プロ野球は開幕から1か月。いいスタートを切れたチームがある一方、つまづいたチームもあります。僕が優勝予想したオリックスと広島はともに最下位。これは予想外の展開です。
 オリックスは故障者の多さが誤算でした。もともと右ヒジ手術の影響で出遅れていたエースの金子千尋のみならず、フタを開けてみれば抑えの平野佳寿、セットアッパーの佐藤達也も離脱してしまいました。野手もトニ・ブランコ、エステバン・ヘルマン、中島裕之が故障と、これだけ選手がいなくなれば、ベンチも手の打ちようがないでしょう。

 大補強で開幕前から優勝候補と注目されすぎた影響か、チーム全体が調整不足でシーズンに突入してしまった感も否めません。救いは、ケガをした助っ人の代役として、年俸1000万円でBCリーグ群馬から加入したフランシスコ・カラバイヨの活躍。群馬でアレックス・ラミレスからアドバイスを受け、より日本のピッチャーに適応したかたちで戻ってきました。

 ここにきて5連勝もあり、チーム状態は上向きつつあります。故障者が戻ってくるまで、いるメンバーで、いかに上位から離されないように戦うか。それが今後のポイントになるでしょう。

 広島は打線の弱さが響いています。主砲ブラッド・エルドレッドの不在は不安材料でしたが、ここまで攻撃が機能しないとは思いませんでした。球団はメジャーリーグでも実績のあるネイト・シアーホルツを緊急補強したものの、日本のピッチャーに慣れるには時間がかかりそうです。

 先発陣はリーグ屈指なだけに、このままでは投打の歯車がかみ合わないかたちでズルズルいきかねません。援護がないと、ピッチャーは勝ち星が伸びず、負担だけが増していきます。打線のテコ入れは急務です。

 個人的には、菊池涼介、丸佳浩の“キクマル”による上位打線の並びを一時的に解消すべきだと感じます。確かにキクマルの出塁率の高さは魅力ですが、現状は2人が塁に出ても還す役割が頼りありません。そこで丸を5番、もしくは6番に置き、ポイントゲッターにするのです。これでエルドレッドの復帰やシアーホルツの適応を待つべきでしょう。

 もうひとつ、デュアンテ・ヒースの扱いをどうするかも課題です。ヒースは昨季、途中加入で先発として活躍しました。今季はチーム事情で抑えに回りましたが、既に2敗を喫するなど不安定な内容です。ここにきてクローザーは中崎翔太に変更になったようですが、リリーフとして状態が上がるのを待つか、それとも先発に戻すのか、決断が必要でしょう。ヒースがリリーフ向きでなければ、ブルペンの補強も考えなくてはなりません。この見極めを早急に行い、勝ちパターンを確立させることが逆襲の条件と言えます。

 開幕前に下位予想をしながら、上位に来ているのが日本ハムと中日です。日本ハムはジェレミー・ハーミッダ、ブランドン・レアードの助っ人がチームを引っ張りました。ただ、一回りすると、どこも研究して対策を練り、当初の勢いはなくなってきました。

 それよりも心配なのが大谷翔平の起用法です。今季は二刀流を進化させるべく、先発登板から中1日でバッターとしてスタメン出場しています。しかも任されているのは中軸です。打線の中心となれば、相手も簡単に打たれるわけにはいきません。コンディションがきつい中、結果を出すのは簡単ではないでしょう。事実、ここまでバッターとしての成績は打率.216、2本塁打、5打点です。

 先発では開幕4連勝と、欠かせない柱だけに、打てないこと以上に無理を重ねての故障は避けなくてはなりません。野手の起用は登板から中2日空け、打順もラクなところで打たせた方が、チームにも本人にもマイナスにならないのではないでしょうか。

 中日は投手力で競り勝つ、強かった頃の野球ができています。ベテラン頼みのチームから、福田永将ら新戦力が出てきました。また“3D”と名称がついたエクトル・ルナ、アンダーソン・エルナンデス、リカルド・ナニータのドミニカ人3人衆も打線を機能させています。下馬評が低いチームは最初につまづくと苦しくなりますが、こうすればうまくいくという成功体験ができたのは大きいでしょう。

 楽しみな新人、若手も何人か出てきました。バッターでは西武の2年目・森友哉。ここまで3本塁打を放ち、西武打線に欠かせない存在になっています。あれだけのフルスイングを見せられると、ピッチャーとしてはものすごくイヤです。

 森に関しては指名打者としての起用が続いており、将来を考えて本職のキャッチャーで育成すべきとの意見もあります。しかし、2兎を追う者は1兎も得られません。キャッチャーの勉強はいずれにしても時間がかかります。これだけ魅力のあるバッティングをするのですから、まずはバッターとして1年間レギュラーを張れる選手に育ててほしいですね。

 ピッチャーでは巨人の新人、高木勇人が素晴らしい内容を見せています。彼のカットボールは横に真っすぐスライドするため、バッターはなかなか対応できません。社会人経験も長く、1年間投げ抜く体力も備わっているでしょう。このまま新人王レースを独走しそうな気配です。巨人が浮上してきたのも、高木や19歳の田口麗斗といった新戦力が好影響を与えているから。開幕前は苦戦を予想していましたが、さすが底力のあるチームです。

 もちろん、まだシーズンは1か月が終わっただけ。ペナントレースは年間トータルの勝負です。好調なチーム、選手が、どこまで持続できるか。また不振のチームや選手がどこから巻き返すか。ファンが一喜一憂する戦いがこれからも続いていくことは間違いありません。
 
佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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