2015年のラグビーW杯イングランド大会まで、残り10カ月。初の決勝トーナメント(ベスト8)進出を狙う日本代表は着実にレベルアップを遂げている。この11月には、ニュージーランドの先住民族マオリ族の血を引く選手たちで構成される「マオリ・オールブラックス」を迎えて国内で強化試合を行った。マオリ・オールブラックスは正式な国の代表ではないが、世界6、7番目の実力を持つと言われる。世界ランキング11位(試合前)のジャパンからすれば、格上の相手だ。

 エディー・ジャパン、高き頂への挑戦

 そのマオリに対し、ジャパンは歴史的勝利を目前にしていた。7日の東京・秩父宮ラグビー場での第2戦。日本は0−15とビハインドを背負いながら、前半終了間際、WTB山田章仁(パナソニック)のトライで反撃を開始。後半、ジャパンは束になって相手を押し込む。

 7分には相手陣ゴール前でのスクラムで圧倒。マオリのスクラムが完全に崩れ、ペナルティトライが認められた。体格で劣るジャパンの選手たちが海外の強豪をスクラムで押し込むなんて、ちょっと前までは想像もできなかった。

 これで3点差に迫ると、日本の度重なるアタックに堪えきれず、マオリは自陣で反則を犯す。五郎丸が14分にPGを決めて15−15の同点。31分にも五郎丸が右中間からのPGを成功させて、ついに18−15と勝ち越した。

 金星までは、あとわずか。しかし、ジャパンはマイボールラインアウトの反則から相手に反撃の機会を与えてしまう。一気に攻め込まれると、ラインアウトから守りが整う前に大きく展開され、逆転トライを奪われた。残り3分でひっくり返され、18−20の敗戦。ただ、エディ・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が「セットピース(セットプレー)、アタックのシェイプ、ディフェンスも改善されてプラス面がたくさんあった」と収穫を口にした。確実に今後につながる敗戦だったと言えよう。

 その後、ジャパンはヨーロッパに渡り、ルーマニア(ランキング18位)、グルジア(同15位)と敵地で試合を行った。ルーマニア戦(15日)は、相手にスクラムで押し込まれてトライを奪われ、3−10とリードを許す展開だった。だが、速いパス回しで相手陣に迫り、反則を誘ってPGで得点を重ねる。結局、ノートライながら計6本のPGをFB五郎丸歩(ヤマハ発動機)が決めて、18−15で逆転勝ちを収めた。

「ベストな試合ではなかったし、シャープなプレーでもなかった」とジョーンズHCが振り返る内容ながら、結果はテストマッチ(国同士の公式試合)での連勝をジャパン史上最多の11に伸ばした。
「2年前は、このような試合は勝てなかった」
 指揮官のコメントはチームの進化を実感している様子だった。

 続くグルジア戦(23日)は24−35で敗れ、テストマッチの連勝はストップしたが、後半31分にWTBカーン・へスケス(宗像サニックス)、ロスタイムにはCTB立川理道(クボタ)のトライで追い上げをみせ、見せ場をつくった。ジョーンズHCも「シーズンを通じてテストマッチ10試合で9勝1敗というのは喜んでよい成績」と結果を肯定的にとらえている。

 ジョーンズHCは、ジャパンの現在地を山登りにたとえ、こう表現する。
「1000メートルまでは楽しいが、そこを超えると風も強くなり、地面は荒れ、足も疲れて冷たくなる。今、ジャパンは1000メートルを超えた地点にいる」

 エディー・ジャパンが目指すベスト8進出は、かなり高い頂だ。周知の通り、ジャパンはW杯で1991年のイングランド大会に1勝して以降、5大会連続で勝っていない。前回のニュージーランド大会も「2勝」を目標にしながら、結果は1分3敗に終わった。来年のW杯で予選プールで対戦するのは南アフリカ(ランキング2位)、サモア(10位)、スコットランド(8位)、米国(16位)。格上の相手を撃破して2位以内に入り、決勝トーナメントに進むには、ここからが本当の勝負になる。

 目を見張るNTTコムの躍進
  
「自分のチームにも戻っても、インターナショナルレベルということを意識してプレーしたい」(PR畠山健介、サントリー)
「所属チームに戻るが、もう1度見直して、学んだことを忘れずに来年の春、また集合したい」(五郎丸)
 今年の代表戦をすべて終了し、選手たちはW杯に向けてレベルアップを誓った。自らのフィジカル、スキルを向上させる舞台が、再開するトップリーグだ。本番での代表入りを狙う選手たちにとっては、チームの勝利を追求しつつ、個々の能力にも磨きをかけなくてはならない。

 トップリーグは昨季から方式が大きく変わっている。それまでは総当たりのリーグ戦で順位を決定し、上位4チームがプレーオフに進んでいた。だが、昨季からは2プール2ステージ制を採用。まず16チームを2プールに分け、ファーストステージ(プール内総当たりで各チーム7試合)を戦う。その成績に基づいて、各プールの上位4チーム同士、下位4チーム同士で再び組を分けてセカンドステージを行うのだ。

 セカンドステージでは、ファーストステージの勝ち点はリセットされるが、その順位に応じて勝ち点4〜1点のボーナスポイントが与えられ、成績に加算される。セカンドステージの上位プールの1〜4位がプレーオフに進出。上位プールの下位4チーム(5〜8位)と、下位プールの上位4チーム(9位〜12位)が日本選手権進出をかけたワイルドカードトーナメントに出場する。下位プールの下位4チームは地域リーグとの入れ替え戦や降格の対象となる(最下位は自動降格、その他3チームは入れ替え戦)。この方式の導入により、トップリーグでは「1チームあたりの試合数が増える」「セカンドステージでは、より実力の拮抗したチーム同士の対戦が続く」ことから、日本ラグビーの強化につながると目論んでいる。

