プロ野球はセ・パ交流戦に突入した。今季よりホーム&ビジターで各カード計4試合=24試合の方式から、ホームまたはビジターでの3試合=18試合に変わった。セ・パでの対抗戦色が強くなり、賞金もトータルの勝敗で上回ったリーグで分配する。加えて秋のドラフト会議で2位以降のウェーバー方式での優先指名権も得られる。 

 試合数が減ったとはいえ、交流戦がペナントレースに与える影響は小さくない。昨年はセ・リーグで首位を快走していた広島が9連敗を喫し、失速した。代わって交流戦を16勝8敗で制した巨人がトップに立ち、そのままゴールテープを切っている。パ・リーグでも上位に入った福岡ソフトバンク(14勝8敗2分)、オリックス(14勝10敗)がシーズン終盤まで優勝を争った。

 首位・DeNA、好調の要因

 今季、セ・リーグで首位を走っているのは横浜DeNAだ。中畑清監督が就任して4年目。投打の戦力が整い、12球団で唯一果たしていないクライマックスシリーズ出場も現実味を帯びる位置を確保している。

 好調を示すひとつの数字がある。1点差ゲームの勝敗だ。交流戦前まで13勝7敗。得失点差がわずか+3点(得点196点、失点193点)にもかかわらず、トップにいるのはクロスゲームをきっちりモノにしているからだ。

 メジャーリーグには「1点差の勝敗は監督の手腕、3点差以上は選手の働き、5点差以上はフロントの力」という言葉がある。1点差の強さはチームを完全に掌握した中畑監督のタクトが冴えている証拠だろう。

 監督の仕事で最も難しいのは継投と言われる。近代野球は逆算式である。試合を締めくくるピッチャーがしっかりしないことには先発も安定しない。今季のDeNAには孝行息子が現れた。ルーキーの山崎康晃だ。開幕からクローザーに定着し、リーグトップの18セーブをあげている。チームの先輩・佐々木主浩の「大魔神」にならった「小さな大魔神」というニックネームも定着してきた。

 山崎はコントロールが良い上に、三振をとれるボールがある。ツーシームの切れはフォークボールと見まがうくらいだ。しかもクロスステップ気味に投げるから、パ・リーグのバッターも戸惑うに違いない。最終回に登板する彼のピッチングは交流戦でもひとつの見どころだ。

 好調の要因はもうひとつ、筒香嘉智という生え抜きが“不動の4番”として成長した点があげられる。ここまで11本塁打、40打点はリーグトップ。打率.330もリーグ2位で三冠王も狙える数字だ。何より、この23歳は勝負強さが光る。得点圏打率.348はリーグナンバーワン。近い将来、北海道日本ハムの中田翔とともに侍ジャパンの主軸を任せられるに違いない。

 知将・野村克也は「4番は日本人。できれば生え抜きが良い」と語っていた。だが、舶来のパワーヒッターなら、たくさんいる。実際、一発のある外国人が4番を務めるケースは少なくない。

 なぜ外国人ではダメなのか。野村は、こうも語っていた。「中心なき組織は機能しない」。4番はチームの中心である。外国人は、文字通りの“助っ人”で基本的には数年でチームを去ってしまう。そのような選手では長く組織を機能させる中心とはなりえない。

 振り返ってみれば、球団史上唯一の日本一を達成した1985年の阪神。ランディ・バースが、あれだけ打てたのは、4番に生え抜きの掛布雅之が座っていたからだ。同じことは広島黄金期にも言える。75年の初優勝時にはゲイル・ホプキンス、79年、80年の日本一連覇の際はジム・ライトルと優良助っ人がいた。だが、4番は山本浩二で不変だった。

 DeNAは交流戦が苦手である。過去10年間の通算成績は102勝156敗6分。これは12球団ワーストだ。交流戦最下位も4度を数える。今季も主砲の筒香が交流戦を前にして右太ももを痛めるなど不安材料が出てきた。ジンクスはまだ生きているのか、それとも球団の新たな歴史を切り開く交流戦となるのか。真価が問われる18試合だ。

 広島、丸の復調で巻き返しか

 一方、序盤戦で出遅れたチームにとって交流戦は仕切り直しのチャンスとなる。今季、セ・パで優勝候補に挙げられていた広島とオリックスは、ともに最下位と苦しんでいる。

 広島はメジャーリーガー・黒田博樹の復帰により前田健太、クリス・ジョンソン、大瀬良大地らで組む先発ローテーションは12球団屈指となった。しかし、先発陣が好投しながら、打線の援護が得られない。あるいはリリーフ陣がしのぎ切れないという試合が続いている。1点差試合の戦績は9勝18敗。その中には0対1の完封負けが5度も含まれている。

 打線では昨季の本塁打王ブラッド・エルドレッドが右ヒザ手術を受けて出遅れ、新外国人のヘスス・グスマンも左脇腹を故障して戦線離脱した。軸を欠いた打線は爆発力を失い、丸佳浩、菊池涼介のキクマルコンビも不振にあえいだ。

 丸不調の理由については新井宏昌打撃コーチの次の見立てが興味深かった。「昨季、19本塁打に終わったことが原因」と新井は言うのだ。
「あと1本で20本。当然、今季が始まる前、丸は20本台を目指していたと思う。その意気込みが力みにつながり、右肩が早く開くようになった」

 19本と20本。たった1本の差ながら、10本台と20本台とでは意味合いが違う。それが打席での意識に微妙な変化を与えているのだとしたら、野球というスポーツは恐ろしい。加えて、4番の不在も大きかった。「オレが決めなくては」との意識が無駄な力みにつながっている点は否定できない。「強く振らなくても、バットの芯に当たればスタンドにまで運ぶ力を丸は持っているんですよ」と新井は話していた。

