いよいよ今日25日には2014年シーズンの頂点をかけて行われる日本シリーズが開幕します。今季、ペナントレースでAクラス入りし、クライマックスシリーズ(CS)を経て日本シリーズにコマを進めたのは、パ・リーグチャンピオンの福岡ソフトバンクと、リーグ2位ながらCSで広島、そしてリーグ3連覇を達成した巨人を破った阪神です。2球団の日本シリーズでの対戦は2003年以来。果たして、どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか。
 カギ握るCSで不安定だったリリーフ陣

 まずはソフトバンクですが、北海道日本ハムとのファイナルステージは最終戦までもつれる死闘を繰り広げました。決してチームは好調ではなかったにもかかわらず、突破することができたのは、ひとつは初戦と最終の第6戦に先発した大隣憲司の好投と、チームとしての開き直り、つまりは気持ちの切り替えができていたからだったと思います。

 大事な初戦をサヨナラ勝ちでモノにできたわけですから、本来であれば、そのまま波に乗ってもおかしくありませんでした。ところが、打線に活気がなく、正直ファイナルステージ全体を通しては日本ハムの勢いに押されていた感がありました。しかし、3勝3敗で並んで迎えた最終戦だけは、選手たちの表情がやわらかく、リラックスしていたように感じました。おそらく、泣いても笑っても勝負が決まるということで、いい意味で開き直っていたのではないでしょうか。

 今季のソフトバンクの強みは、誰もがリーダーシップをとれる点にあると思います。選手会長の松田宣浩はもちろんのこと、内川聖一や李大浩、また投手陣であったりと、常に誰かが自然とキャプテンシーを発揮できるという強みがあります。そのために、結束力が強いという印象があります。タイムリーが出ると、必ず打者にベンチから全員でエールを送るのも結束力の高さを表しています。常に全員で戦っているという意識がチームに浸透しているからにほかなりません。

 さて、日本シリーズでのキーマンはというと、投手陣においては大隣、そして五十嵐亮太、森唯斗のリリーフ陣です。大隣はCSでは初戦は7回2/3を投げて5安打2失点、第6戦では7回を6安打無失点と、安定感抜群でした。しかし、果たして日本シリーズを彼を柱として戦い抜くことができるかどうかは絶対とは言えません。そこでカギを握るのが、CSの後半で不安定だったリリーフ陣。後ろが安定することで、大隣を含めた先発陣も安心して投げることができるので、力を発揮しやすい環境を整えることができます。

 一方、打線のキーマンはというと、主砲である李です。阪神はどちらかというと、誰かひとりを徹底的にマークするという戦略が得意ではありませんので、それこそ李の前後を打つ内川や松田の状態が良ければ、一気に大量点ということも十分にあり得ると思います。

 さて、秋山幸二監督がファイナルステージを前にして、今季限りでの退任を発表しました。正直、ファイナルステージでは発表直後ということもあり、多少の影響があったのではないかと思います。最終戦までもつれた原因のひとつとも言えなくはないのではないでしょうか。しかし、選手たちも心の整理はできているはずですから、日本シリーズではプレッシャーというよりも、発奮材料としてプラスに働くのではないかと思います。

 藤浪がもたらした巨人4タテの勢い

 29年ぶりの日本一を目指す阪神ですが、CSでの戦いはファーストステージ、ファイナルステージを通して、見事の一語に尽きます。ポストシーズンに入ってから未だ無敗、しかも巨人を東京ドームで4タテしたのですから、勢いがありますね。巨人を相手にまったく後手に回ることがなく、常に先手をいっていた戦い方も素晴らしかったと思います。

 この怒涛の勢いをもたらした最初のきっかけとなったのは、ファイナルステージ初戦に先発した藤浪晋太郎にあったと思います。巨人としてはメッセンジャーを苦手としていましたから、初戦は絶対に勝ちたかったはずです。ところが、予想以上に藤浪の状態が良く、巨人には明らかに焦りが生じていました。そのためにボール球を簡単に振ってしまい、どんどん追い込まれていったのです。その初戦での流れのまま、最終戦までいったのではないかと思います。

 また、藤浪をはじめとする先発陣の好投は、すべて呉昇桓がいたからにほかなりません。彼の存在の大きさは、今さら語らずともおわかりですね。また、見事なリリーフを見せた高宮和也の活躍も忘れてはいけませんね。

 一方、打線はというと、確かに広島とのファーストステージでは2試合で1点と、沈黙状態でした。しかし一転、ファイナルでは打線が見事に機能し、確実に得点を入れていました。ファーストとファイナルの短い間で、何かを変えたわけではないと思います。もともと力のある打線ですから、ただ各自が自分のやるべきことをやった、それだけだったと思います。

 また、西岡剛がCS直前に復帰し、1番打者として先頭にいてくれることは、チームにとっては決して小さくはありません。中軸の鳥谷敬がCSで好調だったのも、西岡の存在が大きいと思います。シーズン中は「自分が何とかしなければいけない」という気持ちが強すぎて、バランスを崩してしまったところはあったと思うのです。しかし、西岡が復帰したCSでは自分の役割を明確に把握し、つなぐ意識が非常に高かった。だからこその活躍だったと思います。日本シリーズでも、同じような意識で戦うことができれば、打線に勢いをもたらすことでしょう。

 さて、日本シリーズでのポイントは、ソフトバンクの方は投手陣が不安定なだけに、打線がどれだけ早めに援護できるかにかかってくると思います。なかでも内川、中村晃がカギを握るとみています。投手陣の中では、やはり五十嵐の出来が非常に重要な意味合いをもつのではないでしょうか。

 阪神の方は、打線は好調を維持することと思いますので、投手陣の出来次第というところでしょう。特にもうひとつ調子が上がってきていない安藤優也と福原忍のベテラン2人。05年のリーグ優勝メンバーで、日本シリーズを経験しているだけに、彼らが復調すれば、投手陣を引っ張る存在になることでしょう。

 私の予想としては、初戦を甲子園で迎えられる阪神が有利と見ています。それこそ初戦を阪神が勝って勢いに乗れば、4勝2敗で阪神。逆に初戦をソフトバンクが制したならソフトバンクが4勝1敗で勝利すると思っています。いずれにせよ、初戦が非常に大事になります。ただ、両チームは戦い方がよく似ているだけに、第7戦までもつれる可能も十分に考えられます。その場合、地力の差でソフトバンクが優位かなと思います。いずれにしても、見応えのある戦いを期待しています。

佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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