「バッター一本でも成功するのは大変なのに二刀流なんて……。私の本音は“ふざけんじゃないよ!”ですよ」
 憤懣やる方ない表情で、こう吐き捨てたのはノムさんこと野村克也である。今から2年前、大谷翔平の北海道日本ハム入りが決まった直後のことだ。


 さらにノムさんは続けた。「この世界を甘く見ない方がいい。彼のやり方を見ていると、ピッチャーもバッターも“挑戦することに意義がある”というだけに映る。成功させたいなら、できるだけ早く、ひとつに絞らせた方がいい。それが本人への本当の愛情ですよ」

 プロ入り2年目の昨季、大谷は日本プロ野球史上初めて「シーズン10勝・10本塁打」を達成した。
 周知のように同一シーズンで2ケタ勝利と2ケタ本塁打を達成した選手は、メジャーリーグでもベーブ・ルース(レッドソックス時代の1918年)しかいない。

 これにはノムさんも降参するしかなかったようだ。
<ピッチャーとしてもバッターとしても10年にひとりの素材を持っている選手など、プロ野球80年の歴史でははじめてだろう。少なくとも私は見たことがない。
 加えて大谷は、応援したくなるような雰囲気を持っている。若く、しかも天性に恵まれているのに謙虚。自惚れたところは見られない。ぜひとも、誰もつくったことのない記録を残してほしい。
 長年プロ野球を見てきたせいで、近年はワクワクドキドキすることはほとんどなかったが、老い先短い人生に、新たな楽しみが生まれたことをうれしく思う>(『強打者列伝』角川ONEテーマ21)

「ふざけんじゃないよ!」とのノムさんの怒りは、いったいどこへ消えてしまったのか。球界きっての知将をして、いわば「見る目がなかった」と言わしめたようなものだから、大谷のスケール感には脱帽せざるを得ない。
 ちなみにルースは18年、13勝、11本塁打を記録している。今季は最低でも、この数字をクリアしてもらいたいものだ。

 大谷に期待するのはノムさんだけではない。ミスタータイガースの掛布雅之も、絶賛していた。
「過去に20年や30年、あるいは50年にひとりと言われた選手は何人か知っています。清原和博や松井秀喜がそうでしょう。しかし大谷のようなタイプはいなかった。ある意味、(プロ野球創設後)“80年にひとりの選手”と言っても過言ではないでしょう」

 前人未踏の挑戦は続く。


<この原稿は2015年2月20日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>


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