 また、今季は熊崎勝彦コミッショナーが試合時間短縮の方針を打ち出している関係か、各球団のバッターから「ストライクゾーンが広くなった」との声をよく聞く。丸本人も「“えっ? マジっすか”と思うコースをストライクにとられた」と困惑の表情を浮かべていた。
 
 丸は選球眼のいいバッターである。昨季、リーグトップの100四球を選び、同2位の出塁率(4割1分9厘)を記録した。その丸はキャンプ中、今季の目標に「低めのボール球に手を出さないこと」を挙げていた。低めのボール球を捨てれば、自ずと打率と出塁率も上がる。ひいてはチームに貢献できると彼は考えていたのだ。しかし、ストライクゾーンの感覚が狂えば、自信を持ってボールを見逃せなくなる。このことも丸のバッティングに微妙な影響を及ぼしたようだ。

 ただ、ここにきて新井コーチと打撃フォームを修正し、状態は上がってきた。4月は打率.235、1本塁打、7打点だったのが、5月は打率.274、5本塁打、20打点。打線の核となるエルドレッドも復帰し、打席での余計な力みもなくなっていくだろう。遅ればせながら投打のバランスが整ってきた赤ヘルの今後の戦いぶりに注目したい。

 オリックス、エース復帰を起爆剤に

 昨季、わずか2厘差で優勝を逃したオリックスはオフに大補強を敢行した。埼玉西武の元主砲で米国でプレーしていた中島裕之、10年の打点王・小谷野栄一(前北海道日本ハム)を相次いで獲得し、外国人もトニ・ブランコ(前横浜DeNA)、ブライアン・バリントン(前広島)と実績のある選手を揃えた。

 ところがフタを開けてみると、開幕から大きくつまずいた。中島、ブランコ、小谷野は故障で打線を牽引できず、昨季の快進撃を支えたセットアッパーの佐藤達也や抑えの平野佳寿も一時離脱を余儀なくされた。とうとう借金は2ケタに膨らみ、首位とは10ゲーム差以上も離された。開幕前、こんな姿を誰が予想しただろう。

 しかし、交流戦を前にして大黒柱が戻ってきた。エースの金子千尋だ。昨季は26試合に登板し、16勝5敗、防御率1.98でMVP、沢村賞、最多勝、最優秀防御率に輝いた。完全無欠にして難攻不落。そんな表現がピッタリくる働きぶりだった。

 今季はオフに右ヒジ遊離軟骨を除去する手術を受けたため、1カ月半遅れの開幕となった。復帰マウンドの千葉ロッテ戦(5月23日)は3回6失点KOだったが、これは実戦登板なしのぶっつけ本番で臨んだ点を差し引く必要がある。交流戦では徐々に本領を発揮するのではないか。

 金子は“七色の変化球”を操る。理想は「すべてのボールをストレートにみせること」だ。
「究極の理想は、全部、真っすぐの回転で(バッターの手元に)きて、最後だけ勝手に変化する。そんなボールを投げてみたいんです」
 春季キャンプ中に話を聞いた時、そんな言葉が返ってきた。

 ピッチングのマエストロとも呼べる金子が心掛けているのは「バッター目線でのピッチング」である。
「通常、ピッチャーは自分の一番いいボールを投げたいと考えている。僕も昔はそうでした。でも、実際の試合ではフォームが崩れてしまったり、思い描くボールが投げられない時もある。そんな時でもバッターを抑えなければならない。重要なのはバッターにとって打ちづらいボールを投げるということ。凡打してベンチに戻る時、“どうして、あのボールが打てなかったのか”と悔しがるようなボールこそ、ピッチャーは投げるべきです」

 セ・リーグのバッターにとって、いわば金子は天敵である。昨季の交流戦では巨人戦で9回まで無安打無失点の好投をみせた。打線の援護がなく、ノーヒットノーラン達成こそならなかったものの、圧倒的なパフォーマンスはセ・リーグの打者たちに強烈な印象を与えたはずだ。

 たかが18試合、されど18試合。ペナントレースの今後を左右する交流戦は全試合、スカパー!で中継している。

※記録は断りのない限り、5月29日現在。

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・5月29日(金)〜31日(土)
北海道日本ハム × 中日 札幌ドーム (GAORA SPORTS
東北楽天 × 巨人 コボスタ宮城 (J SPORTS2
埼玉西武 × 阪神 西武プリンスドーム (テレ朝チャンネル2
千葉ロッテ × 横浜DeNA QVCマリン (TBSニュースバード
オリックス × 広島 京セラドーム大阪 (J SPORTS3
福岡ソフトバンク × 東京ヤクルト ヤフオクドーム (FOXスポーツ&エンターテイメント

・6月2日(火)〜4日(木)
巨人 × オリックス 東京ドーム (日テレG+
阪神 × 千葉ロッテ 甲子園 (スカイ・A sports+
東京ヤクルト × 東北楽天 神宮 (フジテレビONE
横浜DeNA × 福岡ソフトバンク 横浜 (TBSチャンネル2
中日 × 埼玉西武 ナゴヤドーム (J SPORTS2
広島 × 北海道日本ハム マツダスタジアム(J SPORTS1

・6月5日(金)〜7日(日)
巨人 × オリックス 東京ドーム (日テレG+
阪神 × 北海道日本ハム 甲子園 (GAORA SPORTS
東京ヤクルト × 千葉ロッテ 神宮 (フジテレビONE
横浜DeNA × 埼玉西武 横浜 (TBSチャンネル2
中日 × オリックス ナゴヤドーム (J SPORTS2
広島 × 東北楽天 マツダスタジアム(J SPORTS1

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