ドラフト会議で香川からは寺田哲也(東京ヤクルト4位)、篠原慎平(巨人育成1位)の2投手が指名を受けました。担当コーチとして、この2人は何とかNPBに送りこみたいと思っていただけに、この結果に、まずはホッとしています。
 寺田は中継ぎに回った後期、一段とレベルアップしました。持ち味である回転の良いストレートがさらに良くなったことに加え、課題の変化球もフォークボールが決め球となりつつあります。前回、9月初めの時点では、フォークに関して「本人は、まだ自信がないようでサインが出ても首を振ってしまうところが残念」と書きましたが、その後はどんどん放るようになり、バッターの反応を見て手応えをつかんだのではないかと感じます。

 ストレートとフォーク、2つの武器ができたことがスカウトへの最終アピールとなったのでしょう。ヤクルトは投手力が課題のチームですから、チャンスは大いにあるはずです。むしろ、即戦力として期待されたのですから、フル回転するくらいの働きをしなくてはいけません。幸い、NPBのボールはアイランドリーグの使用球と比べれば質が高く、指へのかかり具合は良いはずです。今まで以上にストレートのキレは良くなるとみています。

 BCリーグ・新潟時代の監督でもあった高津臣吾さんが投手コーチを務めている点もプラスに働くでしょう。ぜひ、寺田には僕がヤクルトで達成できなかった初白星をつかんでほしいと願っています。

 そのためには当然のことながら、さらなる進化が求められます。フォーク、スライダー以外の変化球も、もっと精度を高めることが重要でしょう。そして、クイックの改善も課題になります。彼はしっかりタメをつくってボールに力を加えようとするあまり、走者がいる時もモーションを起こしてから投球までのタイムが遅くなりがちです。現状は1秒25から1秒3の中間あたり。1秒3以上かかってしまうと、NPBではどんどん盗塁を仕掛けられます。

 タメをしっかりつくりつつ、速く投げる。この2つの作業を両立させるには、たとえば軸足をもう少し曲げてみるといった工夫が必要です。本人も、この点は自覚していますから、ヤクルトでコーチの方にアドバイスをもらいながら克服してほしいと思います。

 篠原は右肩の故障で2年間公式戦の登板がなく、2年前に愛媛を退団した際には、どこからも獲得の意思がない状態でした。それでも本人は現役続行を希望し、トライアウトを受験したのです。実際にピッチングをみると、痛めた肩をかばってヘンな投げ方になっていました。今だから話せますが、その時、本人には左肩を開かないようにワンポイントアドバイスをしてみました。すると、いきなり140キロのストレートを放ったのです。

「能力はやはり高い。ちゃんとフォームを修正したら復活の余地はあると思います」
 そう西田真二監督に進言して、香川で面倒を見ることになりました。そして昨年、久々の復帰。とはいえ、まだ肩には不安があり、今年の初めまではNPBは考えられない状態でした。しかし、篠原は怠ることなくトレーニングを続け、向上心を失っていなかったのです。

「痛くないなら、もうかばうな。肩をしっかり使って投げよう」
 開幕前、こう告げると、篠原は見違えるように、いいボールを投げるようになりました。前期は抑え、後期は先発でも起用され、この1年で肩のスタミナはだいぶついたことでしょう。昨年がホップとすれば、今年はステップの年。来季は巨人でジャンプして支配下契約を勝ち取ってほしいですね。

 育成指名という結果が示す通り、変化球の精度、コントロールなど取り組むべきテーマは山積みです。フォームもまだ固まっておらず、トップの位置が安定しないため、ストレートひとつとっても、いいボールと悪いボールにバラツキがあります。常にトップの位置を高く保ち、角度をつけて、腕が伸び切った時にリリースすることが大事でしょう。

 ただし、焦って一気にすべてを変えると余計に持ち味も消してしまいます。ひとつひとつ着実にステップを踏む。この大切さは7年間、紆余曲折を経験した篠原自身がよくわかっているはず。育成選手は支配下選手以上にチャンスが限られてきます。わずかな機会も逃さないよう、練習で積み重ねてきたことを実戦ではすべて出し切り、勝負をかけるつもりで臨んでほしいですね。

 今回のドラフトでは寺田、篠原以外に徳島の入野貴大(東北楽天5位)、山本雅士(中日8位)と、すべてピッチャーが指名されました。入野は今季、先発に転向した結果、ムダな力が抜け、バランスが良くなりました。長いイニングを投げるべく、バッターをよく見て攻めどころ、抜きどころを使い分けられるようになり、投球術も身につけましたね。ひとつアドバイスをするなら、ヒジの使い方。もう少しヒジのしなりを使って放れると、球質がワンランク上がるはずです。バッターも球の出どころが見にくくなるでしょう。

 山本は1年目の昨季は練習生だったこともあり、初めて見たのはオフの高知でのウインターリーグでした。その時からフォームに躍動感があり、いい腕の振りをしていると感じました。体重移動もうまく、低めのボールに伸びがあります。21歳と若く、体を鍛えれば、近い将来、又吉克樹と元アイランドリーガー同士で中日のブルペンを支える存在になることも可能でしょう。ストレートのみならず、カットボールにも磨きをかけ、安定感を出すことが、今後の課題です。

 こうしてリーグからは4投手をNPBに送り出すことになり、彼らに続く素材を、トライアウトなどを通じて探しています。ただ、今年に関しては、NPBでも“不作”と言われ、逸材が少なかった影響か、選手集めは例年より苦戦中です。元NPBや外国人も補強してチーム編成をすることになるでしょう。

 すぐにNPBに行ける選手が出てこないなら、3年くらいかけてドラフト指名を受けるような原石を発掘したいものです。このリーグで通用するかどうか、といった短期的な視点ではなく、「もしかしたら化けるかもしれない」という観点でトライアウトに受験する選手はチェックするつもりです。

 特にサウスポーや球に力のあるピッチャーは、ちょっとしたきっかけで変わる可能性があります。リーグ在籍7年で夢を叶えた篠原や入野のように、徐々にステップアップして指名を勝ち取れそうなピッチャーに、ひとりでも多く出会えることを楽しみにしています。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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