近年にない混戦が予想されるセ・リーグで、開幕前の評論家予想で広島、巨人とともに優勝候補に挙げられていたのが阪神だ。昨季はリーグ2位ながらクライマックスシリーズで巨人を4タテして日本シリーズに進出した。鳥谷敬、西岡剛、マット・マートン、マウロ・ゴメス、福留孝介といった好打者の揃った打線に、ランディ・メッセンジャー、藤浪晋太郎、能見篤史ら先発と抑えの呉昇桓を擁する戦力バランスの良さは評価が高い。10年ぶりのリーグ優勝を目指すチームの投手陣を束ねる中西清起コーチに、今季のプランやピッチャーの指導法について二宮清純が開幕前にインタビューした。その模様を4回にわたってお届けする。
(写真:加藤潔)
 秋山、筒井の課題

二宮: 昨季は2位ながら日本シリーズに進み、今季こそはリーグ優勝、日本一というファンの期待は大きくなっています。阪神はメッセンジャー、藤浪、能見、岩田稔と実力、実績を兼ね備えた先発が揃っている点は他球団にない強みではないでしょうか。
中西: 4枚揃っていることは確かですが、残りの5枚目、6枚目をどう探していくかが大事になってきます。6年目の秋山拓巳、5年目の岩本輝、2年目の岩貞裕太、岩崎優、そしてドラ1ルーキーの横山雄哉あたりでどれだけメドが立つか。

二宮: 愛媛出身の秋山投手には、地元のファンもそろそろ出てきてほしいとの声が多い。現状の課題は?
中西: ブルペンではいいボールを放るのですが、ゲームになると腕が振れない……。理想を追求するあまり、フォームを気にしすぎている面があります。でも、マウンドに立ったら、バッターとの勝負。フォームどうのこうのではなく、まずはバッターに向かっていくところを見せてほしいですね。

二宮: 高卒1年目に4勝した時には、そのままローテーションの一角に入るのではと感じました。ところが、以降は4年間でわずか1勝と伸び悩んでいる印象を受けます。
中西: 普通は1年目から2年目、2年目から3年目と徐々に良くなっていかなくてはいけないのですが、なかなか殻を破れない。それをどう破らせるかが、こちらの仕事であると思っています。

二宮: 同じ愛媛出身では左腕の筒井和也投手がいます。
中西: 彼は長いイニングを投げられる点で長いシーズンを戦う上で必要な戦力です。ただ、大きな欠点がある。キャンプではその修正に取り組んでいました。

二宮: その欠点とは?
中西: 前に踏み出す右ヒザの使い方です。すぐ正面を向いて突っ張ってしまう。マウンドの傾斜に沿って、右ヒザが低い位置で踏み込めるといいのですが、高い状態でボールを放るので、どうしても低めのゾーンに投げ切れない。モーションを起こして踏み出し、着地するまでの股関節も含めた下半身の全体の動きを本人も意識してやっています。

 「開き直るな。最善を尽くせ」

二宮: 今年の宜野座キャンプでは江夏豊さんが臨時コーチを務めました。どんな指導をされていましたか。
中西: エースとして長年君臨してきて、先発では、ずっと200〜300イニング放ってきた方ですから、まずは「もっと投げ込みをせなアカン」と。それからキャッチボールの重要性ですね。僕たちもこのことは選手たちに言い続けてきましたが、江夏さんから改めて言ってもらえると説得力がありました。

二宮: 江夏さんは広島時代、若手だった大野豊さんを一人前に育て上げる際、キャッチボールから厳しく指導しました。「キャッチボールがフォームやリリースポイントをチェックするための貴重な基礎練習」というのが持論です
中西: キャッチボールがあってブルペンがある、ブルペンがあってマウンドがある。その順序を怠ってはいけないんです。キャンプで江夏さんからは最初に「皆、キャッチボールがヘタやね」と言われました。「キャッチボールはただの肩ならしやない。フォームの修正や球種を試すための大事な練習や。キャッチボールを疎かにするヤツは絶対にいい結果は出ない」と話していましたね。

