ファーストミットを持つ姿もだいぶ様になってきた。キャッチャーからファーストにコンバートされた巨人・阿部慎之助がキャンプ地の宮崎で、はつらつとした動きを披露している。


 昨季、阿部は首の故障もあって、大幅に成績を下げた。打率2割4分8厘、19本塁打、57打点。打率が2割5分を割ったのは、ルーキーイヤーの2001年以来だ。

 キャッチャーは激務である。昨季、ファーストを守った際には「体への負担が全然違った。キャッチャーをやるときの10分の1ぐらいしか(ファーストは)疲れない」と本音を口にしていた。

 幸い、昨季入団した巨人のキャッチャーとしては阿部以来、13年ぶりのドラフト1位・小林誠司に一本立ちの目処が立ちつつある。昨オフには東京ヤクルトからFA宣言したベテランの相川亮二を“保険”として獲得した。
 原辰徳監督は阿部に後願の憂いなくファーストに専念してもらいたい、と考えているようだ。

 3年連続でリーグ優勝を果たしたものの、昨季の巨人のチーム打率2割5分7厘は、リーグ5位。“振り向けばDeNA”という有り様だった。
 阿部の不振が打線を湿らせた。それが証拠に、昨季の巨人は8人のバッターが4番を務めた。規定打席以上で打率3割に達した者はおらず、打撃ベスト10には、ひとりも名を連ねることができなかった。

 阿部のキャリアハイは12年だ。主に4番に座り、打率3割4分、104打点で2冠王に輝いた。27本塁打はウラディミール・バレンティン(ヤクルト)の31本に次いで2位だった。
 原が口にしたように、この頃の巨人は、まさしく「阿部のチーム」だった。

 阿部は語ったものだ。
「僕にとって4番という打順は集中力を維持する上でもよかった。これまで下位を打っている時は、点差が開いたりすると集中力が切れる時もあった。
 でも4番は、そういうわけにはいかない。点差が開いても、最後の打席でヒットを打っておこうとか、次の日のためにボールをたくさん見ておこうとか。
 たとえ結果が出なくても、相手ピッチャーに1球でも多く投げさせれば、翌日以降、ウチに有利に働くんです」

 長きに渡って巨人の主軸を担った原は、4番の重要性を誰よりも知っている。阿部に求めているのは“不動の軸”の役割である。
 キャンプで阿部は打撃改造に取り組んでいる。グリップの位置を下げ、バットを立てた。まるで傘でも差しているかのような自然体だ。

 昨季、巨人はクライマックスシリーズ・ファイナルステージで阪神に4タテをくらった。スコアは1対4、2対5、2対4、4対8。阿部はホームランこそ1本放ったが、4試合通じて打率は1割2分5厘と散々だった。

 阿部の復活なくして、巨人の日本一奪回が有り得ないことだけは確かである。

<この原稿は『サンデー毎日』2015年2月22日号に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから