中日や東北楽天などで活躍した通算403本塁打の山崎武司と食事をしていて驚いた。彼は左手で箸を持つ。つまり左利きなのである。
 野球では投げるのも打つのも右。てっきり右利きかとばかり思っていた。


 本人によれば「実はもともと左利きなんです。でも、子どもの頃に右に直されたので、箸とハサミ以外は、右です」とのこと。

 ただし、プロに入ってすぐの頃、打てない日々が続き、ワラにもすがる思いで左打ちの練習をしたことがあるという。

 果たして結果は?
「全然、ダメでした(笑)」

 もし山崎が左打ちでも結果を出していたら、日本球界初の長距離砲のスイッチヒッターが誕生していたかもしれない。

 というのも、NPBにおけるスイッチヒッターはリードオフマンタイプが多い。元々は右打ちだったが、足をいかすためにスイッチに転向したという者がほとんどだ。
“赤い手袋”で一世を風靡したV9巨人の柴田勲、広島黄金期の切り込み隊長・高橋慶彦、広島で首位打者を2度獲得した正田耕三、ロッテで首位打者に1度、盗塁王に4度輝いた西村徳文などが、その代表格だろう。

 スイッチヒッターとして、唯一、30本台のホームランを記録したのは東北楽天の松井稼頭央ただひとり。日本人で両打ちのホームランキングは、ひとりもいない。

 翻ってメジャーリーグを見てみよう。近年、スイッチの長距離砲は思いつくだけでも、チッパー・ジョーンズ(元ブレーブス)、ランス・バークマン(元アストロズ)、マーク・テシェイラ、カルロス・ベルトラン(いずれもヤンキース)……。日米のこの違いは、いったいどこからくるのだろう。

 そう言えば、元ヤクルト監督の若松勉が、こう言っていた。「もう一度ユニホームを着る機会があればスラッガータイプのスイッチヒッターを育てたい」

 ぜひチャレンジしてもらいたいものである。

<この原稿は2014年2月24日号『週刊大衆』に掲載されたものです>


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