ヒクソン・グレイシーの息子クロン・グレイシーの総合格闘技デビュー戦は、日本で行われることに決まった。
 日時、対戦相手などの詳細は未定だが、その舞台は今秋、関東圏で開催される新イベント『REAL FIGHT CHAMPIONSHIP』となる。そのことが先日、ヒクロン、クロン同席の記者会見で発表されたのだ。
(写真:偉大な父を越えると誓うヒクソンの次男クロン)
『PRIDE1』(1997年10月11日、東京ドーム)のリングでヒクソンが高田延彦と対戦し、勝利した時、クロンは、まだ9歳の子どもだった。あれから約17年が経つ。クロンは25歳になり、現在、ロスアンジェルス空港の近くに自らの道場(クロン・グレイシー柔術アカデミー)を開き、多くの選手たちに柔術を指導しながら、自らもファイターとして活躍している。

 19歳の時にヒクソンから黒帯を授与され、数々の柔術大会に出場。昨年6月にはロスアンジェルスで開催された『Metamoris2』で、サブミッションルールの下、青木真也と対戦し、ギロチンチョークを決めて一本勝ち。その4カ月後の10月には、同じくサブミッションルールの世界大会『アブダビ・コンバット(ADCC World)2013』77キロ未満級に出場し、優勝も果たしている。

 満を持しての総合格闘技デビューというわけだ。
 そんなクロンと昨年秋に、ロスアンジェルスで会った。彼と、いろいろ話をしたが、その一部をお届けする。彼の父ヒクソンについての話だ。

――あなたは父ヒクソンから柔術の指導を受けてきた。マンツーマンでの指導は厳しかったのだろうか?
クロン: いや、そんなことはありません。それに、実際は2人だけで練習をしたことなんて、ほとんどありませんよ。

――そうなの?
クロン: ええ。マンツーマンで練習することなんて年に1度か2度です。もちろん、柔術についての話はよくしましたし、アドバイスももらいましたが、練習を常に一緒にしていたわけではありません。
 私は小さい頃に柔術を始めました。これはグレイシー家に生まれれば、誰もがそうすることです。でも父から、「世界一のファイターになれ」とか「プロのMMA(総合格闘技)ファイターになれ」と言われたことは1度もないんです。
 それどころか、「こういう練習のやり方をしなさい」とか、「これだけ長い時間、練習をしなさい」と言われたことさえないんです。私は柔術のトレーニングを父に「やれ」と言われてやってきたわけではありません。これまでに私は、自分の人生について、「こういう風に生きろ」と言われたことも教えられたこともないんです。

――自分で柔術家になることを選んだと?
クロン: はい。柔術に人生を捧げると決めたのは私自身。ですから、困った時も、壁にぶち当たった時も自分で解決してきました。そうだから柔術を続けてこられたし、これからもモチベーションを高く保って続けていけるんだと思います。

――でも周囲は、あなたのことを「ヒクソンの息子だ!」と特別な目で見ますね。
クロン: それはそうでしょう。よくわかっています。私は偉大なファイターであった父のことを尊敬していますし、周囲に対しての誇りでもあります。しかし、そのプレッシャーに押しつぶされるようなことはありません。
 実際、私はこれまでに試合でいくつも負けました。失敗も多く経験したんです。でも、それはよい経験でした。チャレンジをして成功したらうれしい。でも失敗することもあるんです。それは、すべて私の責任においてのことなのですから。
(写真:クロンにインタビューする筆者)

――父ヒクソンのことを、どう思っている?
クロン: 最高の父です。これまでに柔術や格闘技に限ったことではなく、いろいろな話をしてもらいました。でも、そこには「教えてくれた」ことと、「教えてくれないことで教えられた」ことがあるんですよ。
 自分で考え、自分で行動し、自分で成功を喜び、自分で失敗から学ぶ。自分の行動は自分で責任をとる。それらのことを、父は私たちに教えたかったんだと思います。おかげで私は、自分でモチベーションを生み、高めることが現在できています。家族の問題もいろいろとありましたが、いまは父にとても感謝しています。

 ヒクソンがファイターとして生きた頃から時代は流れた。格闘技の人気度も異なる。そんな現在、クロンは闘いを通して私たちに何を訴えかけてくれるのか? 再び日本に格闘技熱をもたらせてくれるのか?

 今秋に予定されているクロン・グレイシーの総合格闘技デビュー戦を楽しみに待ちたい。

撮影:真崎貴夫

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』(ともに汐文社)。最新刊は『運動能力アップのコツ』(汐文社)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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