まずは4月15日に亡くなられたダニー石尾さんのご冥福を心よりお祈りいたします。ダニーさんはJリーグが開幕した1993年からカシマスタジアムのスタジアムDJとして、熱いシャウトで試合を盛り上げてくれました。あの慣れ親しんだダニーさんの声をスタジアムで聞けないのは残念で仕方ありません。ダニーさんは鹿島アントラーズを愛し、支え続けてくれました。独特の語り口調と力強い声は、時が経てば経つほど味が出てきていたように思います。今は、お疲れ様でしたと言いたいですね。
 リトルなでしこに必要な継続と進化

 さて、今月は嬉しいニュースもありました。リトルなでしこ(U−17女子日本代表)のU−17女子W杯優勝です。世代別のW杯で日本が優勝するのは男女を通じて史上初の快挙でした。選手の頑張りはもちろん、日本サッカー界をあげて、男女の育成年代の強化・整備を続けてきた成果とも言えるでしょう。

 女子サッカーの場合、小学校までは男子に交じってプレーするなど、環境はありますが、中学・高校になると、以前はガクンと受け皿が小さくなってしまっていました。しかし、現在は地域に女子クラブチームが増えつつあります。茨城県を例にとると、小学生から社会人までの選手が所属する「KASHIMA-LSC」という女子サッカークラブがあります。現在、INAC神戸レオネッサに所属する京川舞選手を輩出したクラブです。鹿島学園高校にも女子サッカー部が創部されました。このように、育成年代の女子選手がプレーできる環境が整備されてきたことも、日本女子サッカー躍進の大きな要因だと思います。

 今回、リトルなでしこはパスサッカーで世界を制しました。なでしこジャパンが11年ドイツW杯を制した時のサッカーと似ていましたね。しかし、諸外国もパスサッカーを取り入れ始め、なでしこも簡単には勝てない状況になっています。リトルなでしこの選手が今後も世界と渡り合っていくためには、パスサッカーをベースに、状況によって速攻と遅攻を使い分けられるようにならないといけません。パスを回して攻撃のかたちをつくるのか、縦に1本のパスを入れて一気に攻撃のギアを上げるのか。この使い分けを各選手が意識し、チームとして実践できるかが大事なポイントになるでしょう。

 また、今大会は圧倒的にボールを支配したことであまりクローズアップはされませんでしたが、日本の選手が外国人選手に当たり負けするシーンもありました。今後、外国人選手の体が出来上がってくると、フィジカル面の差はもっと広がるはず。その差を補うためには、さらなる技術の向上、判断のスピードアップが欠かせません。指導者、選手たちが共通の認識をもって、精進し続けてほしいですね。

 ブラジルW杯、ワントップ争いは大迫が優位

 男子サッカーでは日本代表が、7〜9日に国内組の選手のみを集めた候補合宿を行いました。アルベルト・ザッケローニ監督は、今回の合宿にはベテランを招集しませんでした。私は、その狙いのひとつとして、若手がベテランに萎縮してしまうことを防ぎたかったのだと見ています。伸び伸びとプレーさせることで、選手本来の能力を見極めたかったのでしょう。ベテランについては、これまでの視察の中である程度の情報を得ている。しかし、プレーの内容にムラがありがちな若い選手は目の前で実際に見てみないと、判断できないのです。

 また、他の選手と交わった時にどういうプレーをするのかも確かめたかったのでしょう。周囲の選手とのコミュニケーションが十分にとれている所属チームでは、高いパフォーマンスを発揮することができても、他チームの選手とプレーすると、途端にクオリティが下がるようでは、代表の試合に起用することは難しい。視察段階で得た情報と実際に指導して確かめた情報にどれくらいギャップがあるのか。ザッケローニ監督は、その見極めを重視したのだと思います。

 欧州組に目を移すと、MF本田圭佑(ACミラン)、MF香川真司(マンU)に従来の輝きが戻ってきたように感じます。ザックジャパンの牽引役である2人の復調は喜ばしいですね。プレーがうまくいっていない時もありましたが、それを越えつつあることで、メンタル的にも成長していると思います。

 1月にドイツへ渡ったFW大迫勇也(1860ミュンヘン)も進化を遂げているようです。出場13試合すべてに先発し、5ゴール2アシスト。ブンデスリーガ2部とはいえ、対戦相手のパワー、スピードはJリーグでは感じられないレベル。つまり、大迫は世界基準を常に感じることができています。これは代表でのワントップの座を争うFW柿谷曜一朗(C大阪)にはないアドバンテージです。その意味では、大迫の方が優位な立場にいるのではないでしょうか。

 上記のような国内組、海外組の状況を照らし合わせると、今回のW杯メンバーにサプライズはないと思います。闘莉王や大久保嘉人にしても、この時期まで代表に呼ばないということは、ザッケローニ監督の中で、彼らは“何か”が違うのでしょう。その“何か”がプレースタイルなのか、考え方なのかはわかりません。ザッケローニ監督にとって、ブラジルW杯は4年間の集大成です。一か八かの賭けより、今まで自分が起用してきた信頼できる選手を選ぶはずです。とは言っても、発表前のリーグ戦で負傷するなど想定外のケースが起こることもありますが……(笑)。

 いずれにしても、私はザッケローニ監督が選んだ23人を尊重したいと思います。メンバーが発表される5月12日が楽しみですね。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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