃないでしょうか」

 メジャーリーグではバッターの手元で小さく変化するボールを投げ、バットの芯を外して打ち取るスタイルが主流だ。受けるほうも変化の予測がつかない“魔球”となれば、まともに打ち返すのは至難の業である。日本では伸びのあるストレートでバッターからおもしろいように空振りを奪っていた田中だが、メジャー仕様にピッチングはマイナーチェンジすることだろう。J SPORTSでは田中の先発全試合を生中継する予定だ。登板ごとの進化の過程にも注目したい。

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・4月1日(火)〜3日(木)
◇パ・リーグ
東北楽天 × オリックス コボスタ宮城 (日テレプラス
福岡ソフトバンク × 北海道日本ハム ヤフオクドーム (1、2日はFOXスポーツ&エンターテイメント 3日はFOXムービープレミアム
千葉ロッテ × 埼玉西武 QVCマリン(1、2日はFOXムービープレミアム 3日はFOXスポーツ&エンターテイメント

◇セ・リーグ
阪神 × 中日 京セラドーム大阪(1日、3日はGAORA SPORTS 2日はスカイ・A sports+
広島 × 東京ヤクルト マツダスタジアム(J SPORTS1
横浜DeNA × 巨人 横浜スタジアム(TBSチャンネル2

・4月4日(金)〜6日(日)
◇パ・リーグ
千葉ロッテ × 北海道日本ハム QVCマリン(FOXスポーツ&エンターテイメント)   
東北楽天 × 福岡ソフトバンク コボスタ宮城(日テレプラス
オリックス × 埼玉西武 京セラドーム大阪(FOXムービープレミアム

◇セ・リーグ
東京ヤクルト × 阪神 神宮(フジテレビONE
中日 × 巨人 ナゴヤドーム(4日はフジテレビTWO 5、6日はTBSチャンネル1
広島 × 横浜DeNA マツダスタジアム(J SPORTS1

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