プロ野球は優勝争い、クライマックスシリーズ(CS)進出争いが佳境に入ってきました。と同時に注目されるのが個人記録です。バッターでは東京ヤクルトの山田哲人と、福岡ソフトバンクの柳田悠岐が久々のトリプルスリーを達成できるか期待が高まっています。
 山田も柳田も、現状で抑える方法を見つけるのは「無理」と言っていいでしょう(苦笑)。2人に共通しているのは三振を恐れず、スイングしてくること。バッテリーとしては三振をとれる可能性もあるため、ついつい勝負してしまうのです。また山田には畠山和洋、柳田には内川聖一、李大浩と後ろに強打者が控えており、勝負せざるを得ない面もあるでしょう。思い切りが良く、打てるポイントは逃さず打ってきますから、余程のスランプやケガがない限り、トリプルスリー達成の可能性は高いのではないでしょうか。

 特に山田は首位打者や打点王争いにも顔を出し、三冠王も視野に入れています。彼が三冠王を獲るほどの活躍をみせ、打率トップを競う川端慎吾、打点1位の畠山も負けじと数字を伸ばせば、ヤクルト打線はより活発になります。それはすなわち、セ・リーグのペナントレースを盛り上げることにつながるはずです。

 バッターで、もうひとりスポットライトを浴びているのが、西武の秋山翔吾です。今のペースで打ち続ければ、シーズン200安打の達成はもちろん、マット・マートン(阪神)の最多記録(214本)も塗り替えそうです。彼も山田や柳田同様、どんどん振ってくるところがピッチャーとしては厄介です。ピッチャーにとってはイヤなのは空振りを嫌がらずにスイングしてくるタイプ。かつ、タイミングを崩されにくい点が、これだけのヒットを量産している要因でしょう。

 西武は千葉ロッテとCS争いの真っただなかです。トップバッターとして秋山が打ちまくれば、その分、打線に勢いがつきます。投手陣では23日の直接対決で初完封を果たした高卒ルーキーの高橋光成が、いいタイミングで出てきました。彼は甲子園優勝の実績もあり、ゲームをつくれるピッチャーです。150キロを超える速球で押すだけでなく、うまくバッターを抑える術を持っています。まずは2軍で育て、ステップアップさせた球団の方針が吉と出たと言えるでしょう。

 西武の不安材料は、高橋朋己を配置転換した抑えの部分でしょう。一時的に牧田和久を先発から回したものの、勝ちパターンが決まらないことには上位進出は望めません。高橋朋を含め、どんな投手起用をみせるのかベンチワークが問われています。

 ロッテは西武とは違って守護神の西野勇士につなぐ勝利の方程式が明確です。タイトルを獲りそうな秀でた選手はいないものの、伝統的にチーム一丸となった時の強さは折り紙つきです。カギを握るのは先発陣、とりわけエースの涌井秀章でしょう。今季は5年ぶりう2ケタ勝利をあげているものの、防御率は3.75と、まだ完全復活とは言えません。彼が終盤に向けて、どれだけ勝ち星を伸ばせるか。Aクラス入りは、その右腕にかかっています。

 優勝やCS進出の行方同様、タイトル争いも9月末まで決着がもつれる部門が多いと思われます。最後まで目の離せない戦いが続きそうです。
 
佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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