暑い夏を迎え、プロ野球は熱い戦いが繰り広げられています。特にセ・リーグは首位から最下位までが6ゲーム差。どこも決め手がなく、混戦はあと1カ月ほど続くのではないでしょうか。
 その中で優勝争いは阪神、東京ヤクルト、巨人に絞られてくるとみています。前回も書いたように、混セを抜け出す1番手は阪神です。ここまでもつれてくれば、ポイントになるのは投手力。阪神は、その点でも他チームより優位に立っています。

 特に3年目・藤浪晋太郎の成長は大きいでしょう。ここまでチームトップの8勝(5敗)。24日の横浜DeNA戦では152球を投げての完封勝ちを収めるなど、真っすぐの強さが長いイニング持続するようになっています。課題とされた立ち上がりも克服し、自分のペースで試合をつくれていますね。ひとつ壁をクリアし、より安定度が増しました。

 抑えの呉昇桓は昨季ほどの盤石さはないものの、リーグトップの26セーブをあげています。セットアッパーの福原忍も元気で、勝利の方程式がきちんと確立できている点も強みです。

 また後半戦に入って、連敗中の巨人、DeNAと対戦するなど対戦相手にも恵まれています。順調に勝ち星を伸ばせば、貯金も増えていくでしょう。

 この阪神を追う存在がヤクルトです。このチームはオーランド・ロマン、ローガン・オンドルセク、トニー・バーネットと勝ちパターンに投げる外国人3人衆が充実しています。特に守護神のバーネットはファーストストライクを簡単にとれているところが、好調の要因でしょう。昨季まではストライクが入らず、イライラして自滅するケースが見られましたが、それがなくなりました。

 館山昌平の復帰も、チームには追い風です。登板間隔を空けながらとはいえ、彼が投げた試合は3連勝。「館山のために」と全員が一丸となれるのはシーズンを勝ち抜く上での大きな要素です。ヤクルトはもともと、まとまりの良さが特徴だけに、波に乗ると相手にとっては厄介でしょう。

 巨人はチーム防御率は2.87とリーグトップながら、チーム打率.237がワースト。この先は打線の奮起が欠かせません。ただ、菅野智之に、マイルズ・マイコラス、アーロン・ポレダと2人の外国人は計算が立ちます。リードした展開では山口鉄也、スコット・マシソン、抑えの澤村拓一と勝利に結びつけるかたちを持っているのも大きいです。

 優勝争いで生き残るには、打線の爆発に加えて、菅野が先発する試合で勝っていくことが重要でしょう。菅野はリーグで唯一、防御率1点台(1.68)ながら、8勝6敗と負け数も少なくありません。彼が絶対的エースとして勝利をもたらせる存在になると、4連覇の可能性が出てくるはずです。

 DeNA、広島、中日は投手力に関して、どこも弱みを抱えています。特にDeNAは正念場でしょう。ここまで連勝と連敗を繰り返す戦い方を続けてきましたが、優勝やAクラス入りを狙うには、もう大きな負け越しは許されません。

 波が大きいのは確実に勝てる投手陣が構築できていないことを意味します。勝ち頭(7勝)の久保康友や、ここまで4勝7敗と黒星が先行している井納翔一、ルーキークローザーの山崎康晃につなぐ中継ぎ陣が不安定なままでは、上位に行けません。どう投手陣を整備して勝負の秋につなげるか、首脳陣のプランが問われます。

 広島もリリーフ陣に不安があります。接戦を勝ち切らなくては勝率5割以上での戦いは望めません。前回も書いたように、僕は大瀬良大地を早く抑えにすべきと考えます。現状の中崎翔太と比較しても制球力の面で大瀬良の方が上です。中崎はよく頑張っていますが、ここはベンチが決断をみせてほしいと思っています。

 中日は昨季、大車輪の働きをみせた又吉克樹、福谷浩司が“2年目のジンクス”に陥っています。昨季と比べてボールの力もなく、コントロールも不安定です。ただし、まだ彼らも若く、この経験を残りゲームに生かす機会は残っています。

 最下位に沈む苦況の中で谷繁元信監督は若手を積極的に起用してきました。そこからひとりでもチームの流れを変える選手が出てくれば、まだ浮上の目はあります。

 いずれにしても、団子状態はしばらく変わりません。各チームの勝ち頭のみならず、2番手、3番手の先発ピッチャーでいかに白星を増やしていくか。大きな連敗をしないことが脱落しないための条件です。混戦は、どのチームのファンにとっても楽しみが最後まで続きます。選手は大変でしょうが、おもしろい展開が継続してくれることを希望します。


佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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