第228回 高知・弘田澄男「藤川から学ぶこと」

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 後期はここまで3勝8敗。投打とも一言で言えば、戦力不足です。投手陣では平良成が肩の故障で離脱し、連戦を乗り切るだけの枚数が足りません。打線も前期の中軸を担った台湾人野手2人が退団し、その穴を埋めるバッターがいません。
 そんな中でも藤川球児が後期も引き続きプレーすることになり、週1回、先発で投げてくれるのは助かっています。本人の希望もあり、今後も先発で起用予定です。

 おそらく藤川自身としては来年以降につながるよう、早く実戦での感覚を取り戻したいのでしょう。長いイニングを投げることで自信をつけたいのだと思います。また手術をしたヒジの回復具合をチェックする意味合いもあるのかもしれません。

 いずれにしても高知に来た当初と比較すると、ボールは良くなっています。阪神時代のようにストレートでバッタバッタと三振をとるスタイルではないものの、スライダー、フォークボール、カーブを交え、ピッチングの巧さが際立っていますね。

 後期最初の登板は先頭打者への危険球退場と想定外の結果でしたが、翌日は5イニングを投げて12奪三振。21日の愛媛戦も5回3安打無失点と要所を締めました。NPBの編成には従来のリリーフではなく、先発での復活の可能性もアピールできているのではないでしょうか。

 藤川が点をやらないピッチングができているのは、単にボールがずば抜けているからではありません。現状、ストレートの球速自体は平均145キロ。豪速球よりも、総合力でバッターを牛耳っています。彼が相手を抑えられるのは、試合前に我々やキャッチャーからバッターの特徴を聞き出し、きちんと頭に入れてマウンドに上がっているからです。アイランドリーグ相手であっても、試合前の準備や探求心からして、高知の若いピッチャーとは大きく違います。

 高知のピッチャーは総じて、同じバッターに同じパターンで打たれています。もう2度とやられないよう、ブルペンで本当に対策を練っているのかとあきれてしまうほどです。練習を見ている限りでは、ただ球数を放っているだけにしか映りません。

 これはバッターにも同様のことが言えます。アイランドリーグのほとんどのピッチャーはストレートとスライダーがカウント球。ならば、ストレートとスライダーでストライクを取りに来たところを狙い打ちすれば、率は残るはずです。
 
 しかし、現実には中途半端な打席で見逃しや、打ち損じが目立ちます。これは日々のバッティング練習で創意工夫ができていない証拠です。ストレートやスライダーをいかにヒットコースに運ぶかを考えるのではなく、単純に気持ち良く打つことしか頭にないのでしょう。

 今いる選手たちが、藤川のレベルに少しでも近づき、NPBを目指すなら、変わらないと無理です。そのためのヒントは、こちらから与えています。あとは本人がやるか、やらないか、です。

 監督就任以来、まずは意識改革からと、口を酸っぱくして選手には何をすべきか言い続けてきました。後期に関しては、それはもうやめようと思っています。自ら取り組み、何とかしてやろうという意欲がなければ、いくら話をしても変わらないからです。

 その代わり、進歩が見られない選手は、危機感を持たせるべく、登録を外すことにしました。とはいえ、選手数が限られている中、どこまで本人たちに、この方法が効くかはわかりません。

 このような状態で後期をどう戦うかプランを立てるのは難しい段階です。とにかく現有戦力で、間の前の試合を戦っていくしかありません。その中で、選手たちが少しでもレベルアップした姿をファンの人にも見せてほしいと思っています。


弘田澄男(ひろた・すみお)プロフィール>:高知ファイティングドッグス監督
 1949年5月13日、高知県出身。高知高、四国銀行を経て72年にドラフト3位でロッテに入団。163センチと小柄ながら俊足巧打の外野手として活躍し、73年にはサイクル安打をマーク。74年には日本シリーズMVPを獲得。75年にはリーグトップの148安打を放つ。84年に阪神に移籍すると、翌年のリーグ優勝、日本一に貢献した。88年限りで引退後は阪神、横浜、巨人で外野守備走塁コーチなどを歴任。06年にはWBC日本代表の外野守備走塁コーチを務め、初優勝に尽力した。12年に高知の球団アドバイザー兼総合コーチとなり、14年より監督に就任する。現役時代の通算成績は1592試合、1506安打、打率.276、76本塁打、487打点、294盗塁。ベストナイン2回、ダイヤモンドグラブ賞5回。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)

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