かつて盗塁王と言えば、「足のスペシャリストたちの占有物」というのが相場だった。
 NPBのアンタッチャブル・レコードとも言える通算1065盗塁の福本豊(阪急)は1970年から13年連続、計13度、通算596盗塁の広瀬叔功(南海)は1961年から5年連続、計5度、通算579盗塁の柴田勲(巨人)は計6度、このタイトルに輝いている。


 近年では元阪神の赤星憲広が“走り屋”として鳴らした。01年から5年連続、計5度、このタイトルを手中にした。現在は巨人で活躍する片岡治大も西武時代、07年から4年連続、計4度、戴冠を果たしている。
 こう見ていけばわかるように、彼らは、いずれもリードオフマンだ。塁に出る、走る、そして本塁に還ってくる。これが最大の任務だった。

 ところが、このところ盗塁王のタイプに変化が見られるようになった。昨季、セ・リーグでこのタイトルを手にしたのは広島の丸佳浩。1、2番を打つこともあったが、本来は3番だ。

 今季もセ・リーグでは横浜DeNAで主に3番を務める梶谷隆幸が盗塁王争いを牽引している。
 昨季、プロ入り7年目でブレイクした梶谷はこのタイトルにふさわしい俊足の持ち主ではあるが、将来的にはトリプルスリー(打率3割以上、本塁打30本以上、盗塁30個以上)を狙える器だろう。

 もちろん過去にも、1976年の衣笠祥雄(広島)、90年の秋山幸二(西武)などクリーンアップヒッターが、このタイトルに輝いたことはある。しかし、それは、あくまでも一時的なものだった。

 それが、ここ1、2年は足だけではなく、単打も長打も打てるゼネラリストたちの指定席に成りつつある。昨季のパ・リーグの盗塁王・陽岱鋼(日本ハム)も今季は3番だ。足のスペシャリストたちは、いったいどこへ行ってしまったのか。

 セ・リーグでは大島洋平(中日)、片岡(巨人)、パ・リーグでは本多雄一(ソフトバンク)、金子侑司(西武)らの逆襲に期待したい。

<この原稿は2014年9月15日号『週刊大衆』に掲載された原稿を一部再構成したものです>


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