二宮: 江夏さんは遠投も重視していますよね。「バランスよく、いいボールが投げられているかを確かめるための基本」だと。
中西: 僕ら指導者がとやかく言っても、最終的には自分自身で指先の感覚をつかんでもらわなくてはいけない。キャッチボールや、その延長である遠投で失速しないボールを投げることで、感覚を身につけてほしいと思っています。

二宮: 阪神の投手陣を見ると、リリーフ陣で頼りになるサウスポーがまだいません。そのあたりも江夏さんからアドバイスはあったのでしょうか。
中西: 確かに7、8回で左が1枚いると助かりますからね。今回のキャンプには、江夏さんが来られるので、左ピッチャーを多めに連れてきました。育成出身の島本浩也は江夏さんの目に留まって、直接声をかけてもらっていましたから、そういうのが自信になってくれればいいですね。島本に、昨年、一昨年は先発に回した榎田大樹が中継ぎでフル回転してくれればと考えています。

二宮: ミーティングでは、江夏さんから「江夏の21球」の話題が出たそうですね。
中西: ええ。「どんなピンチでも開き直ることはあり得ない。なんとかするんだという気持ちで最善を尽くせ」と言われました。よくマウンドで「開き直れ」という言葉を使いますけど、最初から開き直ってしまっては勝負ができない。

二宮: 昨年の成績を振り返ると、意外なことに阪神のチーム防御率はリーグ5位(3.88)でした。これはどこに原因があったのでしょう。
中西: 交流戦まではリリーフ陣が固定できず、トータルの数字が悪くなってしまいましたが、その時期までに後半で使えるピッチャーを見極めていました。だから、1軍に登録したピッチャーの延べ人数は70名を超えているんです。今季は支配下のピッチャーが31名。彼ら全員が戦力だと僕はとらえています。シーズンを戦うにあたって、いかに適材適所で使うか。今季も前半の間は試しながらピッチャーを使っていくことになるでしょう。

二宮: 勝負どころは8月、9月ですから、先を見据えて起用プランを立てていくと?
中西: そうです。最初から最後まで12人、13人で1軍のピッチャーを固定して戦えれば理想ですが、現実的には難しい。先発にしても入れ替わりで5、6勝してくれるピッチャーが5人いれば、それだけで25〜30勝になりますから。

二宮: クローザーの呉昇桓は盤石なだけに、そこにつなぐセットアッパーが重要になってきます。安藤優也や福原忍と経験豊富なベテランもいますが、若手の台頭も望まれますね。
中西: ここは今季の大きなポイントになるでしょうね。安藤にしろ、福原にしろ、年齢的に厳しい場面が増えてきて、1イニング持たないケースも出てきています。今季は松田遼馬がセットアッパーとして一本立ちすることが欠かせないでしょう。

(第2回につづく)

中西清起(なかにし・きよおき)プロフィール>
1962年4月26日、高知県宿毛市出身。高知商高時代は甲子園に4度出場。3年春はエースとして全国制覇を果たす。社会人のリッカーを経て、ドラフト1位で84年に阪神に入団。2年目の85年にはリーグ最多の63試合に登板し、11勝3敗19セーブの成績でリーグ制覇、日本一に貢献。最優秀救援投手のタイトルを獲得する。その後は先発に転向し、89年に10勝をあげると、90年には開幕投手に。96年限りで引退後は解説者を務め、04年から投手コーチとして古巣に復帰する。高校の後輩である藤川球児(現カブス)をはじめ、強力リリーフ陣の整備に尽力し、09年からは2軍を担当。13年から再び1軍コーチとなった。現役時代の通算成績は477試合、63勝74敗75セーブ、防御率4.21。



(構成:石田洋之)


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