当たり負けしない屈強さと無類のタフネス、そして優れた得点感覚を併せもつセントラルMF。彼に守備的な中盤を意味するボランチという言葉は似合わない。Jリーグ屈指の攻撃力を持つ川崎フロンターレの中でも、異彩を放つ攻撃スタイル。長身から放たれる強烈なヘディングや豪快なミドルシュートで得点を重ねる。谷口博之はこれまでの中盤の概念を覆す選手になるかもしれない。次世代の日本代表を背負う大型MFを当サイト編集長・二宮清純が直撃した。
二宮: 谷口さんは昨シーズン、中盤の底に位置しながら10ゴールを決めています。06年は13ゴール。このポジションで2桁取るというのは、相当な得点感覚ですね。
谷口: 僕の場合、すごいシュートとかはあまりなくて、セットプレーでこぼれ球を押し込むとかヘディングで決めることが多いので……。

二宮: それはいい所にいるということでしょう。FWの経験はあるんですか?
谷口: 常にFWをやっていたというのは、中学校の一時期だけです。

二宮: シュートに関して、貪欲な気持ちは持っている?
谷口: はい。チャンスがあったらとりあえずシュートを打つ。僕はあまり周りが見えていないので、とにかく打つことを心がけています。打つときにもあまりコースを狙わない。まっすぐ狙って打つと、結局ズレてしまうことのほうが多いです。

二宮: あまり狙っていないんですか?
谷口: 狙っていないですね。なんとなく、という感じです。それがいい所に行っちゃうんですよ、下手くそだから(笑)。よっぽどうまい選手でないと、狙った所には行かないと思うんですよね。もちろん、狙って打つ場面もありますが、そんなゴールは2、3点くらいしかないですね。

二宮: ヘディングも強いですね。
谷口: ジャンプ力があるわけではないんですが、競り合いを怖がらないですね。そういうところが強さなんですかね。

二宮: フィジカルには自信がありますか?
谷口: スピードがある方ではないので、ぶつかった時には必ず負けないように心がけています。

二宮: 監督の関塚さんからはどういうサッカーをしてくれと言われていますか?
谷口: しっかりとした守備から、自分の特長である2列目、3列目からエリアの中に入っていく動きを出していくように言われています。中盤ではボランチの仕事をもっとシンプルな動きで、ボールを多く触るように指示されますね。

二宮: 前線に上がるのは、自分の感覚で動くわけでしょう?
谷口: そうですね、感です。経験ではないです。

二宮: そのへんにセンスを感じます。
谷口: いや、運がいいんです。本当に運がいいだけなんです。

二宮: 日本ではポジションによって守ればいいという風潮もありますが、外国の超一流は中盤の選手でもみんな点を取っていますもんね。
谷口: はい、僕もゴールが1番評価されると思っています。

 ACLで2年前のリベンジを!

二宮: 同じポジションには先輩の中村憲剛選手がいます。彼にライバル意識はありますか?
谷口: ライバル意識ですか? それは全くないです。憲剛さんとはタイプも違いますし、盗むべきところがたくさんありますから。もし自分が憲剛さんのようなプレーができるようになったら、もっといい選手になれると思うので、たくさん参考にしています。

二宮: 具体的には?
谷口: ボールを受けてから後の前の向き方や、前方に出すパスの質です。その点では日本の中でもトップクラスの人ですから。近くにいてすごさがわかりますし、その部分ではいつも憲剛さんに任せっきりなんですけど(笑)。

二宮: 谷口さんと中村憲剛選手が中盤の底にいる。これがフロンターレの一番の強さでしょう。
谷口: 僕が上がっている時は憲剛さんが後ろのほうでバランスを取ってくれるし、その逆もある。2人のバランスがいい方向に出ていれば、チームもいい状態になると思います。

二宮: 北京オリンピックは残念な結果でした。3試合の中で得たものはありましたか?
谷口: 3試合戦って、完全に負けたということではなかったと思うんです。ボールを奪いにいっても、身体をしっかりいれれば勝てる部分はありました。もう少し、あと一歩で互角に戦えるところまでは来ているんです。だから、もう一度世界を相手に戦いたいという気持ちを強く持って北京から帰ってきたし、ワールドカップや海外でのプレーを考えるようになったし、その意欲も出てきました。

