今季、ヤンキースに移籍した田中将大が日米の野球ファンを沸かせています。1年目からしっかりとローテーションに入り、現在、4試合に登板し、3勝0敗、防御率2.15。米国内での評価も、投げるたびに高くなっています。特筆すべきは球団新人最多記録の35奪三振に加えて、4試合で2つしか出していない四球の少なさです。いかに田中のピッチングが安定しているかが、一目でわかる数字ですね。
 好投が続いている最大の要因は、勝負球であるスプリットが高めに浮くことなく、低めに決まり始めているからです。正直、メジャーデビュー戦となったブルージェイズ戦は、このスプリットが高めに浮いていました。しかし、ここで田中の修正能力の高さが発揮されました。ポイントとなったのは、2試合目のオリオールズ戦。2回に3ランを打たれて以降、低めへの意識が強くなったと感じました。3試合目のカブス戦では、さらに意識したのでしょう。どの球種も、丁寧に低めに投げられていました。だからこそ、逆に言えば、高めのボールで空振りが取れるようになったのです。田中は左右のみならず、上下にもバッターを揺さぶることができているのです。

 スプリットが低めに決まり始めたことで、田中には打ち取るパターンが確立されつつあります。ファーストストライクを取って、早めに追い込み、スプリットで勝負する。あるいは、スプリットを意識させておいて、他の球種で勝負するのです。

 驚いたのは、ほとんど投げないカーブでも、簡単にストライクを取っていたことです。メジャー級のバッターなら、狙い球とは違う動きをしたボールでも、きちんと反応することができます。ところが、田中のカーブにまったく反応することなく、見逃したのです。それほど、バッターに考えさせている証拠。このまま順調にいけば、開幕前に予想した通り、15勝はいけるのではないかと思います。

 ただ、怖いのは疲労の蓄積です。周知のとおり、メジャーリーグのマウンドは日本よりも硬い。そのため、日本球界からメジャー入りしたほとんどのピッチャーは、順応することができなかったり、あるいは順応するためにフォームを変えたりしてきました。しかし、現在のところ、田中にフォームチェンジの様子は見られません。彼なりにマイナーチェンジはあるとは思いますが、大きくは変わってはいないのです。

 メジャーの硬いマウンドで、現在の下半身を使ったフォームで投げ続けた場合、おそらくシーズン後半になって疲労が蓄積されてくるのではないかと思うのです。その時に、どう対応していくのかが田中にとっては、本当の勝負かもしれません。

 復活の狼煙あがった松坂

 一方、待ちに待った復活の時を迎えているのが、松坂大輔(メッツ)です。2009年以降、故障が相次ぎ、11年には右ヒジを手術するなど、松坂は長いトンネルからなかなか脱出することができずに苦しんできたことは、周知の通りです。「もう、松坂は終わった」という声も少なくありませんでしたが、私は「必ず、復活してくれる」とずっと信じて、その日が来るのを待ち望んできました。

 今シーズン、メジャー昇格をかけてオープン戦で投げる松坂のピッチングを見て、「やっと来たな」と感じました。これまでの松坂は踏み出した左足が突っ張り、上半身だけで投げていました。そのため、全体的にボールが高く浮き、それを痛打されていました。しかし、今季の松坂には下半身に柔軟性が感じられ、ボールが低くコントロールされています。

 また、攻め方もシンプルになったという印象を受けます。これまではさまざまな球種を投げてカウントを悪くし、自らの首を絞めていましたが、今はストライク先行のピッチングを徹底しています。これも、好投の要因です。

 本人も「救援に専念するつもりはない」と語っていますが、ゆくゆくは先発ローテーションに入ってほしいですね。しかし、そのためには今の与えられたチャンスで、しっかりと結果を残すこと。先発に戻りたいという気持ちが強いとは思いますが、今は我慢の時です。しかし、それに関しては心配無用でしょう。なにしろ、5年間も我慢し続けてきたのですから。いよいよスタートした松坂の復活ロードに注目です!

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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