「昨年のこの時期よりは全然いいよ」
 今年ここまで、鹿児島キャンプをはじめ、ことある毎に望月一仁監督が口にしているコメントである。このように全体的には順調な調整の下で3月8日・J2開幕の熊本戦を迎えようとしている2008年の愛媛FC。その要因には今オフ行なわれた補強策により、チームの底上げが着実になされたことが最も大きい。

(写真:トレーニングマッチで京都FW柳沢と競り合う新加入のキム・テヨン(左)。今季愛媛FC中盤の鍵を握る男だ)
 ポジション別に分析していくと、まずGKは昨年、数々の公式戦でファインセーブを連発し、「守護神」の名を完全に得た川北裕介に加え、C大阪から多田啓介を完全移籍で獲得。高さとコーチングに優れJ1の出場経験をも有する多田や、さらに188cmとチーム1の高さを持つ大分から期限付き移籍の河原正治、広島ユース2年時にはJユースカップ制覇の栄誉に輝いたルーキー兼田亜季重といった実力にそん色ないライバルの存在は、「みんなが積み上げたものを出せると思う」と語るチーム1の努力家・川北自身の実力をも押し上げてくれることは間違いない。

 11名がポジションを争うDF陣

 DF陣に目を転じてみると、ここには的確なカバーリングと対人能力の強さで甲府でもディフェンスリーダーとして活躍した津田琢磨が完全移籍で加入。「ボールは奪えるが、その後に真ん中で失ってしまうことがある。失っても真ん中で失うことなく、サイドで失うようにすれば問題はない」と金守智哉ばりの現状分析力を持つCBの冷静沈着な判断は、チームにさらなる落ち着きをもたらしてくれること請け合いである。

 さらに、右足すねの疲労骨折から5月復帰が噂される左SB三上卓哉が加われば正に鬼に金棒。昨年途中までは京都でもレギュラー格だったことからも分かるように、その力には疑いはない三上が左SBに入れば、26歳の現在も日々進化を続ける右SB関根永悟、今年もキャプテンを務める大黒柱のCB金守、SBもCBもそつなくこなす貴重なベテラン星野真悟、今季は「センターラインの選手をコンバートさせる」望月監督の構想に倣い再びSBにもチャレンジする井上秀人がいる。
(写真:現在はランニングにて調整中の左SB三上卓哉。彼が復帰すればディフェンスラインは一層厚くなる)

 さらに鹿児島キャンプではSBとして成長著しい姿を見せた2年目の高杉亮太、キャンプ中にけがをするまではCBのレギュラーとして金守とコンビを組んでいたG大阪から期限付き移籍の伊藤博幹、高さに絶対的自信を持つ南祐三に、愛媛FCでスクールからユースまで学んだ初の愛媛FC入団選手となった深水章生(立命館大卒)。そして復帰時期は夏と言われる左SB松下幸平が加われば、実に11名が4つのDF枠を争う戦いはますます激化するはずだ。

 ボランチは新加入のキムと宮原が軸

 続いて中盤では、一番のキーマンは韓国の各年代別代表を経験してきたボランチのキム・テヨン(神戸より期限付き移籍加入)だ。「パスカットされても、もう1回パスカットする激しさを出していきたい」と自身も話す守備が彼本来の持ち味だが、望月監督は「ゲームの中で動く能力を付けながら、展開してもらえれば」と攻撃力のスケールアップにも期待している。

 キム・テヨンとコンビを組むのは「宮原が入れば個々の選手によるバリエーションが出てくる」と監督も存在感の大きさを認める宮原裕司が基本線となるが、左足強烈ミドルに代表されるキック力が武器の青野大介、今季はレギュラー奪回を誓う井上秀人、さらには昨シーズン、ボランチで新境地を開拓した赤井秀一も虎視眈々とポジション取りをうかがう。誰が出てもJ2を戦うレベルは十二分に維持できるだろう。

 両サイドにも右のテクニシャン赤井、左のスピードスター江後賢一と同等以上の新戦力が加わった。右にはG大阪から期限付き移籍でやってきた横谷繁。「(昨年在籍した)大山(俊輔)とはタイプは違うが、ボールを動かしながらテクニックでかわせるし、流れを変えられる」と望月監督の期待も大きい20歳は、戦術理解能力の高さで赤井にレギュラー争いを挑んでいる。

 左は昨年、山形で8得点するなどFWとしての得点能力も高い横山拓也。時にはSBの位置まで戻って行なう献身的な守備と左利きを利した荒々しいスピード突破は、愛媛FCに昨年とは異なるアクセントを与えている。持留新作、神丸洋一の2年目コンビ、昨年5月に負った左膝前十字靭帯損傷・左膝内側側副靭帯損傷から先日復帰を果たした千島徹も、4人を脅かす実力を身に付けつつあり、このポジションもレギュラーの完全保障はない現状である。

 激化するFW戦争に得点力アップの予感

そして、内村圭宏、三木良太、田中俊也、大木勉、笹垣亮介、横山、若林学と実に6名が登録されているFWは今季、愛媛FCの中でも最も激戦区と言われている場所である。鹿児島キャンプ中の練習試合でも競争意識を喚起しつつ色々な組み合わせを探る様子が見られたが、開幕を前に一歩そこからリードした感があるのは、大宮から期限付き移籍でやってきた188cmの長身FW若林。彼の特長は何と言っても望月監督が昨年から最も欲していたボールが納まる懐の深さ。もちろん「納めてダメなら頭がある」(望月監督)高さも彼の魅力だ。本人もそのストロングポイントは心得ており「特徴を知ってもらって信頼してくさびを当ててくれるので、その期待に応えたい」と開幕を前に意気込んでいる。
(写真:愛媛FCに昨年なかった前線に高さとタメを与える男、FW若林学)

