前期優勝は率直に言って想定以上の結果でした。開幕前の時点では、昨年からメンバーが入れ替わって先発ローテーションが固まらず、投手力に不安を抱えていたからです。しかし、フタを開けると先発に転向した入野貴大が9勝(2敗)、新外国人のクルズ・アヤラが6勝(1敗)をあげ、先発の2本柱ができました。
 先発が試合をつくれば、コントロールのいい新人の山本雅士と、球威のある河本ロバートにつなぎ、抑えの富永一が締めくくる。勝ちパターンの継投が生まれ、チーム防御率はリーグで断トツトップ(7月15日現在2.96)。「野球はピッチャー」とよく言われますが、まさに彼らの頑張りが大きな勝因です。

 そして、打線ではトップバッターの吉村旬平、3番の大谷真徳がともに打率3割台とコンスタントにヒットを放ち、核になってくれました。チーム盗塁数もリーグトップと、足を絡めて相手に嫌がられる打線ができているのではないかと感じています。

 もちろん、前期優勝はあくまでも我々にとって通過点。最終的な目標はアイランドリーグを2年連続で制し、BCリーグのチャンピオンを倒して独立リーグ日本一に立つことです。そのためには、さらなるレベルアップが欠かせません。

 投手陣の課題は無駄な四死球を減らすこと。防御率がトップにもかかわらず、与えた四死球数は2位の香川を上回りました。四球が多いとリズムが悪くなり、大量失点の原因にもなります。リーグチャンピオンシップ、グランドチャンピオンシップは短期決戦ですから、ひとつの四球が命取りになりかねません。

「打たれてピッチングを覚えろ」
 僕は常にピッチャーにはそう言い続けています。でも、いざマウンドに上がると、どうしても「打たれたくない」と思うのがピッチャーの性です。僕もピッチャーでしたから、その気持ちはよくわかります。ただ、どんなピッチャーでも常に調子良く抑えるのは不可能。マウンドで、あれこれ考えて自滅するくらいなら思い切ってバッターと勝負してほしいと感じています。結果、打たれたら「起用した監督のせい」と思ってくれても構いません。そのくらいの割り切りがなければ、四球癖は解消しないでしょう。

 特にこういった発想の転換をしてほしいのが左腕の宍戸勇希です。彼はストレートにも勢いがあり、1球1球だけをみれば、十分、リリーフの柱を任せられる素材の持ち主です。しかし、現状はコントロールに難があり、投げてみないとわかりません。制球に不安があるせいか、マウンド上でもフォームを気にしたりするしぐさが頻繁に見られます。ただし、それは試合中にする作業ではありません。登板の前にやるべきことをしっかり準備し、試合では、いい意味で開き直る。気持ちのコントロールさえできれば、ボールのコントロールも安定してくると僕はみています。

 投手陣の底上げを図るべく、7月は選手にいろいろな役割を経験させようと考えています。そのひとつが河本の先発器用です。福岡ソフトバンク3軍との後期開幕戦(7月5日)、入野、アヤラが関東遠征(対フューチャーズ)で登板していたこともあり、河本を先発でテストすることになりました。

 するとソフトバンクをわずか1安打に抑える完封勝利。2度目の先発となった高知戦(13日)も8回を無失点に封じ、2試合連続で好内容をみせています。前期、セットアッパーだった河本は、確かにボールに威力はあるものの、短いイニングをストレートで押し切ろうとするあまり、一本調子になる面がありました。ひとつ歯車が狂うと四球を出したり、痛打を浴びる欠点があったのです。

 しかし、先発で長いイニングを投げるとなると、全球、全力投球するわけにはいきません。それがいい意味での脱力を生んでいます。河本の場合、ストレートに加え、スライダー、カーブもいいものを持っています。先発では変化球で緩急をうまくつけ、カウントをとっていることが好投を生んだと言えますね。7月は河本に限らず、山本や浅田俊平大藤謙悟河野章休山藤桂といった若いピッチャーにも出番を与え、経験を積ませるつもりです。

 その中で個々の実力が上がり、互いに切磋琢磨してチーム力が向上するのが理想でしょう。現時点ではレギュラークラスと控えに若干、差がありますから、後期は前期に目立たなかった選手の奮起を望んでいます。

 ですから、あえて後期のキーマンには野手では井生広大、投手は福岡一成と、地元・池田高出身の大藤の名前をあげたいと思います。井生は昨季は66試合に出て、今季はセカンドのレギュラーの一番手と見られていました。しかし、ここまでは新人の増田大輝に出番を奪われるかたちになっています。増田はシーズン通じて試合に出るのは初めて。夏場に来て、ややバテも見られます。井生にとってはポジションを奪い返すチャンスでしょう。2人が高い次元で競争して、チームにいい刺激を与えてくれればと願っています。

 福岡は総じて予想以上の出来だった投手陣において唯一、期待を裏切った選手です。以前、紹介したように彼にはシーズン前、先発の構想を持っていました。オープン戦を経て、最終的にはリリーフで起用することになりましたが、ブルペンで戦力になると計算していました。

 ところが開幕以降、なかなか結果が出ず、結局、前期は13試合に投げて1勝1敗1セーブ、防御率6.14。物足りない成績となってしまいました。これは僕も経験があることですが、「今年はやれる」という自信が少し慢心につながったのかもしれません。本人は一生懸命、トレーニングをしているつもりでも、「これくらいやれば大丈夫」との油断があったのではないかと感じます。昨年と比較すると、下半身に粘りがなくキレを感じません。

 数字は正直です。前期の反省を踏まえ、この夏にどう取り組むか。今後の野球人生が長くなるか短くなるかは自分次第。そのことを自覚し、後期は悔いのないようにやりきってほしいと思います。

 後期は他の3チームが優勝を狙って目の色を変えてきます。前期は最下位の愛媛も外国人やNPB経験者を補強しており、手怖い相手になりました。前期優勝したからといって少しでも気を緩めれば一気にやられてしまうでしょう。前後期を制覇すれば、リーグチャンピオンシップでは1勝のアドバンテージが得られます。あくまでも連続優勝を狙い、取れる得点はきっちり取り、防げる失点はしっかり防ぐ。きっちりした野球を追求したいものです。

 前期はファンの皆さんの声援も力になり、優勝を勝ち取ることができました。後期も、リーグチャンピオンシップも、グランドチャンピオンシップまで皆さんとともに戦っていきたいと思っています。引き続き、応援をよろしくお願いします。


島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝をあげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜の38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、07年よりBCリーグ・信濃の投手コーチに。11年から徳島の投手コーチを経て、12年より監督に就任。 
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