 今季のトップリーグは既にファーストステージが終了し、プレーオフの4つの椅子を争うセカンドステージの上位プールには以下の8チームが勝ち上がった。

パナソニックワイルドナイツ(A組1位)
東芝ブレイブルーパス(同2位)
ヤマハ発動機ジュビロ(同3位)
NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(同4位)
神戸製鋼コベルコスティーラーズ(B組1位)
サントリーサンゴリアス(2位)
キャノンイーグルス(同3位)
トヨタ自動車ヴェルブリッツ(同4位)

 昨年の4強であるパナソニック、サントリー、神戸製鋼、東芝が順当に勝ち残ったが、目を見張るのがNTTコミュニケーションンズの躍進だ。昨季は13位で入れ替え戦に出場したチームは今季、大きな変貌を遂げた。

 今季から指揮を採るのはニュージーランド出身のロブ・ペニー。母国のカンタベリーを率いてチームを国内リーグ4連覇に導いた実績を誇る。彼の指導により、速い展開で相手陣内に攻め入るスタイルを磨き、ファーストステージではヤマハ発動機に逆転勝ち。セカンドステージ上位プール入りを果たし、リーグに新風を巻き起こした。

 その象徴とも言えるのが、No.8のアマナキ・レレィ・マフィだ。トンガ出身で花園大から今季、チームに加入した。強豪大出身ではないが、「本当にポテンシャルが高い。ボール運びが強く、どういった状況でも確実に運ぶ。最初の10分のプレーで非常に感銘を受けた」と代表のジョーンズHCの目に留まり、今回のマオリ戦、欧州遠征のメンバーに抜擢された。まさに注目度急上昇中のシンデレラ・ボーイだ。新人賞の有力候補である24歳が、強豪相手にどんなプレーを見せるか。

 ヤマハ発動機、初の4強入りへ

 また初の4強入りに執念を燃やすのがヤマハ発動機だ。07−08シーズンにサントリーをトップリーグ制覇に導いた清宮克幸監督が就任して4シーズン目。8位、6位、4位と順位を着実に上げてきた。このチームの強みはディフェンス力にある。ファーストステージで許したトライ数は最も少なく、失点113は神戸製鋼(106失点)に次いで2位だ。ファーストステージでは東芝を1トライに封じ、19−14で逃げ切った。

 このゲームでも活躍したのは代表FBの五郎丸だ。4本のPGと1つのコンバージョンを成功させ、マン・オブ・ザ・マッチにも輝いた。ファーストステージは77得点をあげ、通算1000得点(あと67点)も今季中に達成しそうな勢いだ。五郎丸の精度の高いキックがゴールに吸い込まれる回数が増えれば増えるほど、悲願達成が見えてくる。

 もちろん、ここ2シーズン、プレーオフの4枠を独占しているパナソニック、サントリー、神戸製鋼、東芝もセカンドステージでは、さらにチーム力を充実させてくるだろう。昨季、リーグ、日本選手権の2冠を達成したパナソニックは開幕戦で東芝に黒星を喫したものの、以降は6連勝。FWには稲垣啓太、堀江翔太、BKには田中史明、山田章仁など代表経験者が揃う。さらにオーストラリア代表のSOベリック・バーンズが昨季に続いて存在感をみせ、司令塔としてゲームをうまくコントロールする。

 好調なのは神戸製鋼だ。初の外国人指揮官ギャリー・ゴールドを迎え、ファーストステージは負けなしの6勝1分。スクラム、ラインアウトのセットプレーが強く、ルーキーのWTB山下楽平も俊足を飛ばして4試合連続トライをあげるなど、チームバランスがいい。

 サントリーも一昨季までリーグ連覇を果たした主力メンバーに、若手が台頭してきた。2年目のWTB中隆彰が6トライをあげ、日本人ではトップ。ジンバブエ人の父を持つFB松島幸太朗も、高い身体能力と巧みなステップで相手を置き去りにする。代表でもジョーンズHCの評価は高く、来年のW杯へジャパンの秘密兵器とも言える逸材だ。

 昨季、日本選手権準優勝の東芝も、ベテランのLO大野均、現代表主将のFLリーチ・マイケル、SO廣瀬俊朗とキャプテンシーに優れた選手が多い。2年目のSH小川高廣は83得点をあげ、ランキング1位。シーズン終盤の勝負どころへチーム力を結集してくるはずだ。

 4強の顔ぶれは今季も不変なのか。それとも、牙城を崩すチームが現れるのか。スカパー!とJ SPORTSではセカンドステージ、プレーオフの全試合で放送する。昨季以上に熾烈な展開が予想されるトップリーグを経て、イングランドW杯につながる戦いを望みたい。

 セカンドステージ以降、全試合放送決定!
 優勝争いと、W杯代表入りをかけた戦いは必見

↓放送スケジュールなど詳しくはバナーをクリック↓



【放送予定】( )内は放送局(クリックすると各局のサイトに飛びます)、時間は放送開始時刻

第1節
11月28日(金)
19:20〜 NTTコミュニケーションズvs.キヤノンJ SPORTS1
11月29日(土)
11:30〜 クボタvs.コカ・コーラ (BSスカパー!
11:30〜 豊田自動織機vs.NTTドコモJ SPORTS4
11:50〜 トヨタ自動車vs.パナソニックスカチャン3
11:50〜 近鉄vs.NECJ SPORTS1
13:50〜 サントリーvs.ヤマハ発動機J SPORTS4
13:55〜 神戸製鋼vs.東芝J SPORTS1
11月30日(日)
12:50〜 宗像サニックスvs.リコースカチャン3

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。


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