ここまでのところ、満足のいく試合内容を見せてくれていないアギーレ体制下の日本代表だが、感心させられていることもある。
 そのマッチメークに。
 新監督の就任初戦はウルグアイだった。次がベネズエラで、今度の金曜日がジャマイカ、そして来週はシンガポールでブラジルと戦うことになる。つまり、南米、南米、中米、南米と、メキシコ出身のアギーレ監督が熟知しているエリアの相手との試合が続くのである。
 言うまでもなく、サッカーは相手があるスポーツである。弱小チーム相手に素晴らしいプレーを披露できる選手が、強豪相手にも同じことができる保証はまったくない。実際、先のW杯での日本代表には、いままでできていたことができなくなってしまった選手が少なからず存在していた。

 まだ日本選手の特徴と能力を把握し切っていないアギーレ監督は、おそらく、メキシコで培った判断基準の物差しを持ち込もうとしている。つまりアジアを、あるいは欧州を相手にする日本ではなく、勝手知ったる中南米を相手にする日本選手を見て、どの程度やれるのか、どの程度伸びそうかを計ろうとしている。これはこれで非常に上手いやり方だと言っていい。

 まして、中南米勢は日本が過去のW杯で全敗を喫している“天敵”である。立て続けにこのエリアの相手と戦うことで、苦手意識が払拭できるかどうかはともかく、少なくとも未知を既知にしておくことはできる。これまた、明確な意図を感じさせるマッチメークぶりである。

 ブラジル戦が行われるのがシンガポールだというのも、とんでもなく画期的である。もちろん、スタジアムに足を運ぶ東南アジアの人々の大半は、カナリア色のユニホームが目当てだろうが、その相手が日本であっても興行が成立するというのは、いささか感慨深いものがある。敵地に乗り込んで戦うほどの経験値は得られないが、それでも、国内で花相撲を繰り返しているよりはずっといい。

 ただ明確な意図や新機軸を次々と打ち出してきている日本代表に比べると、Jの現状は寂しい。ドイツ代表とバイエルンM、スペイン代表とレアル・マドリード、イングランド代表とマンチェスターU――どちらがより潤沢な資金力を誇り、どちらがより多くの観客を集めるかを考えると、日本代表とJの関係は相当に歪である。そして、協会が新たな挑戦を始めたことによって、関係はさらに歪さを増していくことにもなる。

 今季、Jの中で最も積極的に動き、最も多くの注目を集めたセレッソは、いま、J2降格の危機にあえいでいる。だからああいう策は取るべきではない――そんな空気が広がることを、わたしは強く危惧している。

<この原稿は14年10月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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