今年10年目を迎えた交流戦は、巨人が2年ぶりに制しました。福岡ソフトバンク、オリックスとの優勝争いは、見応え十分でしたね。特に奇しくも最後に待っていたのが巨人とソフトバンクとの直接対決。1戦目はソフトバンクが制しましたが、2戦目は巨人が粘り勝ちで優勝しました。その巨人ですが、交流戦前はリーグ3位でしたが、広島、阪神を抜いて首位に浮上しました。一方、広島と阪神は苦しい戦いが強いられましたね。交流戦によって、明暗が分かれた3球団。果たして27日からのペナントレースはどうなるのでしょうか。
 まずは巨人ですが、開幕前は優勝候補の筆頭に挙げられていたにもかかわらず、交流戦に入るまでは投打がかみ合わない試合が少なくありませんでした。ですから、強いパ・リーグとの交流戦は果たして大丈夫かな、と思っていたというのが正直なところです。ところが、ふたを開けてみれば、16勝8敗。非常に落ち着いた戦い方をしたなという印象があります。

 エースの内海哲也を欠くなど、交流戦での巨人も決して本来の強さを見せつけられたわけではありませんでした。しかし、投手陣も打線も、全員で穴をカバーし合っていました。その代表例が、優勝を決めた22日のソフトバンク戦で先発した小山雄輝でしょう。交流戦で小山は3勝無敗、防御率1.33という好成績を残しました。

 0勝2敗、防御率3.86だった昨季の小山との一番の違いは、打ち取るパターンを構築することができたことにあったと思います。昨季の小山は、カウントを整えることに必死になっていました。例えば、得意のフォークを見逃され、焦ってストライクを取りにいったボールを痛打される。そんな姿がよく見受けられたのです。

 しかし、今季の小山は違います。カウントの中でフォークボールを有効に使うことができているのです。その理由は、低めへのコントロールの改善にあります。ボールが全体的に昨季と比べてボール1個分ほど低いのです。そのために甘いボールが減少し、さらにフォークボールとの見極めが難しくなっているのです。この小山の台頭は、内海不在の巨人にとっては、非常に大きかったはず。ペナントレースでの活躍も期待したいですね。

 さて、交流戦前、“鯉のぼりの季節”を越えて好調をキープしていたのが、広島でした。一時は巨人と4.5ゲーム差をつけるほどの勢いがありました。ところが、交流戦に入ってその勢いに、急ブレーキがかかってしまったのです。後半には9連敗と、まさに泥沼状態でした。いったい、どうしたというのでしょうか。

 交流戦に入ってからの広島の戦いを見ていて感じたのは、「なんだかよそゆきの試合をしているなぁ」ということです。セ・リーグのチームに対しての積極的な姿勢が、パ・リーグを相手にした途端に失われ、受け身に感じられました。そのために先行することができず、後手後手に回る試合が多かったのです。それが9連敗という結果を招いたのだと思います。

 しかし、最後には今季初の5連勝で交流戦を締めくくりました。ようやく自分たちの野球を思い出したのでしょう。エンジンがかかってきたところでのペナントレース再開ですから、巨人との首位争いが楽しみです。

 投打がかみ合わない理由

 一方、悪い流れのままに交流戦を終えてしまったのが、阪神です。セ・リーグの他の5球団にはそれぞれ交流戦で得たものがあったと思います。例えば、東京ヤクルトなら打線が活躍し、その怖さを相手にも植え付けることができました。横浜DeNAはユリエスキ・グリエルが加入したことで打線が活発になり、簡単には負けないということを印象付けました。そして中日は、本来の粘り勝つ野球を見せてくれましたね。

 しかし、阪神を見てみると、正直言って、Bクラスとの差が詰まっただけで、ほとんどいいところがないままに終わってしまったのです。勝ち星がなかなか積み上げることができなかった最大の要因は、戦ううえでのビジョンがないということに尽きます。だからこそ、投打がかみ合っていないのです。

 阪神の先発投手を見ていると、「最少失点に抑えよう」ではなく、「何が何でもゼロに抑えなければいけない」と、常に必死の形相で、危機迫ったピッチングをしています。その理由は、打線への信頼がないからでしょう。打線には「なんとか1点を取ってやろう」という気迫が見えません。チャンスや得点は、自分たちで獲得したものではなく、単に結果的に得ただけのもの。だからこそ、次につながらないのです。

 そして巨人とは対照的に、チーム全体でカバーし合うことができていません。例えば、9日のソフトバンク戦でのことです。0−5で迎えた6回裏、先頭の緒方凌介が四球で出塁し、次の上本博紀が右中間に二塁打を放ちました。俊足の緒方ですから、生還できる可能性は高かったと思います。しかし、緒方は二塁ベースを踏まなかったために、一度二塁に引き返してベースを踏み直したために、結果的に三塁にとどまったのです。結局、阪神はこの回、1点も奪うことができませんでした。すると、ベンチは緒方の懲罰交代を命じたのです。

 私から言わせてもらえば、確かに緒方は走塁ミスを犯しました。しかし、考えてみてください。走塁ミスをしたとはいえ、無死二、三塁のチャンスだったのです。にもかかわらず、大和、鳥谷敬、ゴメスと3者連続で凡打に終わりました。このことの方が問題ではないかと私は思うのです。それを無得点に終わったことが、緒方だけの責任のようにしてしまった首脳陣には、少し疑問を抱きました。

 現在、阪神はギリギリAクラスにとどまってはいますが、貯金は全部使い果たしてしまいました。4位・中日との差はわずか1ゲーム。そして、ペナントレース再開の1カード目が中日との3連戦です。今後の阪神を占う意味でも重要な試合となるだけに、注目のカードです。和田豊監督は「ペナントレースまでに、しっかりと立て直す」と語っていましたが、「今季の阪神はこうやって戦っていくんだ」というビジョンをまずは示してほしいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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