元ブラジル代表FWで、1994年アメリカW杯のMVPロマーリオは国際サッカー連盟(FIFA)をして「サッカー界の汚職の総本山」と呼ぶ。
 ロマーリオといえば、現役時代は「悪童」のニックネームが示すように、何かとトラブルを引き起こすことで有名だったが、引退後は政治の道を志し、現在はブラジルの上院職員である。


 去る5月29日、FIFA会長選でゼップ・ブラッターが5期目の再選を果たした。その際のロマーリオの感想がこれだ。
「恥ずかしいことに再選された。多くの皆さんと同じで怒らずにいられない」

 FIFAの疑惑追及報道に定評のある英紙『サンデー・タイムズ』は、スイスの検察当局が2018年と2020年のW杯招致に関する不正捜査の一環として、ブラッターを事情聴取すると報じた。ついに司直の手はFIFAのトップにまで及ぶのか。

 6月1日付の毎日新聞にブラッターのインタビュー(共同)が掲載されていたので、一部を紹介する。
<――2010年のワールドカップ(W杯)に絡み、FIFA幹部が元副会長のワーナー氏と共謀して1000万ドル(約12億4000万円)を受け取っていたと米検察当局が発表した。その幹部はあなたか。
ブラッター それに関しては言及しない。捜査の進展を待つが、絶対私ではない>

 そもそもブラッターとは何者なのか。5カ国語を操るスイス人がFIFAの職員になったのが75年。ヨーロッパ出身者以外で初めてFIFA会長になったブラジル人のジョアン・アベランジェの薫陶を得たことが出世のきっかけである。
 98年6月のFIFA会長選で、アベランジェの支持基盤をそのまま受け継ぐかたちで当選し、第8代会長に就任した。

 ブラッターはアベランジェが推進した途上国への援助を、さらに加速させた。それが99年にスタートした「ゴールプログラム」である。原資はFIFAの総収入1386億円(13年度)のおよそ45%を占める放映権料だ。
 サッカー版ODAとも言えるこの制度は、途上国に大きな恩恵をもたらせた。スタジアムの改修やトレーニング施設の整備は、先の助成制度がなければ日の目を見ることなどもなかっただろう。

 その一方で途上国への“ばらまき”は不正の温床ともなった。会長選でのブラッターの票田はアジア、アフリカ、南米など途上国が多い地域が中心だ。中にはキックバックを要求する理事も少なくないという。「ブラッターはカネで票を買ってきた」との疑念がくすぶる所以だ。

 と、この原稿を書いている最中に「ブラッター辞任」のニュースが飛び込んできた。ブラッターの側近で、FIFAナンバー2のジェローム・バルク事務総長にまで捜査の手が延びたことにより、もう逃げられないと観念したのだろうか。
 これを受け、田嶋幸三日本サッカー協会副会長は「改革に向け適した人材が必要だ」と語った。手の汚れていない理事が、果たしてFIFAの中に、どれだけいるのか……。

<この原稿は『サンデー毎日』2015年6月21日号に掲載されたものです>


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