WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)1次ラウンドA組の第4戦は、日本代表が韓国代表を14−2の7回コールドで下し、日本時間16日から米国・サンディエゴでスタートする2次ラウンド進出を決めた。日本はイチローが3安打を放つなど、14安打の猛攻。投げては先発の松坂大輔ら4投手が強打の韓国打線を2点に抑えた。

 4番・村田、金広鉉KOの3ラン
日本代表    14 = 3501221
韓国代表     2 = 2000000 (7回コールド)
(日)○松坂−渡辺−杉内−岩田
(韓)●金広鉉−鄭現旭−張ウォン三−李在雨
本塁打  (日)村田2号3ラン、城島1号2ラン
       (韓)金泰均1号2ラン
(写真:ようやく目覚めたイチロー)
 予想外の展開だった。韓国に対しては前回大会で1次ラウンド、2次ラウンドと連敗。北京五輪でも1次リーグ、準決勝と苦杯をなめた。常に日本の前に立ちふさがってきた壁を9イニングを戦わずして打ち破った。今大会における両チームの差――メジャーリーガーの存在が結果となって表れたゲームだった。

 口火を切ったのはイチローだ。この日も1番・ライトでスタメン出場。大歓声の中、打席に入ると2球目のカーブにバットを合わせた。低いライナーがライト前に弾み、スコアボードに「H」の表示がともる。「久しぶりで懐かしい感じがしましたね」。待ちに待った今大会初安打。これが眠っていた日本打線に火をつけた。

 続く中島裕之が金広鉉が得意とするスライダーをセンター前へ。さらに五輪でも唯一、6打数3安打と金を攻略していた3番・青木宣親が同じくスライダーをはじき返す。「先制点がほしかったから、集中して打席に入っていました」。強烈な打球が足元を抜け、左腕はおもわず腰砕けの体勢になった。まるで、この日の試合を象徴するようなシーンだった。

 青木のタイムリーで貴重な先制点をたたき出した日本だが、4番・村田修一、5番・小笠原道大は連続三振。金も速球と高速スライダーの勢いが戻りつつあった。6番は内川聖一。「左投手対策に選んだ選手」と語る原辰徳監督が稲葉篤紀をスタメンから外してまで起用した。その期待に応えた。カウント2−2からスライダーを思い切って引っ張る。打球は鋭く三塁線を破り、2者が生還。金の立ち直りを許さない一打は「内川のタイムリーが大きかった」と指揮官が勝因のひとつにあげるプレーとなった。

 さらに1点差に詰め寄られた2回、先頭の城島健司がセンターへのクリーンヒットで出塁。岩村もボールを見極めて、一塁へ歩く。この好機に打順は1番・イチロー。「大事な場面。ランナーを前に進めることを最優先に考えた」。選択したのはセーフティーバントだ。三塁線ギリギリに転がすと意表を突かれた韓国守備陣は対応しきれない。オールセーフですべての塁が埋まった。

 メジャーリーガーがつくったチャンスに北京で金に苦しめられた五輪組が応えた。中島がカウント2−1と追い込まれながら、ボールを見極め、ファールで粘る。フルカウントからの8球目、内角に投じたボールがわずかに外れた。押し出しの四球を勝ち取り、4−2。さらに青木のショートゴロの間に1点を追加した。

 トドメを刺したのは、4番に上がった村田だ。こちらも2−1と不利なカウントからファールで粘る。「スライダーをファールしていたので投げる球がなくなったのかも」。苦し紛れに金が投じたチェンジアップにキレはなかった。うまく反応してすくいあげると、打球は高く舞い上がる。そのままレフトの頭上を越え、スタンドイン。5日の中国戦に続く1発で8−2。金を1回3分の1でマウンドから引きずり降ろした。

「大勢投げさせて、球数がオーバーするのは良くない。残っている投手は使わない選択をした」(韓国・金寅植監督)
 大差がつけられた韓国ベンチは次戦に向けて主力のリリーバーを温存。こうなると日本の攻撃陣はイニングごとに得点を積み重ねていくだけだった。初戦は音なしだった福留孝介にもヒットが飛び出すなど、メジャー勢は計7安打をたたき出した。

 投げては松坂だ。立ち上がりはスライダーのコントロールに苦しんだ。1死後、2番・鄭根宇、3番・金賢洙に連打を許す。だが、守りがエースをもりたてた。金賢洙のライト前ヒットで3塁を狙った鄭根宇に対し、イチローがレーザービームを披露。これはセーフになったが、スキを突いて2塁を目指した打者走者をサード村田が素早い送球でタッチアウトにした。直後の4番・金泰均にレフトの看板直撃の特大弾を打たれただけに、このワンアウトは大きかった。

