23年ぶりのリーグ優勝を目指す広島にとっては、大きな痛手である。
 8月9日の阪神戦で4番のブラッド・エルドレッドがスタメン落ちした。今季、これで3度目のスタメン落ちだが、不振が理由での措置は今回が初めてだ。
 前日は4打席連続三振。しかも、この日の先発が苦手の能見篤史とあっては無理もない。


 果たしてエルドレッドは立ち直れるのか。セ・リーグの優勝争いを占う上で、これは大きなテーマである。

 前半戦のエルドレッドの活躍は素晴らしかった。開幕6戦目から4番に座り、当たるを幸いとばかりに打ちまくった。
 前半の貯金がモノを言って、現在(8月14日)も、ホームラン(33本)と打点(91)部門のトップを走るが、一時は打率も3割を超えていた。それが今では2割6分2厘まで急降下した。

 昨季までのエルドレッドはホームランか三振かの典型的な一発屋だった。途轍もなく打球を飛ばす一方で、調子を崩すと“大型扇風機”に早変わりした。

 それが今季は、フォームに“ため”ができるようになって、安易にボール球に手を出さなくなった。強振しなくても、バットの芯にさえ当たれば、ボールは飛んでいく。そのコツを掴んだようだった。

 しかし、バッティングのコツとはうなぎのようなものらしい。掴んだと思ったら、もう逃げている。球宴後は、すっかり元の姿に戻っていた。

 ある在京球団のスコアラーは“エルドレッド対策”をこう披露した。
「実は攻め方は、前半戦とそう変わっていない。内角の厳しいところを突いて、最後は外の変化球。ただ前半戦、あれだけ打ちまくったものだから、後半に入ってからは、それをさらに徹底させた。内角なら、ボールひとつ分、厳しいところを突く。外のボールも、もうボール半個かひとつ分、振っても当たらないところに放る。彼は悪くなるとボールを追いかけるクセがある。今がまさに、そんな状況です」

 エルドレッドの後ろを打つキラ・カアイフエの不振も、スランプを誘発した要因のひとつだろう。キラが昨季並みの力を発揮していたら、前のエルドレッドと勝負せざるを得ない。ところがキラが精彩を欠いているため、相手投手は「ボール球を振ってくれれば儲けもの」という楽な気持ちでエルドレッドと相対することができる。

 エルドレッドの数字を調べてみて、気になる点がひとつある。目下、2冠の強打者でありながら、四球数は32と極めて少ないのだ。これは同僚でリーグトップの丸佳浩の半分以下だ。

 ホームランバッターの宿命として三振数が多い(142=リーグ最多)のは仕方ないとして、四球数が少ないのは、本当の意味で怖がられていない証拠である。通算868ホームランの王貞治は史上最多の通算2390四球を得ている。

 ボール球には手を出さない――。当たり前のことだが、これがスランプ克服のカギだろう。

<この原稿は『サンデー毎日』2014年8月31日号に掲載されたものです>


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