6月4日にオークランドで行なわれた今季のNBA ファイナル第1戦は、オーバータイム(延長戦)にもつれ込む大接戦の末に108−100でゴールデンステイト・ウォリアーズが先勝した。
 クリーブランド・キャバリアーズ(キャブズ)の大黒柱、レブロン・ジェームスは44得点と大爆発。それでも敵地での勝利を手に入れられなかったことは、キャブズにとって痛恨だったと言ってよい。
(写真:役者が揃った今年のファイナルへの注目度は高い)
「僕たちにも勝つチャンスはあった。今回は詰め切れなかったけど、これからアジャストメントを進めていくだけのことだ」
試合後にレブロンはそう語ったが、この怪物の存在を持ってしても、今ファイナルはやはりウォリアーズが有利な感は否めない。シーズン中にリーグ最高の67勝を挙げたウォリアーズは、ディフェンス1位、オフェンス2位と好守ともにハイレベル。一部のスターに比重が集中しているキャブズより層が厚く、全体に体調も良く、ホームコート・アドバンテージまで擁している(今季のウォリアーズはホームで46勝3敗と圧倒的な強さを誇ってきた)。

そんな背景から、シリーズ開始前、ESPN.comの27人の記者中22人がウォリアーズ勝利を予想していた。だからこそ、敵地で1勝する絶好機だった第1戦をキャブズは是が非でも制しておきたかったところだろう。

 レブロン、ステファン・カリーという2人のスーパースターが直接対決する“頂上決戦”は、戦前からNBAの範疇を越える注目を集めてきた。しかし、第1戦をウォリアーズが前評判通りに制し、しかもゲーム中に再び左膝を痛めたキャブズの第2スコアラー、カイリー・アービングがしばらく出場できないような事態になれば、ウォリアーズが第5戦までにあっさりと決着をつける短いシリーズになっても誰も驚くべきではない。
(写真:故障続きのアービングのコンディションが心配だ Photo By Gemini Keez)

形勢不利と見られるキャブズが巻き返すために、いったい何が必要なのか。答えは2つ。まずはレブロンが第1戦のように自ら得点を重ねるだけでなく、プレーメーカーとして周囲を巻き込まなければならない。
第1戦でのレブロンは38本のシュートを自ら放ち、アシストは6のみ。何とか戦況を打開しようと孤軍奮闘する姿にも見応えはあったが、一方で、チームメートたちはエースのアタックを見ているだけのシーンが多かった。

「(レブロンは)最高の舞台で最高のプレーをしてくれた。周囲がもっとやらなければいけない」
キャブズのデビッド・ブラットHCがそう語った通り、オプションに乏しい現状下で、レブロンの積極プレーは必要に迫られてのものでもあったのだろう。しかし、カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーン、ハリソン・バーンズ、アンドレ・イグダーラといった豊富な武器を誇るウォリアーズは、どんなスーパースターでも独力で勝てるような甘い相手ではない。

 過去の数字を振り返っても、マイアミ・ヒートの一員として2連覇を果たした2012、13年のファイナルではレブロンは平均7以上のアシストを挙げた。それが、サンアントニオ・スパーズに惨敗した去年のファイナルでは平均4アシストのみ。今回もせめてJR・スミス、イマン・シャンパートらのシュート力を上手く引き出さない限り、特にアウェーでの勝利は覚束ないはずだ。
(写真:敗れればレブロン個人にとってファイナル通算2勝4敗となってしまう。歴史的評価がかかったシリーズでもある Photo By Gemini Keez)

また、オフェンス力では明らかに見劣りする現状で、キャブズはディフェンスに活路を見出していく必要がある。
シーズン中は100ポゼッション(相手の攻撃機会)あたり平均104.1失点(リーグ20位)を許していたキャブズだが、プレーオフでは平均98.4失点と劇的に改善した。ファイナル第1戦では最終的に108失点は喫したが、ウォリアーズに自由にやられたわけではない。

「プレーオフに残ったチームの中ではトップにランクされるキャブズのディフェンスは本物だ。シーズン最後の3ヶ月もディフェンスは良かったが、プレーオフでこれほど良くなるとは予想できなかった」
ESPN.comのブライアン・ウィンドホースト記者もそう絶賛する通り、キャブズの守備力に対する評価は高まっている。多くの好シューターを揃えるウォリアーズは、100ポゼッションあたり15.7ターンオーバー(プレーオフではワースト1位)とミスも多いチームである。特に第3、4戦が開催される地元クリーブランドでは、ディフェンスでこれまで以上にプレッシャーをかけていくことでキャブズは活路が見出せるかもしれない。

 ……と、こうして可能性を探ってきたが、地力と近況の良さで上回るウォリアーズに勝つのは、いずれにしても並大抵ではない。アービングの不在が予想される第2戦以降も、キャブズにとって苦しい戦いが続くことはまず間違いないはずだ。
(写真:守備でプレッシャーをかけ、カリーのロングジャンパーの精度を落とさせることも重要なポイント Photo By Gemini Keez)

NBA史上でシーズン中に67勝以上を挙げたのは今季のウォリアーズが10チーム目。過去9チーム中7チームがファイナルを制している。シーズンMVP獲得後にファイナル進出を果たしたのはカリーが31人目で、その30人中22人が優勝を経験している。

これらのデータを掘り返すまでもなく、今季は“ウォリアーズとカリーのための年”という雰囲気が漂い始めているのは紛れもない事実である。
そんな逆風の中で、それでもキャブズを逆転で頂点に導くようなことがあれば……その勝利はレブロンの輝かしいキャリアの中でも最大の勲章として刻まれ、キャブズの初優勝とともに伝説として語り継がれていくに違いない。

「優勝は保証できない。その難しさはすでに分かっている。まだ準備はできていないし、これまで以上に時間がかかるかもしれない。ただ、自分がこのチームをまとめ、到達したことがいない場所まで導くことを助けられるのが楽しみだ」
昨年7月、故郷のチームであるキャブズへの復帰を表明した際、レブロンは自らの手記の中でそう述べていた。そして今、ファイナルで実際にタフな戦いが続くことが確実になった。そんな今こそ、ベストプレーヤーとして、チームリーダーとして、故郷の人々に成長した姿を誇示すべきときである。

厳しい状況下で、ミラクルストーリーを体現できるか。それに近づくべく、まずは現地7日の第2戦で、キャブズとレブロンがパスワークとディフェンス面でどんなアジャストメントを施してくるかに注目したいところだ。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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