「このサイズで、これだけの動きができる日本人選手がいるのか……」
 今季の米大学バスケットボールシーズン開幕直後、渡邊雄太を初めて観たとき、そのプレーの質に少なからず驚かされることになった。身長203cmという長身ながら、スムーズに左右に動き、シュート力、スキルまで備えている。そんなジャパニーズには、これまでほとんどお目にかかったことがなかったのだ。
(写真:希有な才能を備えた渡邊の成長に期待がかかる Photo By GW Athletics)
 その渡邊にとってのNCAAディヴィジョン1(1部)での1年目も、大詰めを迎えている。所属するジョージ・ワシントン大はレギュラーシーズンでは20勝11敗。A(アトランティック)10カンファレンス・トーナメントでは準々決勝敗退に終わり、目標にしていたNCAAトーナメント進出は叶わなかった。それでもNITトーナメントでは1回戦突破し、22日にはテンプル大との2回戦に臨む。
(注:NCAAトーナメントは通称“マーチ・マッドネス”と呼ばれる全国大会。NITはその大会に出られなかった中で32チームが選抜されて行なわれるトーナメント)

 アメリカの首都に本拠を置くこのチームで、渡邊も主力選手として活躍してきた。開幕当初はシックスマンとして起用され、シーズン途中からスタメン入り。平均22.2分で7.2得点、3.6リバウンドという数字だけをとれば特筆すべきではないように映るかもしれないが、1月10日まで6試合連続で2桁得点をマークした期間もあった。2年連続NCAAトーナメント進出を目指したミッドメジャーの強豪校の一員として、システムの中で残した実績だけに価値はある。

 今季を通じて渡邊の知名度も徐々に上がり、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズといった大手紙でも特集を組まれた。身長203cmの左利きフォワードは、日本人4人目のディヴィジョン1プレイヤーとして、1年目から確かな足跡を残してきたと言ってよい。
(写真:学業も優秀な渡邊は英会話も上達中。会見に登場する(一番左)機会もあった)

 そんな渡邊にももちろん課題は少なくない。才能は日本人としては飛び抜けていても、アメリカではフィジカルの強さ、パワーで見劣りする。それゆえに、現時点ではリバウンド、ディフェンスが弱点となっている感がある。

「僕は身長もあって、それなりにジャンプ力もあると思うんですけど、やはりスクリーンアウトしていても相手に押されるとリバウンドが獲れなくなってしまう。そこは、これからもずっと課題だと思います」

 今季開幕直後にそう語っていた通り、聡明な渡邊本人も自身に足りない部分は認識している。1月31日以降の13試合で4リバウンド以上が7戦と少しずつ向上したが、フォワードとしてリバウンド力はまだ物足りない。

 また、シーズンが進むにつれてマークが厳しくなるとともに、自信を持っていたはずのシューティングも不調に陥った。1月15日以降は14試合連続で1桁得点。「チーム最高のシューター」と同僚たちにも認められているにも関わらず、フィールドゴール成功率が30%台というのは不本意に違いない。

 この渡邊の停滞に足並みを合わせるように、ジョージ・ワシントン大も1月後半からスランプに陥った。最初の20戦で16勝4敗だったことを考えれば、“マーチ・マッドネス”に出られなかった今季は成功とは言い難い。主力に3、4年生が多いチームでは1年生の責任が問われることはなかったが、苦しい時期に同僚たちを助けられなかったのも事実である。

「自分の良い部分も悪い部分も見えました。(NCAAトーナメント出場は)すぐそこにあったけど、カンファレンスのゲームに入ってからはチームとしても個人としても成績が伸び悩んでしまった」

 3月13日にロード・アイランド大に敗れ、日本人男子としては初のNCAAトーナメント出場が絶望的になった直後、渡邊は悔しさを隠さなかった。
 注目度が高まり、より警戒されるとともに、壁にぶつかった。良い経験だった一方で、今の自分に足りないものを痛切に感じた1年目でもあったはずだ。
(写真:今後の課題はパワーアップ。オフは重要な季節になる Photo By GW Athletics)

「彼は素晴らしい選手になるとは思うが、まず20パウンドくらい体重を増やす必要がある。(今夏は)重要なオフシーズンになるだろうね。シュート力はあるし、センスも良い。欠けているのはパワーだ」
 NITトーナメント1回戦の解説を担当したダン・ダキチ氏のそんな言葉は、渡邊への現状を分かり易く表していると言える。

 課題はあっても、伸びしろの大きさは誰の目にも明らか。テレビ中継中に識者から名指しで長所、短所を指摘されること自体、渡邊の素質とポテンシャルが注目されている証明でもある。

 今季のチームの主体となった3年生が数多く残るジョージ・ワシントン大は、来季もNCAAトーナメント出場が狙えるチームであり続けるはず。そんな中で、マイク・ロネガンHCは2年目を迎える渡邊がチーム内でもトップクラスの選手に成長することを期待しているという。

「日本にいたときから、力が弱いというのは僕のずっと課題でした。アメリカに来てそれは余計に感じています」
 本人がそう述べる通り、アメリカでやっていく上で、ある程度の馬力とパワーはやはり必要だろう。滑らかさ、シュートタッチ、日本人離れしたスピードといった現在の長所を失わないまま、フィジカルなゲームの中でも当たり負けしない力強さを身に付けて欲しい。それが可能になったとしたら、数年後には日本の枠を越えるような選手に成長しているかもしれない。
(写真:渡邊もジョージ・ワシントン大は「仲が良くてやりやすいチーム」と語る。来季、NCAAトーナメント出場を果たせるか)

 まだカレッジでの先は長いだけに、今季中はNBAへの想いについて、あえて本人には尋ねなかった。しかし、何戦か続けてゲームを観る過程で、将来的に最高レベルでも通用する可能性を秘めた希有な才能だと信じられるようになった。同じように感じているのは筆者だけではないはずである。 

「日本に残っていたら、こういう経験は絶対できていない。身長、技術、身体能力のどの部分でも、日本にいたらより簡単にプレーできていると思うんですけど、 こっちで自分より凄い人たちと毎日一緒に練習して、試合している。今は壁に当たっているなと感じているんですけど、それも分かってここに来ています。これを乗り越えられたら、もっと良い選手になっていけるんだろうなと感じているんで、しっかり反省して次に繋げていきたいです」

 謙虚にそう語る渡邊の行く手には、明るい未来が広がっている。今後にどこまで成長し、後に続くものたちにどんな道を切り開いてくれるか。アメリカを舞台にした壮大な旅は、始まったばかりである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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