昨年、競馬界に突如として新星が現れた。「破ることは絶対に不可能」と言われた武豊の持つ新人年間最多勝記録を21年ぶりに塗り替えた。今や競馬界のみならず、日本中からの注目を集める存在となったのは19歳のジョッキー、三浦皇成。今年に入ってからも順調に勝ち星を重ね、史上最短で通算100勝を達成し、さらなる進化を続けている。5歳でポニーに跨った時から騎手を志したという三浦が、特別な存在に近づきつつある理由とは? 騎手を目指し始めた幼少期の思いから数多くのレースで勝利する感覚まで、当サイト編集長・二宮清純が鋭く迫った。
二宮: 小さい頃から様々なスポーツをなさっています。これは全てジョッキーになるため?
三浦: はい。自分からやりたいと言ったものもありますし、親が必要だからと薦めてくれて始めたものもあります。トランポリンや器械体操、剣道まで様々なものを自分の中に吸収しようと思っていました。特に剣道は小学校1年から中学卒業までの9年間続けて、2段まで取りました。剣道という競技は勝負に行くときには行かければいけません。競馬でもレース中に空いたスペースや割って入る判断は一瞬でしなければいけない。考えてから動くのでは間に合わない。そのあたりは似ているのかもしれません。

二宮: 剣道をやっていると、右腕が強くなる?
三浦: いや、剣道の場合、右手は添えているだけなので左腕が強くなるんです。もしかすると手綱を引く時など、左右バランスが重要なときにも役立っているかもしれません。

二宮: 背筋と腹筋を鍛えられていますね。
三浦: 他の同年代の騎手に比べたら、騎手学校のころから自分でも全然違うと思っていました。体を鍛えていたのは、本当に騎手になりたかったから。それだけでした。馬をコントロールするためにはこの筋肉が必要だと考えたわけではなくて、ただガムシャラにやってきた結果がこういう体格になったんだと思います。

二宮: 志が高かったんですね。小学校の卒業文集にも、将来は騎手になると書かれていた?
三浦: 幼稚園の文集から書いていました(笑)。その頃からG1とか重賞、普通のテレビでやっているような大きなレースだけですが、観ていました。

二宮: 騎手になると決めた上で、テレビを観ていたんですね。そうすると印象に残っているジョッキーの乗り方やレースというのはありますか?
三浦: それが全然ないんです。僕にはこういう騎手になりたいという目標がありません。「誰のような騎手になりたいですか」とよく質問されるのですが、僕の中にはいないですね。我が道を行くというか、自分の中の理想を自分で追い求めるだけです。騎手は人それぞれ体型の違いもあるので、フォームや騎乗の仕方が違ってきます。ですから誰かの真似をできるものではないんです。僕は僕の乗り方をしなければいけない。もちろん、観ていてかっこいいジョッキーの先輩方はたくさんいます。騎手になってみて、このレースのこの乗り方はすごいなと思うことも多々あります。それでも、誰かのようになりたいというのはないですね。ただ、小さい頃から騎手といえば、武豊さんというイメージはありました。競馬における武豊さんの大きさは昔から感じていて、偉大な人だなと思っていました。それは今でも変わっていません。

二宮: 競馬学校の生徒には幼い頃から競馬サークルにいる、いわゆる2世が多い。今は政治家も2世の時代で、世襲議員がいっぱいいます。そういう人たちに負けたくないという想いはありましたか?
三浦: そこは全然気にしませんでした。2世だろうとなんだろうと、だからどうなんだという感じでしたね。2世であることを羨ましいと思ったこともないですし、全く意識しなかったですね。学校にいる間で彼らが自分よりも知っていることといえば、トレーニングセンター(JRAの競走馬育成の拠点。東西に2箇所存在する)の内部事情だったり、どのジョッキーと知り合いだとかいう程度です。そういうことが耳に入ることもありましたけど、それは全く気にならなかった。逆に知らないほうがいいこともたくさんあると思います。トレーニングセンターの中では小さい頃からの僕を誰も知らないですから、新たな自分を出せるわけですよね。その点では元々、競馬関係者でなかったことは良かったと思います。

二宮: かえって何も知らなかったことで、自分で色々なことをイメージもできたわけですね。競馬学校の中は相当厳しかったですか?
三浦: 厳しいですね。

二宮: 好きなものを腹いっぱい食べたいなんてわけにいかないものね。ちょうどご飯を食べ盛りの頃だから、甘いもの食べたいなとか、ご飯を食べたいなとか思いませんでした?
三浦: 思いました。というか、そんなことばっかり考えていました(笑)。元々はあまり甘いものを食べるほうではなかったんですが、逆に、その3年間で好きになってしまって。今では甘いものが大好きです。特にチョコレートが好きですね。

二宮: ジョッキーはあまり体が大きすぎてもいけません。背が大きくなることは気になりませんでしたか?
三浦: あまり気になりませんでした。武豊さんは身長が高いですし、武幸四郎さんはもっと高いですし。体重さえ制限できていればいいかなくらいにしか思っていなかったです。むしろ背は男として少しは高くなりたいなというくらいでした。170cmとまでは言わないですけど、それに近いくらいは欲しかったですね。

 目標は大物お笑いタレント!?

