ブラジルW杯の熱狂から1カ月、欧州サッカーの2014−15シーズンが幕を開けた。主要リーグではエールディビジ(オランダ)、リーグ・アン(フランス)、プレミアリーグ(英国)がすでに開幕。ブンデスリーガ(ドイツ)は8月22日、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)は同23日、セリエA(イタリア)は同30日にシーズンがスタートする。

 多くのスターが加入したリーガ

 昨季のリーガを制したのは、闘将ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリードだった。今季はクラブ史上3度目の連覇を狙うが、そのハードルは極めて高い。というのも、リーガ奪還を目論むレアル・マドリードとバルセロナが、ともに大型補強を敢行したからだ。

 昨季のレアルは国内カップ戦優勝、そして欧州チャンピオンズリーグ(CL)で悲願の“デシマ”(10回目の優勝)を達成したものの、リーグ戦は3位に甘んじた。迎える今季は、クラブ初の3冠(リーグ、カップ、CL)がノルマだ。

 欧州王者はブラジルW杯得点王のコロンビア代表FWハメス・ロドリゲス、さらにはW杯を制したドイツ代表MFトニ・クロースを迎え入れた。ロドリゲスは華麗なドリブルで相手守備陣を切り崩し、正確なシュートでゴールを陥れる。クロースは精度の高いキックでチャンスを創出する。2人を獲得するために費やした金額は、約1億1000万ユーロ(約151億円)と言われている。トレブル(3冠)達成のためには、金に糸目はつけないということだ。

 彼らに加え、既存戦力のポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド、スペイン代表DFセルヒオ・ラモスらが揃う布陣は、“銀河系軍団”と呼ぶにふさわしい。ラウール・ゴンザレス、ジネディーヌ・ジダン、デビッド・ベッカムらを擁した“旧銀河系軍団”でもなし得なかったトレブルを視野に入れる。

 レアルの永遠のライバル・バルセロナは昨季、6季ぶりの無冠という屈辱のシーズンを送った。威信回復の一手として、バルサはウルグアイ代表FWルイス・スアレスをリバプールに移籍金約8100万ユーロ(約112億円)を支払って獲得した。W杯で“噛み付き”行為をはたらいた悪名高いストライカーだが、点取り屋としての実力は世界屈指。アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ、ブラジル代表FWネイマールとの競演は対戦相手の脅威だろう。

 余談だが、W杯期間中の新聞社整理部のMVPは朝日だろう。スアレスをレッドカードで欠いたウルグアイは決勝トーナメント1回戦でコロンビアに0対2と完敗を喫した。それを受け、6月30日付の見出しは「スアレス不在 歯応えなし」。これには笑った。

 話を進めよう。バルサはさらにクロアチア代表MFイバン・ラキティッチ、フランス代表DFジェレミー・マテューら即戦力を獲得した。これら新戦力がチームにフィットし、クラブOBでもあるルイス・エンリケ新監督の下でハードワークするスタイルを取り戻せば、レアルを退けての2季ぶりのリーグ優勝も見えてくる。

 上記のクラブ以外ではマラガが、ブラジルW杯でベスト16に入ったメキシコの守護神GKギジェルモ・オチョアを獲得した。他リーグからやってきたスターたちは、世界最高峰といわれるリーガで、果たして、どのような輝きを見せてくれるのか。

 “1強状態”のブンデス、群雄割拠のプレミア

 ブンデスリーガは、今季もバイエルン・ミュンヘンが独走する可能性が高い。GKマヌエル・ノイアー、MFバスティアン・シュバインシュタイガー、FWトーマス・ミュラーらW杯優勝メンバーを多く抱え、オランダ代表FWアリエン・ロッベン、フランス代表MFフランク・リベリーら各国のエース級も擁している。また就任2季目のジョゼップ・グアルディオラ監督の下、ポゼッション・サッカーの理解度はさらに高まっている。個と組織が融合したバイエルンを止められるチームは、ブンデスリーガには見当たらない。

 ノイアーについて少し書いておきたい。GKの安定性を示す数値のひとつにセーブ率がある。分母がセーブ機会数、分子がセーブ数だ。ブラジルW杯グループリーグから決勝までの7試合でノイアーが記録したセーブ率は86.2%。優勝を争ったアルゼンチンのGKセルヒオ・ロメロの82.6%、3位オランダのGKヤスパー・シレッセンの81.8%も、かなりのハイレベルだが、ノイアーを上回るものではなかった。

 ひとりだけ違う色のユニホームを着ているものの、そのプレーぶりはフィールド・プレーヤーのようですらあった。果敢にペナルティーエリアを飛び出して未然にピンチを防ぎ、速く、正確にボールをフィードし続けた。
 決勝トーナメント1回戦のアルジェリア戦では、裏に抜け出た相手FWをタッチライン際に追い込み、最後はスライディングでシュートをブロックするという離れ業を演じた。まさに“ノイアー劇場”だった。今季も彼のプレーからは目が離せない。

 そして、今季はライバルのボルシア・ドルトムントからポーランド代表FWロベルト・レバンドフスキを引き抜いた。昨季のリーグ得点王は、裏への抜け出し方が天下一品。抜け出した後は、高い決定力でGKとの1対1を制する。彼の加入によって、クラブ史上4度目のリーグ3連覇はより現実的になったと見ていいだろう。