「ホームランは打たれたが、僕自身は慌てていなかった」
 城島と相談し、2回以降はカットボールを軸に、組み立てを替えた。右打者の内角ボールゾーンからストライクゾーンに入るカットボールを効果的に決め、韓国の打者に自分の打撃をさせない。尻上がりに調子を上げ、4回を65球で投げきった。修正がままならなかった金広鉉とは対照的な内容で、前回大会MVPを足がかりにメジャーへ乗り込んだ経験値の差をみせた。

 メジャー組と国内組がひとつになり、サンディエゴ行きのチケットを手にしたサムライジャパン。「ただアメリカでゲームができるというだけ。気を緩めるところなんてないですよ」。イチローは米国での戦いを見据えている。その前には韓国とのリターンマッチが予想される9日の試合もある。まだ連覇への道のりは第1関門を突破したばかりだ。

○原監督
 選手ひとりひとりが持てる力を全部出してくれた。(初回の)内川の2点タイムリー、追い上げられてからの村田のホームランが大きかった。内川は左投手対策のために選んだ選手。いい仕事をしてくれた。
(イチローの初安打の影響は)もちろんありました。結果が出ないことでかなりストレスはあったはず。大事な試合の1打席目でいい流れをつくってくれた。
(金広鉉について)データ分析もジャパンの中ではやったが、それぞれの選手たちが自分の間合いで打てたことが非常に良かった。
 2つ目の試合をとることを重視していた。そのことに満足している。韓国は力がある。この1試合だけで苦手を払拭できたとは思っていない。

○松坂(4回4安打2失点)
 立ち上がりはゆるい変化球でストライクが取れず、バタバタした。初回に3点もらって、できればゼロに抑えたかった。ホームランを打たれてしまったが、僕自身は慌てることはなかった。
 ストレートは悪くなかったので、初回の後、(捕手の)城島さんと相談してカットボール主体の投球に切り替えた。投げている間にスライダーとチェンジアップをよくしようと思っていた。(今日の投球は)全然ダメです。

<中国、五輪に続き台湾を撃破>

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)1次ラウンドA組の第3戦は、中国代表が台湾代表を4−1で下し、8日に2次ラウンド進出をかけて韓国と対戦することが決まった。中国は初回、4番・彭政閔の犠飛で先制。その後も中押し、ダメ押しと効果的に得点を加えて快勝した。

 レイ・チャン、3安打2打点
チャイニーズ・タイペイ代表 1 = 000001000
中国代表            4 = 10002001×
(台)●林岳平−ゼン菘ウェイ−倪福徳
(中)○呂建剛−ト涛−孫國強−陳俊毅−S陳坤
本塁打  (中)レイ・チャン1号ソロ

 中国の積極的な攻撃が光ったゲームだった。「日本戦でダルビッシュが相手では何もできないと思っていた。ただ、ベンチが動けば試合を動かせるかもしれないと考えた」。初戦を踏まえ、コリンズ監督は初回から仕掛けた。1死1塁、3番チャン・レイの場面でエンドランを敢行。これが見事に決まって1、3塁。続く4番・彭政閔の先制犠飛につながった。

 5回は内野安打で出塁した先頭の楮夫佳が二盗に成功。その後、2死はとられたものの、3塁へ走者を進め、2番・侯鳳連のタイムリー内野安打で貴重な追加点をあげた。続くレイ・チャンはレフトの頭上を破る二塁打を放って3−0。完全に試合の主導権を握った。

 投げては呂建剛が6回途中まで投げて4安打1失点。「クオリティピッチをしてくれた」。指揮官も讃える好投だった。2番手以降の投手も走者を背負いながら、粘り強い投球でWBC初勝利を呼び寄せた。

 敗れた台湾は初回に四球で出た先頭打者が盗塁失敗するなど、前日に続き、流れが悪かった。「現実を受け入れなくてはいけない。中国の進歩を認めなくてはいけない」。参加16チームで真っ先にWBC敗退が決定し、葉志仙監督の声も沈んでいた。

 一方、五輪での台湾戦勝利に続く快挙を達成した中国。コリンズ監督は「この勝利は我々に自信、勇気をもたらせてくれた」と満足そうに語った。トップバッターの孫嶺峰は「中国にとってはスタートに過ぎない。世界の強豪に一歩一歩追いついていく必要がある」と次なる戦いを見据えていた。 トップバッターの孫嶺峰は「中国にとってはスタートに過ぎない。世界の強豪に一歩一歩追いついていく必要がある」と次なる戦いを見据えていた。「負ければ終わりなのは、相手も同じ。ひたむきに戦いたい」。勢いに乗った中国がアジアの2強崩しに挑戦する。

(石田洋之)

【8日の試合】( )内は予告先発
18:30〜 中国(孫国強)×韓国(尹錫ミン)