相思相愛の関係と見ていいだろう。東京ヤクルトからFA宣言した相川亮二の巨人移籍が決定した。
 巨人では来季、正捕手の阿部慎之助の一塁手コンバートが決まっており、その穴埋めとして即戦力の捕手を探していた。


 一方の相川も、ここ数年は故障や若手の中村悠平の台頭もあり、マスクをかぶる機会が減っていた。「横一線で勝負させてほしい」というのが彼の希望で、巨人・原沢敦球団代表兼GMからも、その言質を取りつけたようだ。

 とはいえ、巨人の正捕手候補の1番手は昨年のドラフト1位・小林誠司である。ルーキーイヤーの今季は63試合に出場し、打率こそ2割5分5厘ながら、「肩が強く、思い切ったリードをする」と日本代表の小久保裕紀監督に評価され、今秋の日米野球で「侍ジャパン」入りを果たした。

 来季、球団は小林に「ポスト阿部」としての活躍を期待しているようだが、捕手は年季がモノを言う。一人前になるには時間がかかる。加えてケガが多いポジションでもある。そこで保険と言っては失礼だが、プロ20年のキャリアを誇る相川に白羽の矢を立てたのは賢明な選択と言えよう。

 アテネ五輪や第1回、第3回WBCなど大舞台を経験しているにもかかわらず、地味な印象を受けるのは1度もベストナインに選ばれたことがないからである。

 相川が横浜でプロ入りしたのは1995年だが、当時はヤクルト・古田敦也の全盛期だった。その古田にライバル意識を燃やしていたのがチームの先輩・谷繁元信(現中日選手兼任監督)である。阪神時代の矢野輝弘も攻守両面で高い評価を受けていた。2007年以降のベストナインは阿部の独壇場。今季も含め8年連続で受賞している。

 さりとて、相川の評価が低かったわけではない。通算打率2割5分9厘は捕手としては及第点。守りも安定しており、これといった短所がない。監督としては使い勝手のいい選手と言えよう。

 FA権行使も08年オフ以来、今回が2度目だ。捕手が“売り手市場”なのは、一線級が少ないことに加え、次のような事情もある。
「キャッチャーは、いわばチームの頭脳。巨人からしたら、ヤクルトのピッチャーがどんな攻め方を指示されていたのか、その情報が欲しいわけです。ヘッドハンティング的な要素が強いと言っていいでしょう」(在京球団スコアラー)

 FA制度が導入されたのは93年オフだが、これまで田村藤夫(ロッテ−ダイエー)、中嶋聡(オリックス−西武)、谷繁(横浜−中日)、野口寿浩(阪神−横浜)、相川(横浜−ヤクルト)、橋本将(ロッテ−横浜)、藤井彰人(楽天−阪神)、細川亨(西武−ソフトバンク)、鶴岡一成(巨人−DeNA)、日高剛(オリックス−阪神)、山崎勝己(ソフトバンク−オリックス)、鶴岡慎也(日本ハム−ソフトバンク)と12人のキャッチャーが国内でチームを移っている。

 それでも2回の移籍は相川だけ。しっかりと、その恩恵に浴している。

<この原稿は2014年12月7日号『サンデー毎日』に掲載され原稿を一部修正したものです>


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