“1強状態”のブンデスリーガと対照的なのがプレミアリーグだ。連覇を狙うマンチェスター・シティ(マンC)、チェルシー、リバプール、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッド(マンU)の戦力が伯仲している。その中で注目したいのは、昨季7位に沈んだマンUだ。新監督に招聘したルイス・ファン・ハールはブラジルW杯でオランダを3位に導いた名将。彼が名門をどのように再建するかに注目が集まる。

 復権に向けた補強も順調と言っていい。18歳のイングランド代表DFルーク・ショー、24歳のスペイン代表MFアンデル・エレーラといった逸材を獲得。これはクラブが中長期的な目線での強化を進めている証だろう。さらに人材不足の守備陣の拡充できれば、攻守にバランスのとれたチームづくりが進む。世界の強豪が集ったプレシーズン大会「インターナショナルチャンピオンズ杯」を制するなど、ファン・ハールの下でチーム状態は上向きになりつつある。マンUサポーターのみならず、世界中のサッカーファンが“赤い悪魔”の復活を待っている。

 日本人選手、ロシアW杯へ新たなスタート

 そして、今季も多くの日本人選手が欧州でのシーズンを送る。DF長友佑都はセリエAの名門インテルで4季目を迎える。昨季は攻撃力に磨きをかけ、5ゴールを挙げた。また、たびたびキャプテンマークを巻く機会もあり、チーム内で不動の地位を築きつつある。ブラジルW杯では日本の中心として臨んだものの、グループリーグを突破することはできなかった。責任感の強い長友は会見で涙を流し、「次(ロシアW杯)こそは結果を残したい」と誓った。そのためには、クラブでの成長が欠かせない。まずは中心選手としてインテルを5シーズンぶりのスクデット獲得に導くことを最大のミッションに掲げる。

 インテルの宿敵ACミランでは、MF本田圭佑がプレーする。名門のエースナンバーを背負う男はブラジルW杯で結果を残せず、「非常にみじめ。だけど、すべてを受け入れてまた進んで行かないといけない」と語っていた。プレシーズンでは途中出場が多く、ポジションは右ウィングとセントラルMFで起用された。

 しかし、右ウィングを務めるにはスピード不足は明らかで、フィリッポ・インザーギ新監督がシーズン中も本田を同位置で使うかはわからない。ただ、中央でプレーした時はスルーパスでチャンスを演出するなど、輝きを放つ時もあった。今後は中央でプレーする機会が巡ってきた時に、視野の広さや持ち前のキープ力でいかに違いを生み出せるかが、レギュラー定着へのカギとなる。

 ブンデスリーガでは11人の日本人選手がプレーする。DF内田篤人(シャルケ)、FW岡崎慎司(マインツ)、MF清武弘嗣、DF酒井宏樹(以上ハノーファー)、MF原口元気、MF細貝萌(以上ベルリン)、MF長谷部誠、MF乾貴士(以上フランクフルト)、FW大迫勇也、MF長澤和輝(以上ケルン)、DF酒井高徳(シュツットガルト)。日本人選手のいるチームが、バイエルンやドルトムントといった強豪の牙城をどう崩すのかに注目したい。

 そして、ブラジルW杯が終わった今、期待したいのは清武、原口らのロンドン五輪世代の台頭だ。ザックジャパンで不動の地位を掴んだロンドン世代はMF香川真司(マンU)とMF山口蛍(C大阪)くらいだった。ロンドン世代が本田や長友らを脅かすことが代表を活性化させる。「4年後、(代表で)自分が中心となれるようにやっていきたい」とは清武の言葉だ。若きサムライたちは互いに切磋琢磨し、殻を破ることができるか。

 プレミアリーグでは香川、DF吉田麻也(サウサンプトン)、FW宮市亮(アーセナル)が戦っている。ブラジルW杯に出場した吉田はレギュラーの位置を確保しつつあるが、香川の状況は楽観的ではない。香川はマンU2年目の昨季、出場機会が激減。試合勘の低下がW杯での不調につながった。

 プレシーズンではファン・ハール新監督に得意のトップ下に加え、ボランチでも適性を試されたが、いずれも序列は3番手と見られている。本人は残留の意思を示しているものの、移籍ウィンドーは8月末まで開いている。今後のチームの補強次第ではベンチ入りすら厳しくなる可能性も否定できない。日本の背番号10を背負う男だけに、その動向が注目される。

 他に、FWハーフナー・マイクがリーガ・エスパニョーラのコルドバへ、FW柿谷曜一朗がスイス・スーパーリーグのバーゼルに新天地を求めた。欧州サッカーは世界のスタンダードだ。スカパー!ではそんな欧州のサッカーシーンを多様なチャンネル体系で放送する。18年ロシアW杯へ向けて、世界のスタンダードをチェックしておきたい。

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【日本人選手所属チーム次節放送予定】(生中継のみ、すべて日本時間)
※放送スケジュールは変更の可能性があります。詳しくは上記バナーより、公式サイトまで

ドイツ・ブンデスリーガ
・第1節(8月23日)
ケルン × ハンブルガーSV 22:20〜
ヘルタ・ベルリン × ブレーメン 22:24〜
・同(8月24日)
パーダーボルン × マインツ 22:30〜

イングランド・プレミアリーグ
・第2節(8月23日)
サウザンプトン × ウェストブロムウィッチ 22:54〜
エヴァートン × アーセナル 25:30〜
・同(8月24日)
サンダーランド × マンチェスター・ユナイテッド 24:00〜

イタリア・セリエA
・第1節(8月31日)
ACミラン × ラツィオ 24:50〜
トリノ × インテル 27:35〜

スイス・スーパーリーグ
・第7節(8月31日)
バーゼル × ヤングボーイズ 23:00〜

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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