 その若林のパートナーを務めるのは「ここまでけがなく来ているので問題はない」と練習試合から好調をアピールしている田中が濃厚。「(田中)俊也は後ろに抜けるのがうまいので、僕が真ん中に入って近い距離を保つようにしたい」と語る若林の手助けも得て、今季は20点を目標にしているゴール量産も十分期待できそうだ。さらに試合終盤にかかれば、練習から広い視野と気の利く動きで周囲を唸らせる大木勉がジョーカー役として控える。ここに昨シーズンの経験を踏まえて今シーズンが勝負の年となる内村、三木、笹垣を交えたFW戦争は、1年を通してチームにいい意味での刺激を与え続けることだろう。

 天皇杯ベスト8から得たもの

 思えば昨年の愛媛FCは開幕早々、金守の右膝後十字靭帯損傷に始まり、井上、田中といった中心選手たちが次々とけがによる長期離脱に見舞われ、最後まで調子の波に乗り切れぬままシーズンを終えることとなった。が、このような選手層をもってすれば昨シーズンのような「○○がいないとゲームにならない」状況はまずあり得ないはず。補強策によってもたらされた「変化」は、チームを必ずや上昇気流に押し上げてくれるに違いない。

 ただし、そういった顔ぶれの「変化」の中でも攻守の切り替えの速さを生命線に、スピード溢れるサイドアタックからゴールを陥れる戦術の「継続」が貫かれているのも今季の特徴。その基礎となるトレーニングを見ても、昨年と比べて多少の味付けの変化はあるとはいえ4対2、6対4といった攻撃側数的優位の中で攻守のアプローチスピードや連動性を重視するメニューは今季も引き続きトレーニングの中心となっている。

 よって特にディフェンス面における精度向上もここに来て著しい。新加入選手が途中加入含め登録30人中16人と半数以上を占めていた2007年と違い、2008年は登録31人中新加入が11名に留まっている点も、その要因の1つとして挙げられるが、昨年の天皇杯や鹿児島キャンプにおけるJ1強豪との対戦により、「自分たちのディフェンスで相手をはめようとして、ボールが取れなかったときには、全体がボールに絡まないとボールが取れない」(星野)点を学んだことも、彼らの血となり、肉となっている。昨シーズン、波乱万丈の中にあっても「継続」することによって得た「変化」。逆に「変化」することによって知った「継続」の尊さは、今季の愛媛FCにとって絶対的なベースとなることだろう。

 幸いにも2月に九州各地で行なわれたキャンプを見た限り、今季から3クールという短期決戦にもかかわらず、各J2チームの仕上がりは甲府を除き、軒並み遅いことも事実だ。浦和、横浜FCを撃破した天皇杯での快進撃を通じ、「プロとして結果を出し、勝つことで喜んでもらえる」(赤井)チームの存在意義を再認識した愛媛FC。「変化」と「継続」のハーモニーを携えてJ2・3年目の飛躍を期す彼らが実力をいかんなく発揮した暁には、「6位以上」という目標達成と共に、喜びと誇りをサポーター・ファン、そして愛媛県民、愛媛県出身者に提供できる真の存在となりえるはずだ。

(寺下友徳)

<てらした・とものりプロフィール>
 1971年12月17日、東京都東村山市出身。
 愛媛FCとの初対面は97年12月6日、西が丘で行われた天皇杯2回戦でのことだった。このゲームでは当時、JFLで最強を誇った東京ガスFC(現:FC東京)相手に延長戦まで大健闘した愛媛FCユース。そのひたむきな戦いに感動して以来、常に愛媛FCは気になる存在となる。そして昨年、縁あって関東から愛媛県松山市に移住してからは愛媛FCの練習、試合を深く取材中。いつの日かアジアの舞台でオレンジのユニフォームが躍動することを常に夢見ているフリーライター。


<3月8日開幕戦、対ロアッソ熊本、主なイベント>
◎ニンジニアスタジアム 14時キックオフ

1.松山市×熊本市 漱石ダービー
 夏目漱石つながり(松山、熊本で教師として赴任)の両市が一緒に観光PRを行います。ブース内にて、選手サイン会も開催予定(13時〜)。

2.開幕戦、来場者プレゼント
 太陽石油よりオリジナル「トゥイーティーマイバック」をを選手サイン会に参加した先着100名様にプレゼント。
 NTTドコモ四国より「愛媛FCユニホーム携帯ストラップ」を先着5000名様にプレゼント。

3.ロアッソ熊本サポーター熱烈歓迎キャンペーン
【場所】 愛媛県物産観光センター(松山市アイテムえひめ3F)
【期間】 3月7日〜9日
【対象】 期間中にチケットの半券、ロアッソ熊本のサポーター会員証、グッズなどを提示した方
【特典】
・全品5%オフ
・先着200名様に今治産タオルハンカチプレゼント
・2000円以上、お買い上げの方は1時間無料駐車券プレゼント


太陽石油は愛媛FCのオフィシャルユニホームスポンサーです[/color][/size]