2015年も球春間近――。間もなくフロリダ、アリゾナで春季キャンプが始まり、メジャーリーガーたちは開幕に向けて本格的な準備を開始する。
 2年連続でプレーオフ逸という屈辱を味わったヤンキースも、逆襲に向けて再スタートを切る。ただ、前評判は必ずしも芳しくない。チームの象徴だったデレク・ジーターも引退し、オフにも大掛かりな補強は行なわなかった。
(写真:A・ロッドの行くところすべてに人が集まる。歴史的ヒールの行方に視線が注がれる Photo By Gemini Keez)
 攻守ともに疑問点も多いチームは、かつての強さを取り戻せるか。プレーオフに返り咲くために必要なものはなにか。今回は4つの注目ポイントをピックアップし、ブロンクス・ボンバーズの見どころを掘り下げていきたい。

【A・ロッドを巡る冒険】

 禁止薬物使用で出場停止処分を受けたアレックス・ロドリゲスが、1年のブランクを経て復帰してくる。このA・ロッドがどんなシーズンを過ごすかは、ヤンキースにとって、いやMLB全体でも2015年最大級の見どころだと言ってよい。

 ヤンキースは今オフにチェイス・ヘッドリー三塁手と4年間の延長契約を結び、DH候補としてもギャレット・ジョーンズを獲得した。A・ロッド抜きを想定したチームづくりを進めた感があり、出番は主に左投手相手のDHに限られそうだ。

 ただ、たとえそんな状況でも、ニュース価値の高さは変わらない。2月中にはチーム首脳陣と和解会談の場を設けたこと、本人が謝罪レターをリリースしたことが大きな話題になり、『ESPNマガジン』もA・ロッドを表紙に起用した。目玉選手不在のチーム内で、開幕後もダントツの注目選手であり続けるはずだ。

 長いブランク明け、しかも39歳で迎える今季にどの程度の成績を残し、ヤンキースは彼をどう扱うのか。ファンは歓声を送るのか、あるいはブーイングか。あと6本に迫ったウィリー・メイズの660本塁打に本拠地で並んでしまった場合、チームはどのような形で祝福するのか。ほとんど働けなかった場合、残り3年の6100万ドル契約を飲んででもバイアウトに動くのか。

 一挙一動がニュースになる風雲児に対する興味は尽きない。今季を通じて、どんなストーリーが展開されるのかを想像するのは不可能に違いのが実情である。

【田中の右肘】

 メジャーでの1年目前半はセンセーショナルな活躍で魅せた田中将大だったが、7月に右肘の靭帯部分断裂で失速した。手術を回避して迎える2年目は、いわば大事な右腕に爆弾を抱えたまま投げ続けることになる。
(写真:田中をはじめとする先発陣には不確定要素が多く、ジラルディ監督も気の抜けない日々が続きそうだ Photo By Gemini Keez)

 この田中、さらにはCCサバシア、マイケル・ピネダ、イバン・ノバと、ヤンキースの先発投手陣の大半は故障明け。そんな状況下で、田中が昨年6月中旬まで11勝1敗、防御率1.99と支配的な投球を続けた頃の姿を取り戻せば、ヤンキースにとっては計り知れないほど大きい。

 だが、一般的に肘への負担が大きいと言われるスプリッターへの依存傾向が強い投手だけに、いつ再発しても誰も驚きはしまい。
 痛みなく1年を過ごせれば、エース復活も期待できるのだろう。一方で早々と離脱して手術に踏み切る可能性も否定できず、その一球一球から目が離せない。そういった意味で、通常は新鮮味が薄れる2年目を迎えても「Ma-kun」はチーム内でA・ロッドに次ぐ話題選手であり続けるはずだ。

【新しいリーダーは?】

 これまでチームの象徴として君臨してきたジーターが引退し、クラブハウスは新時代を迎える。毎試合後、辛抱強くメディアに対応した“キャプテン”に代わり、チームリーダー、スポークスマン役は誰が務めるのか。
(写真:マッキャンはチーム内外からそのリーダーシップへの評価も高い Photo By Gemini Keez)

 ブレーブス時代から統率力に定評があったブライアン・マッキャン、8年契約の7年目を迎えるベテランのマーク・テシェイラ、球界を代表する好漢として知られるサバシア、ラテン系の選手たちからの人望が厚いカルロス・ベルトランといったあたりが候補。ただ、問題は上記の4人は昨季は揃って不振、故障に泣き、チーム内での存在感ももうひとつだったことだ。

 ニューヨーク2年目で持ち前の打撃は復調しそうなマッキャンが、新リーダーとして確立されていく可能性が高そう。加えてサバシアが投手陣の顔役、ベルトランがラティーノの兄貴分を務められれば、チームは安定する。

 とはいえ、リーダーと呼ばれるにはやはりフィールド上でも貢献し、尊敬を勝ち取る必要がある。“ジーター以降”の新体制を確かなものにするために、昨季は不振に泣いたベテランたちがプレーで存在感を誇示できるかが注目される。

【ブルペン再構築】

 守護神マリアーノ・リベラが引退してブルペンの弱体化が懸念されたが、昨季はデビッド・ロバートソンが39セーブを挙げて見事に穴埋めした。しかし、そのロバートソンはオフにホワイトソックスに移籍。今季はまた新たなクローザーを起用することになる。

 2014年に70試合で防御率1.40 とブレイクし、オールスターにも初出場したデリン・ベタンセスが候補1番手。昨季90イニングで135三振を奪う原動力となったベタンセス得意のスラーブは、リベラのカッター同様、終盤イニングの魔球として呼び物になっていくかもしれない。また、今オフに4年3600万ドルで新加入した豪速球左腕のアンドリュー・ミラーも、“抑えの切り札”が十分に務まるだけの球威と存在感を備えている。
(写真:ユニークな軌道を描くベタンセスのスラーブには一見の価値がある Photo By Gemini Keez)

 ただ、この2人もセットアッパーで成功できることは証明していても、クローザーとしての実績は皆無。しかも独特の雰囲気となるヤンキースタジアムの終盤イニングに、これまで通り力を出せるかどうかは未知数だ。

 特に今季は先発ローテーションの層の薄さが指摘されるだけに、ブルペンに頼らなければならないゲームも多いはず。ベタンセス、ミラーがどの順番で出てくるにせよ、終盤イニングに彼らが支配力を発揮できるかどうかが、2015年ヤンキースの成功を左右することになっても不思議はない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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