第289回 “世紀の一戦”を制するのはどちらか 〜メイウェザー対パッキャオ展開、勝敗予想〜

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 史上空前のメガファイトまであと1カ月――。5月2日にラスベガスで行なわれるフロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオ戦へのカウントダウンが始まり、アメリカでもボクシングの枠を越えた報道合戦が続いている。
 PPVの購買数は史上最高を記録することが濃厚、両者のファイトマネーは揃って1億ドル突破が有力、そして定価1500〜10000ドルのチケットはブローカー間で異常な高値が付けられ……すでに破天荒なエピソードが次々と生まれ、興行的な意味では間違いなく歴史に刻まれる一戦となるだろう。
(写真:全世界待望の1戦はもう間近に迫っている Photo By Chris Farina/Top Rank)
 ここまでは浮世離れしたカネの話に話題が集中している感があるこの一戦。しかし、肝心の試合はどんな流れになり、そしてどちらが勝つのか。両者の戦力と近況を改めて考慮しつつ、ひと足早い予想を展開してみたい。

 全盛期はほぼ互角の戦力と目された両者だが、パッキャオが大苦戦を味わった宿敵ファン・マヌエル・マルケスとの3戦目(微妙な判定勝ち)、4戦目(痛烈なKO負け)以降はメイウェザー有利の予想が増えた感がある。

 マルケスとメイウェザーはタイプはやや違うものの、どちらも上質なカウンターパンチャー。加えて、無敗の5階級制覇王者は希代のディフェンスマスターでもある。そんな背景からか、ルー・ディベラ・プロモーターのように「メイウェザーが判定で圧勝するよ」と断言する者も業界内に少なくない。

 付け加えれば、両者が並んだ写真を見れば、メイウェザーの方が明らかに一回り大きい。パッキャオは現在でも実はスーパーライト級がベストウェイトで、試合前には増量してウェルター級の体重をつくるという。
(写真:メイウェザーがサイズで上回ることが響いてくる可能性も Photo By Chris Farina/Top Rank)

 サイズ、ディフェンスに優れたものが勝ち残るというのは、ボクシングに限らず、あらゆるスポーツの定説でもある。だとすれば、やはりメイウェザー有利と考えるのが妥当だろうか。

 ただ、メイウェザーが得意とはいえないサウスポースタイル、あらゆる角度から繰り出される高速連打、フルラウンド衰えないスタミナといったパッキャオ独特の武器は無敗王者にも厄介に思える。

 さらに言えば、ケンカ屋マルコス・マイダナと2度に渡って対戦した2014年のメイウェザーの動きは最高級には見えなかった。パッキャオにはマイダナほどの馬力、体躯はないものの、手数の多さ、アグレッシブな姿勢といった共通項目は備えている。そして、スピード、パンチの正確さではフィリピンの雄がマイダナを遥かに上回る。総合的に見て、依然としてユニークなパッキャオのスタイルは、メイウェザーにとってもアジャストメントの容易なものではないはずだ。リング上での適応を進めるのに、メキシコが誇る英雄マルケスですらも約3戦を必要としたことを忘れるべきではない。

 結論を言うと、筆者はこんな展開を予期している。序盤から決定的な被弾は許さないメイウェザーは、クリーンヒットの数でも勝りながら、完全に流れを手中に収めるには至らない。普段はスロースターター傾向のあるメイウェザーだが、この試合では逆に中盤あたりからパッキャオを持て余し始める。全体的なボクシングの質では38歳のアメリカ人王者がやや上回りながらも、後半を迎えても減らないパッキャオの手数の方に際どいラウンドが流れ始め……。

 論議を呼んだマルケス第3戦とまさに同じような展開で、微妙な判定勝負に持ち込まれる。そして、3人のジャッジの2人以上がパッキャオの精力的な動きの方を支持する結果は十分にあり得ると考えている。

 前述通り、2011年にマルケスに手こずった姿を見て、一般的にはメイウェザー有利の声が一気に増えた。しかし、それほどの苦戦の中でも結局は十分なポイントを奪ったパッキャオのスタイルに、クレバーなメイウェザーは逆に改めてやりにくさを感じたと筆者は考えている。そして、一見すると優勢の試合を失う可能性を熟知しているからこそ、数年前から1億ドル前後の報酬が約束されていた一戦にもメイウェザーは積極的ではなかったのではないか。

 こうして長々と述べてきたが、筆者も自身が思い描く展開予想に自信があるわけではない。メイウェザーの完封、パッキャオのストップ勝ちを含め、どんな流れになっても不思議はなく、そんな予想の難しさにも今回の一戦のおもしろさがある。
(写真:普段は敵同士のプロモーター、陣営が協力し、良いイベントを作り上げることができるか Photo By Chris Farina/Top Rank)

 いずれにしても、どちらが勝とうと、好試合になることを期待したい。普段はボクシングに興味がない多くの人たちも注目する一戦が大凡戦になれば、業界が被るダメージも大きい。ここで両雄が上質なパフォーマンスを見せることは、このスポーツの未来まで考えても大きな意味がある。

「3〜5年前の2人の全盛期に見たかった」という声も聞くが、両者ともに下り坂で、足が止まりがちであるがゆえに好ファイトになることもよくある話。結果が分からない接戦が続き、終盤ラウンドに世界中を震撼させるヤマ場が訪れる。そして、勝者にふさわしい選手がドラマチックな形で勝ち残る……そんなハリウッド映画のようなシーンが目撃できることを願いながら、5月2日の“世紀の一戦”を静かに待ちたいところである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY

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