12日、ソフトボール女子1部リーグがナゴヤドームで開幕した。伊予銀行は、昨季1部で7勝を挙げているぺヤングと対戦。ルーキーの好救援、主砲の活躍もあり、9−4で勝利。4年ぶりの1部リーグで白星スタートを切った。初めて1部での采配となった酒井秀和監督に開幕戦を振り返ってもらい、手応えと今後の課題について訊いた。

「レベルの高いチームと試合ができるということで、ワクワクした気持ちでした」
 プロ野球・中日ドラゴンズの本拠地であるナゴヤドームでの開幕戦に、酒井監督は胸を躍らせていた。

 とはいえ、不安がなかったわけではない。ナゴヤドームで公式練習が行なわれた試合前日、選手たちは一様に緊張していたという。
「一挙手一投足、選手の動きにはいつものやわらかさがなかったですね。相当、緊張していたと思います」

 そこで指揮官は翌日、こう言って選手を送り出した。
「今日、こんなに素晴らしい舞台に立てるのは、昨年プレーオフで勝ったからこそ。そこまでの努力をしてきたからこそ得た権利だ。自信を持って、楽しんでやろう!」
 その言葉に、選手たちは落ち着きを取り戻し、そして気合いがみなぎった。

 開幕投手として先発に起用されたのは、3年目の木村久美投手だ。木村投手は「今年はエースとしてチームを牽引してほしい」という指揮官からの期待に応えるピッチングを見せた。丁寧にコースをつき、打たせて取るピッチングで、3回までぺヤング打線をゼロに抑えた。

 力投するエースを、打線も援護した。3回表、2死満塁で打席には4番・矢野輝美選手。このビッグチャンスを、チーム最年長の主砲は逃さなかった。走者一掃のタイムリー二塁打を放ち、伊予銀行が一挙3点を先制した。もちろん、ベンチは盛り上がったが、指揮官は冷静さを失わなかった。
「1部のバッターはみんないい。だから点の取り合いを予想していました。まだまだ攻撃の手を緩めてはいけない、という気持ちでしたね」

 酒井監督の予想は的中した。4回裏、ソロ、2ランと2本のホームランですぐさま追いつかれたのだ。5回表に、またも矢野選手のタイムリーで勝ち越したものの、その裏、木村投手は先頭打者に同点弾を打たれ、試合は再び振り出しに戻った。次打者に三塁打を打たれたところで、酒井監督は木村投手から、高卒ルーキー、18歳の庄司奈々投手にスイッチした。庄司投手は、後続を三振、三振、サードゴロに仕留めて、追加点を許さなかった。

 このルーキーの好投に応えるかのように、6回表、伊予銀行は5番・加藤文恵選手のソロホームランを皮切りに、一挙4点を挙げた。さらに7回表にも1点を追加。庄司選手も6、7回を無失点に抑え、勝利に大きく貢献した。
 初めての社会人リーグ、しかもトップリーグでの初登板にもかかわらず、最高のピッチングを見せたルーキーは試合後、こう答えている。
「自分はとにかくキャッチャーミットをめがけて投げることだけを考えていました。あとは先輩たちが、守ってくれるし、打ってくれると思っていたので」

 実は試合前、酒井監督はすでに庄司選手には「2番手でいくからな」ということを伝えていたという。
「庄司の持っている“がむしゃらさ”を買ったんです。普段からご飯が大好きで、食べっぷりもいい。野武士的な選手ですよ。開幕戦ではまだ抜けたボールもありましたが、真っ直ぐとチェンジアップを、きっちりと低めに投げていたことが良かったと思います」

 一方、エース木村について、酒井監督はこう評価している。
「本人も感じていたようですが、あまり調子はよくありませんでした。開幕に合わせて、十分に準備をしてきたつもりでしたが、やはり緊張感と『勝たなければいけない』というプレッシャーがあったんでしょうね。球速は普段通り出ていましたが、ボールにいつものキレがありませんでした。そのなかでも序盤は要所を締める粘りのピッチングを見せてくれたと思っています」
 エースとしての自覚が垣間見えたピッチングに、指揮官は十分に手応えをつかんだようだ。

 打線では矢野選手が4打数3安打4打点と、主砲としての役割をしっかりと果たした。
「矢野はメンタル、スキルともに強い選手ですね。練習もしっかりする選手です。実は、開幕前は、調子があまり上がってきていなかったんです。ところが、開幕した途端に、スイッチが入ったんでしょうね。打席に立つ姿からして違いました。ベンチから見ていても、自信をもってスイングしているのがわかりましたね。さすが、のひと言ですよ」
 指揮官は、大黒柱に全幅の信頼を寄せている。

 しかし、開幕戦で早くも浮上した課題もある。0−0で迎えた3回表、1死一、二塁の場面で2番・酒井梨花選手の内野安打で満塁とチャンスが広がった……と思った瞬間、二塁ランナーが三塁でのオーバーランでタッチアウトとなったのだ。その後、次打者が四球を選んで満塁とし、矢野選手のタイムリーが出て結果オーライとなったものの、相手に流れが傾いてもおかしくないプレーだったことは否めない。今後、こうした小さなミスが、命取りになることは想像に難くない。

「シーズンは長い。これから勝ったり、負けたりする中で、課題が出てくると思います。その度に、しっかりと検証をして、不足している部分を補い、修正しながら戦っていきたいと思います」
 伊予銀行の戦いはこれからである。


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