「引退します」
 そんなニュアンスの内容を4月1日に亀田興毅がブログに書きこんだ。
 その約10時間後に再度、ブログをアップし、「今日はエイプリルフールやから」と、引退表明は嘘であったとしたが、あまり笑えなかった。なぜならば、本当に亀田興毅の引退は近いように思えるからだ。
(写真:試合の中身よりもパフォーマンスやビッグマウスばかりが目立つ)
 一昨年、昨年と亀田興毅は計5試合を行って全勝、WBA世界バンタム級王座を防衛し続けたが、いずれの試合もパッとしなかった。

〇<判定3−0>vs.ノルディ・マナカネ(インドネシア/ランキング11位)=2012年4月4日、横浜アリーナ
〇<判定2−1>vs.ウーゴ・ルイス(メキシコ/暫定王者)=12年12月4日、大阪・ボディメーカーコロシアム
〇<判定2−1>vs. パノムルンレック・カイヤーンハーダオジム(タイ/ランキング8位)=13年4月7日、大阪・ボディメーカーコロシアム
〇<判定3−0>vs.ジョン・マーク・アポリナリオ(フィリピン/ランキング3位)=13年7月23日、東京ビッグサイト
〇<判定2−1>vs.孫正五(韓国/ランキング14位)=13年11月19日、韓国・済州島

 ウーゴ・ルイスを除く4選手は、王座に挑戦するようなレベルにはない。にもかかわらず、常に苦戦を強いられ、どちらが勝者でもおかしくない微妙な判定試合が続いた。

 ことに昨年11月の孫正五戦は、攻め込まれた末に10ラウンドにダウンを喫し、多くのファンが「亀田の負け」と目する中での勝利。また、対戦相手の孫は、この試合までに約1年のブランクを持ったロートルファイター。「敵地防衛戦」を大きく打ち出してもいたが、興行の主催は亀田プロモーションで、実はホームも同然だったのである。

 加えて孫正五戦の後に、WBAから同級スーパー王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)との指名試合を義務づけられると、まるで強者から逃げるように王座を返上。スーパーフライ級に転向し、「4階級制覇を目指す」と言い出す始末だ。8度の王座防衛という華々しい記録とは裏腹に、ファイト内容、行動には、まったく輝きがない。

 彼はもう疲れたのだと感じる。

 17歳でプロデビューから10年、さまざまなことがあった。
 周囲から非難され続けた横柄な振る舞い、初めて世界王者となったファン・ランダエタ(ベネズエラ)戦から始まる疑惑の判定(06年8月)、弟・大毅が内藤大助と闘った際のセコンドでの反則指示(07年10月)、JBC職員に対する暴行・恫喝疑惑(13年9月)、弟・大毅が負けてのIBF王座防衛騒動(13年12月)、JBCからの亀田ジム追放処分(14年2月)などなど……。

「身から出た錆び」が多いが、常に周囲から批判され続け、リング上での闘いも冴えないのだから疲れぬはずもない。まだ27歳と若いが、気持ちは、かなり摩耗しているのではないか。闘志を維持するのが難しい時期にきているように思う。

 次の試合で、WBAスーパーフライ級王者の河野公平(ワタナベ)への挑戦が実現し、そこで敗れれば、そのまま引退となる可能性も十分にある。

----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』(ともに汐文社)。最新刊は『運動能力アップのコツ』(汐文社)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


◎バックナンバーはこちらから