「亀田興毅が窮地に立たされた」と報じられている。
 前回のコラムで「亀田興毅が、日本で試合を行えない状況を打破すべく、UNITED BOXING GYMへの移籍を決断した」との内容を書いた。これにより、日本人初の4階級制覇を賭けての、WBA世界スーパーフライ級王者・河野公平(ワタナベ)への挑戦が実現するかに思えた。だが、そうはならないようだ。
(写真:亀田一家には常にトラブルメーカーの印象が拭えない)
 日本ボクシングコミッション(JBC)は興毅のジム移籍に難色を示していた。理由は、亀田サイドが、このUNITED BOXING GYMを隠れ蓑にして、興行の実権を握ろうしていると考えたからだろう。そうなれば、ルールを無視し、ファンを欺く体質は何も変わらない、と。

 これを察したUNITED BOXING GYMは、JBCに提出した興毅のジム移籍届を既に取り下げている。ならば、と亀田サイドは別のジムへの移籍も模索したが、トラブルの多い彼らに手を差しのべる者はいなかった。これにより、水面下で実現に向けて話が進められていた「河野公平×亀田興毅戦」は流れる可能性が高い。

 一部には、こんな声がある。
「ボクシング関係者は、亀田家に対して、きつく当たり過ぎてはいないか。ここまで追い詰めなくてもよいのではないか」

 今回の一件、表面だけを見ると、そう感じる人もいるかもしれない。だが、そうだろうか? 亀田サイドへのペナルティは昨年12月の亀田大毅IBFタイトル問題だけによるものではないように思う。

 私は約7年前の事件が現在も忘れられない。
 2007年10月11日、有明コロシアムで行われたWBC世界フライ級タイトルマッチ、内藤大助と亀田大毅の一戦。それは、あまりにも酷いものだった。

 ボクシングテクニックの差で劣勢に追い込まれた大毅は、タックル、ローブロー、頭突きなどの反則を次々に繰り出す。それはボクシングのルールを逸脱した醜い行為だった。

「ヒジでええから目に入れろ」
「タマ打ってもかまへん」
 セコンドについていた彼の父・亀田史郎、そして兄の興毅が発する声も集音マイクに拾われていた。

 何をしたっていい、反則によって相手が大怪我を負おうと、そんなことは知ったこっちゃない。俺たちが勝てばいいんだ。まるで、そう言わんばかりの傍若無人な許せない振る舞いだった。これはボクシングに対する冒涜である。

 それ以降も、亀田サイドは身勝手な行動が目立った。そして、昨年12月の事件へと至るのである。

 ところで、果たして本当に、亀田は窮地に立たされているのだろうか?
 私は、そうでもないようにも思う。これは逆に、亀田サイドにとってチャンスなのではないか、と。

 亀田3兄弟に提案したい。
 これから“本当の闘い”をやってみてはどうだろうか、と。

 亀田3兄弟は、これまで姑息なマッチメーク、闘いを続けてきた。デビュー直後は、タイから弱い対戦相手を呼んで勝利を重ね、世界タイトルマッチにおいても、強者からは逃げ、勝てそうな相手だけを選ぶマッチメークを繰り返した。それでも実力が及ばず、ホームタウンディシジョン的な判定を、どれだけ活用してきたことか。特に興毅はそうだ。これまでに3階級を制してきたが、実力においては無冠に等しいのではないか。

 亀田サイドが、この見解を否とするのであれば、現在、彼らに実力を証明するチャンスが訪れている。
 日本で試合ができない。だが、リングに上がれないわけではない。この際、JBCと決別して海外のリングに活路を求めてみてはどうだろうか。三男・和毅は、すでに国外を主戦場にする意向を固めているようだ。ならば興毅、大毅も同じ道を歩めばよいではないか。

 海外のリングで闘うことになれば、いままでのように、自らが興行を取り仕切り、レフェリーやジャッジに圧力をかけることは、もうできないだろう。その状況下で、もし興毅が4階級制覇を成し遂げたならば、世間の亀田サイドに対する評価は大きく変わるはずだ。

 亀田3兄弟には今後、“本当の闘い”に挑んでもらいたい。

----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』(ともに汐文社)。最新刊は『運動能力アップのコツ』(汐文社)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


◎バックナンバーはこちらから