僕の周りで、にわかにパラリンピックが盛り上がっている。その理由としてあげられるのは、まずはなんと言っても東京での開催決定が大きい。これに伴い、選手、関係者はもとより、一般の方々もオリンピックはもちろん、パラリンピックも意識するようになってきている。やはり目標があると、人は変わることができるのだということをあらためて認識させられる。もう一つは、トライアスロンが2016年のリオデジャネイロ大会から、パラリンピックの正式種目となることが決まっていること。他種目のパラリンピックアスリートや、それまでは趣味で取り組んできたハンディキャップを持つトライアスリートのモチベーションや動向が明らかに変化してきた。こうしたエネルギーを感じることができるのは、トライアスロン業界に身を置くものとして嬉しい限りだ。
 政府もパラリンピックには前向きな取り組みを見せている。いままでオリンピックは文部科学省、パラリンピックは厚生労働省と、管轄が分かれていて、連携がスムーズではなかった。それこそがパラスポーツが、なかなか健常者の大会に近づけない原因とも言われてきた。しかし、今月からは文科省管轄となった。つまり福祉の厚労省から、競技スポーツを所管する文科省へ移管した。これにより、競技スポーツ化が進めやすくなるのではないかと、業界では期待されている。

 しかし世界は既に日本の一歩も二歩も前を走っている。ロシアは2010年バンクーバーパラリンピックでは「金12、銀16、銅10」だったのだが、地元開催となった今年3月のソチ大会では「金30、銀28、銅22」と大躍進。どのメダルも3割以上を獲得するという占有ぶり。あまりの強さにほかの国がかすんでしまったほどだ。一方、日本は前回の「金3、銀3、銅5」から今回は「金3、銀1、銅2」。メダル総数は減ったものの、ロシア大躍進の中で健闘した方だと言えるだろう。

 求められる“新陳代謝”

 このロシアの強さの秘訣は徹底したスカウティングと強化にあった。「我々の走りも決して悪くなかったが、ロシアは若い選手が素晴らしい走りをしていた。組織立った力を感じる」とは日本のクロスカントリースキー関係者。地元開催ということもあり、国家として相当な力が入っていたことはもちろんだが、「彼らが本気でやりだすとこうなるのか」とあまりの強さに唖然とするしかなかったという。アイススレッジホッケー日本代表はバンクーバー大会で銀メダルを獲得したが、ソチ大会には出場すらできなかった。メンバーの平均年齢が40歳を超えていることに表されるように、日本のパラリンピック界が新陳代謝できずに苦しんでいる中で、若い選手を鍛えて送り込んできたロシア。このままでは差が開くばかりなのは明白である。しかし日本国内の人材不足は簡単に解決できる課題ではなく、このままでは2020年も厳しい戦いを強いられるであろう。

 それを解決するためには、スカウティングや強化など具体的なアクションが考えられる。しかしもっとも必要で、大切なのは障害者スポーツの「社会的なポジションを作る」ということではないだろうか。つまり社会の中で、パラリンピックを「カッコいい」「尊敬する」という空気感を作っていかなければ、それを目指す選手も生まれてこない。まだ競技スポーツとしての認知や、社会的な支援体制が未熟な状態では、選手は集まってこない。集まってこなければ、もちろん新たな人材が育つはずもない。そう、社会全体でパラリンピックを応援していくムーブメントを作っていかないと、個人レベルの頑張りだけではもはや届かないところまで来ているのである。

「東京では、単にメダルの数を争うのではなく、パラリンピックのメダル数も争って欲しい。障害者がスポーツに打ち込める環境があるのは、豊かな国の証。東京ではそんな豊かさを競い合って欲しい」
 これは、スポーツジャーナリストの乙武洋匡氏の言葉だが、メダル数が示す国力を表現している。2020年までに僕達はどんな向き合い方ができるのだろう。
 まだ6年、いやあと6年しかない。この機会を生かすための時間は多くない。

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。昨年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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