二宮: 騎乗について、所属厩舎の調教師である河野(通文)先生に色々言われるとは思いますが、どのようなことを言われるのですか?
三浦: 乗り方よりも、どちらかというと人間性の面では強く言われることのほうが多いです。先生も僕を立派な大人にしたいと想ってくださっていますし、言葉では表しにくいですが、親のように厳しかったり優しかったり、僕をちゃんとした人にしてくれているんだなということは伝わってきます。

二宮: テレビで三浦さんのドキュメンタリー番組を観ていたら、かなり怒られていましたね(笑)。
三浦: 「最低なレースでした」というやつですね(苦笑)。ああいうことは実際、競馬の中ではしょっちゅうあることなんです。それがたまたま大きく取り上げられてしまって……。もちろん、周りに迷惑をかけていることは申し訳ないですが、普段からああいうことの繰り返しです。

二宮: 怒られる時の口調は厳しい?
三浦: 厳しい時は厳しいですね。レースが終わった後に、何となくわかるんです。ああこれはヤバイなって。テレビで取り上げられていた時も、引き上げてくる時からこれは怒られるなと思っていました。そういう時は先生にあまり会わないように、こう、こそこそと(笑)。でも、やっぱり、しっかりと叱られています。

二宮: これまでに自分で一番会心のレースというのはありますか?
三浦: 自分の中でこれは完璧だったと思うレースはいくつかあります。本当は完璧といってはいけないと思うんですが、自分の今の能力でやり切れることは全部やったかなというレースがいくつか。そう思うことが、普段の苦労や努力に向けた、自分への一番のご褒美になるんじゃないかと考えています。自分を褒めることは大事だと思いますし、僕は結構褒めて伸びるタイプなんで(笑)。褒められたほうが、自分のリズムがよくなっていく。リズムがいい時には手がつけられないというような、自分でもなんで勝てるのかわからないくらい、調子がいい時があります。(昨年9月に)8レース連続で2着以内に入った時も、何でこの馬が走るんだろうとか、自分でも想像できないくらい馬が動いてくれました。

二宮: なるほど、自分を褒めて自分を励まして、ということですね。今年は2年目のシーズンということで、当然G1も視野に入れているでしょう。この辺りまでで獲っておきたいという計画のようなものはありますか?
三浦: G1を獲れるものなら、すぐにでも勝ちたいですね。ポンポンポンポン獲りたいです。でも当然、そういうわけにもいかない。相手はジョッキーを何十年とやっている先輩方です。そこに1年目、2年目の僕らが行って、重賞を獲りました。G1で勝ちましたというような、そんな甘い世界ではないです。しかし、相手は人間だけじゃない。競馬は必ず馬が入ってくるので、付け入る隙はあるんじゃないかと思います。そこを狙っていくしかないですね。

二宮: G1最年少記録というのは、武豊さんの19歳8カ月です。
三浦: そうなんですか? あまり意識していないので、全然わからないんです。僕は勝てるんだったら、1日12レース、土日で24レース全部勝ちたい。結局、1週間で勝てても2個、3個ということは、残り20個近くは負けているわけです。だから、勝てるときには勝ちたいですね。

二宮: しかし、しっかりしていますね。とても19歳とは思えない。最初から勝負師という職業を選んだからか、心構えが普通の19歳とは違いますね。
三浦: 僕はぱっと見て、威圧感やオーラがある、格好いい人になりたいと思っているんです。年をとっても格好いい人になりたいですね。

二宮: 競馬で目標にする人はいないとおっしゃっていたけれど、他の世界で三浦さんが格好いいと思う人はいますか? 
三浦: (明石家)さんまさんです(笑)。頭の回転が速いし、いつも面白い。さんまさんならこういう返しをするという期待ができますよね。たくさん番組も持っているし、常に笑いが取れる。そこがすごいと思います。僕も期待に応えられる人になりたい。どちらかというと、プロスポーツ選手というよりも、別世界の人に惹かれますね。

二宮: さんまさん、それ聞いたら喜びますよ。番組に呼ばれるんじゃないですか(笑)?
三浦: 呼んでいただければ嬉しいですね(笑)。


三浦皇成(みうら・こうせい)プロフィール>
1989年12月19日、東京都出身。5歳の時、競馬場でポニーに触れたことをきっかけに騎手を志す。2008年3月1日デビュー、騎乗3戦目で初勝利。以後、驚異的なペースで勝利し、10月25日に70勝目を挙げ、新人年間最多勝記録を更新。その後、記録を91まで伸ばす。通算1026戦113勝(09年4月13日現在)。美浦・河野通文厩舎所属。162センチ、46キロ。


<小学館『ビッグコミックオリジナル』5月5日号(今月20日発売)の二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて三浦騎手のインタビュー記事が掲載されています。そちらもぜひご覧ください!>