「小さな大打者」と言えば、通算2173安打の若松勉(元ヤクルト)とともに水島新司の漫画「あぶさん」の主人公・景浦安武のモデルとなった永淵洋三の名が真っ先に頭に浮かぶ。
 身長168センチの小柄ながら、近鉄時代の1969年には打率3割3分3厘で東映の張本勲と首位打者を分け合った。なお、162安打はこの年のパ・リーグの最多安打だった。
 パワーもあった。69年には20本、72年には22本と2度、20本以上のホームランをマークしている。


「あぶさん」のモデルとなったことでも分かるように、大酒飲みとしても知られた。二日酔いで打席に入ることなど日常茶飯事。一晩で日本酒を一升あけることも珍しくなかった。斗酒なお辞せず、というタイプだったのだ。

 しかし打席での集中力は凄みすら感じさせるほどだったという。語るのは西鉄・太平洋でマスクを被った宮寺勝利。
「酔いどれと聞いてはいたけど、打席では微塵も、そんなイメージは感じさせなかった。集中力があって、とにかくバッティングがしつこい。普通、どこか弱いコースがあるものなんですが、どこのコースでもついてくる。全く穴がないんです。打たれた記憶しか残っていませんね」

 こちらは大酒飲みではあるまい。しかしバッティングの巧さは永淵を彷彿とさせるものがある。埼玉西武のドラフト1位ルーキー森友哉だ。8月14日から16日にかけて、3試合連続ホームランを放った。これは高卒新人では68年の江島巧(元中日)以来、46年ぶり。プロ野球史上3人目の快挙だった。

 打球方向も1本目はレフト、2本目はライト、3本目はセンターと、きれいに打ち分けた。ミートが巧いことに加え、フォロースルーが大きいため飛距離が出る。広角ホームランなんてルーキーが狙ってできるものではない。

 この森、公称170センチだが「もう少し低いのでは」との声もある。平成の「小さな大打者」誕生か!?

<この原稿は2014年9月8日号『週刊大衆』に掲載されたものです>


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