キャンプも終盤を迎え、どの球団も実戦が増えてきました。各球団の練習や試合を見て、目に留まった選手は投手では東京ヤクルトの由規、杉浦稔大、広島のクリス・ジョンソン。野手では北海道日本ハムの中田翔、西川遥輝です。
 ヤクルトの由規は右肩の故障で手術を受け、3年間1軍登板がありません。どのくらい戻っているか、ブルペンでのピッチングを注目していると、指にかかったボールの伸びはやはり一級品でした。オープン戦初戦の日本ハム戦(22日)でも2回無失点と結果を出し、復活での第一歩を踏み出したのではないでしょうか。

 僕も故障で長期離脱した経験がありますが、感覚をいかに取り戻すかが重要です。感覚と実際のボールが合致しなければ、いいボールは投げられません。由規は3年も1軍で投げていないのですから、なおさらでしょう。これからイニングを伸ばし、バッターと対戦する中で、どこまで良い感触を得られるかがポイントになります。

 昨年のドラフト1位右腕・杉浦は昨年のキャンプで見た時から新人王候補とみていました。故障のため、昨年はシーズン終盤に2勝(2敗)をあげただけでしたが、真っすぐも変化球も低めに安定して集められる点は彼の最大の武器です。

 以前も指摘したように、彼が悪い時はコントロールを気にし過ぎて、思い切りの良さが欠けてしまいます。年間通じて活躍するには調子の良くない時にいかに対処するか。バッターが思わず空振りしてしまうような豪速球や鋭い変化球を持っているわけではありませんから、いかにマウンドで修正する術を覚えるかが大事になります。

 由規と杉浦が先発ローテーションに入って勝ち星を重ねられれば、ヤクルトはおもしろい存在です。先発陣は小川泰弘、石川雅規、成瀬善久もいてコマが揃いますし、終盤のリリーフはトニー・バーネットと新外国人のローガン・オンドルセクが務めると聞いています。打線がいいだけに投手陣が整備されれば、2年連続最下位から一気に上位浮上する可能性は十分あるでしょう。

 広島の新助っ人左腕ジョンソンは球威があり、チェンジアップ、スライダー、カーブも非常にいい曲がり具合をしています。緩急がつけられるピッチャーはバッターにとって、かなり厄介です。昨年、一昨年と3Aながら連続2ケタ勝利をあげており、レベルの高さを感じさせます。

 広島は黒田博樹がメジャーリーグから戻ってきて、マエケン(前田健太)、大瀬良大地と先発3枚は計算が立ちます。そこに4番手としてジョンソンが加わり、野村祐輔、福井優也、九里亜蓮と先発陣は極めて強力です。

 マエケンと黒田はまだブルペンでは6割程度の出来でしたが、開幕にはきっちり照準を合わせてくるでしょう。黒田に関しては、100球をメドに中4日で登板していたメジャーリーグ方式から、中6日で長いイニングを投げる日本式に慣れるまでは少し時間が必要かもしれません。ただ、歯車がかみ合えば自ずと勝ち星は伸びていくことは間違いありません。

 その他、ピッチャーでは阪神の二神一人にブレイクの兆しを感じます。カーブを駆使して、ピッチングの幅が広がりました。もともとコントロールのいい選手だけに、ストレートをもっと低めに決めていければ、先発ローテーションの一角に入ってくるかもしれません。

 日本ハムの主砲・中田は体を絞り、スイングにキレが増したように映りました。西川は積極性が光り、トップバッターとしてチームを牽引しそうです。ポジションがサードになるのか、外野になるのか流動的ですが、昨季盗塁王を獲った足は他球団の脅威でしょう。

 今季は大引啓次(東京ヤクルト)、小谷野栄一(オリックス)が抜け、チームは戦力ダウンと見られています。ただ、攻撃面に関しては彼らの穴を埋められるのではないでしょうか。中田、陽岱鋼といった主力の状態が良く、田中賢介も復帰しました。ショートの中島拓也、新外国人のブランドン・レアードとコマは揃っています。先発が大谷頼みにならないよう、2番手、3番手がきちんと確立されれば、侮れないとみています。

 開幕1軍入りを目指す新人や若手にとって、ここからが最初の勝負どころです。主力級が開幕へ調子を上げていく中でいかに自分の力を出し切れるか。チャンスをつかんで戦力になれば、当然、チームが活性化します。そういった存在が何人出てくるかがペナントレースの行方を占うことになるはずです。

 最後に、僕も関わらせてもらっているBCリーグの石川ミリオンスターズに、あのフリオ・フランコが選手兼任監督としてやってきます。ロッテにいた彼と対戦したのは1995年。それから20年の時を経て、また、あの独特なバッティングフォームが日本で見られると思うと楽しみです。聞けば、フランコは日本で指導者になりたいと望んでいたとか。彼がどんな野球を見せてくれるのか、ぜひ皆さんも注目していてください。


佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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