日本国内において、5月は「自転車月間」となっている。これ自体はあまり浸透していないのだが、実際この季節は自転車に乗るのがとても気持ちよく感じられ、便利さや快適さを実感するには最適だ。ぜひ、多くの方に自転車に乗って頂きたい。そんなこともあり、5月はサイクルロードレースも数多く開催されている。ヨーロッパはもちろんだが、国内でも大きなレースがいくつもあり、選手や関係者は大忙しだ。
(写真:昨年のTOJ東京ステージを制した西谷泰治選手)
 その中で最大規模なのが、「Tour of Japan」、通称「TOJ」である。そもそもこの「Tour of」の名称は、一周レースなど土地を巡るもの、複数日に渡って続くレースなどにつけられるのが通例。有名な「Tour de France」も英語にすると「Tour of France」で、フランス一周レースとして3週間に渡って開催される。その他、世界3大レースであるイタリア一周レースの「Giro de Italia」、スペイン一周レースの「Vuelta a Espania」は、英語にするとそれぞれ「Tour of Italy」、「Tour of Spain」となっている。だから「TOJ」も、本来は日本一周ということになるが、さすがにまだそこまでの規模では開催できず、大阪から始まり、、東京でフィナーレを迎える8日間という設定。それでも開催規模、日数は国内では最大である。

 競技レベルも世界のトッププロチームから日本の有力チームまでが出場し、今年も国内外16チームの選手たちによって争われる。しかし、海外勢が強すぎてなかなか国内選手が活躍しにくい状況なのは否定できない。過去16回を振り返ってみても、日本人が勝ったのは、各ステージではあるものの、個人総合優勝は10年前の第8回大会で福島晋一が成し遂げたのみ。世界との差を如実に示している。確かに、別府史之、新城幸也と世界で活躍できるロードレースの日本人選手は生まれてきた。しかし、その後に続く選手が出てきていないのが気になるところ。近年世界では、U23(23歳以下のカテゴリー)で有望な選手が沢山出現してきているだけに、国内選手の奮起を期待したいところだ。

 質の高いレベルを体感するチャンス

 選手育成のためには、質の高いレースを経験する環境が必要だとよく言われる。ロードレースはたしかに1人で走る強さが必要なのは言うまでもないが、その技術、戦略をレースの中で経験していくことも不可欠。そのレースのレベルが本場ヨーロッパのものに近ければ近いほど良いに越したことはない。ただ、ヨーロッパまで行って走れる選手は限られるかららこそ、やはり国内でそういう環境があることは重要なのだ。そういった意味でも、「TOJ」のような世界基準のレースは、日本人選手が成長するための貴重な経験の場となる。今回も、世界の一線で活躍するフィリッポ・ポッツアート(イタリア)のような選手が参戦する。その中で成績を残すのは難しいことであるのは重々理解しているが、一流選手と同じ集団で走ってこそ学べるものがあるはずだ。
(写真:オフィス街を駆け抜ける選手たち)

 また我々のように、このスポーツを伝える側にも責任がある。ただ結果を伝えるだけでは、日本人に馴染みの薄い海外選手の名前が並び、せいぜいその中で健闘した日本人選手を取り上げるだけで終わってしまう。もちろん、強いもの、速いものにスポットライトを当てるのがスポーツ報道の基本であり、日本のメディアであれば日本人選手の結果に重きを置くのも理解できる。だが、そのレースのレベルや見どころをいかに分りやすく伝えてくかも重要なのではないか。そこから生まれる面白さが伝わらないと、このスポーツが、この国で広がっていくことにつながらない。この貴重な機会を無駄にしないためにも、選手、関係者だけでなく、我々にも使命があるだろう。

 今年の「TOJ」は、今週末に堺をスタートし、美濃、南信州、富士山、伊豆、東京と計6つのステージを経て25日にフィナーレを迎える。ちなみに私も後半3戦は伝える現場MCとして参加する予定。街中で開催されるステージが多いので、サイクルロードレースに馴染みのない人にも見てもらう絶好のチャンス。ぜひ一度、会場でスピードや選手の息遣いを感じて欲しい。

>>Tour of Japan 公式サイト 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。昨年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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