二宮: 一緒にプレーしていた内田篤人(鹿島)や長友佑都(FC東京)はA代表でバリバリやっていますよね。ああいうのを見ると、オレもという気持ちは強いでしょう。
谷口: はい。もちろん。代表合宿に呼ばれたことはありますが、出場はしていません。Jリーグでアピールして代表戦にも出場したいですね。

二宮: 今年のフロンターレはリーグ優勝の他にもう一つの目標、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)があります。優勝すればクラブW杯に出られる。一昨年はレッズが、昨年はガンバが出場しています。フロンターレは毎年、Jリーグでいい所まで行きますが、アジアでの戦いは惜しいところで敗れています。今年こそという気持ちは強いんじゃないですか?
谷口: もちろんです。2年前のACLは自分がPKを外して終わってしまって悔しい思いをしているので……(07年ACL準々決勝セパハン戦。2試合合計0−0。延長でも決着つかず、PK戦へ。4人目の谷口がPKを止められ、フロンターレは敗退)。あの時はPKを完全に読まれてしまった。そのリベンジをしたいですね。

二宮: クラブW杯では、ワールドカップとは別の意味で世界との戦いが待っています。世界一になるという道も用意されている。欧州勢が強いということはありますが、彼らと手合わせしたいという気持ちも強いのでは?
谷口: ヨーロッパのクラブとも戦いたいですね。昨年のガンバとマンチェスター・ユナイテッドの試合も面白かった。自分たちも世界の強豪とやりたい気持ちがあります。

 挑戦するならセリエかブンデスリーガ!?

二宮: 身長は182センチありますね。身体が大きくなったのはいつからですか?
谷口: 中2の終わりくらいから急に伸びました。中学に入学したときは148cmくらいしかなかったんですが、中2からガツンと。中3の時には175cmくらいはありましたね。高校では5センチくらい伸びたんですかね。

二宮: 身体的な理由で、リーグ戦で敵わないと感じたことはないでしょう?
谷口: Jリーグの中にも当たりの強い選手はいるとは思うんです。ただ、彼らはセンターバックの選手に多いので、ポジション的にぶつからないですね。

二宮: これまでで1番やりにくい選手というのは誰ですか? コイツは捕まえにくいとかやりづらいとか。中盤の選手が多いと思いますが。
谷口: 素晴らしい選手が本当にいっぱいいます。ガンバの中盤は全員巧いですからね。遠藤(保仁)さんとか橋本(英郎)さん、二川(孝広)さん、明神(智和)さんと。あのへんは厄介です。でも、ガンバやグランパスのように、中盤でパスをしっかりつないでくる相手のほうがサッカーらしくて楽しいし、そういうサッカーをしたいですね。

二宮: 気持ち的には攻撃サッカーのほうが性にあっている?
谷口: そうですね。しっかりとした守備から速い攻撃でエリアに入っていくのが自分のスタイルです。

二宮: 鹿島のマルキーニョスとかやりにくそうですよね。浦和のポンテとか。
谷口: 特にケガをする前のポンテは嫌な相手でしたね。

二宮: 海外の選手で気になる選手や自分の中で意識している選手はいますか?
谷口: あまりいないんですが……。(スティーブン・)ジェラード(リバプール、イングランド代表)は素晴らしい選手だと思います。

二宮: そういえば、少しスタイルが似ていますよね。ポジション的にも近い。
谷口: いや、あの人は世界一のMFですから。あとは(ミヒャエル・)バラック(チェルシー、ドイツ代表)ですね。

二宮: ヨーロッパのクラブにも興味はありますか?
谷口: はい、行きたいですね。

二宮: イングランドやスペインとか?
谷口: 今、行けるのであれば、イタリアかドイツに行きたいです。

二宮: 自分がどこまで通じるか試してみたい?
谷口: サッカー人生は本当に短いので、自分の限界に挑戦してみたいです。自分にそこまでの実力があるかどうか。今はまだ、欧州で通用するレベルにないと思うんですが、チャレンジし続けていかなければいけないと思っています。

二宮: イタリアとドイツに行きたいというのは、スペイン、イングランドとなにか違う理由があるのですか?
谷口: スペインはボール回しがうまいし速い。自分のタイプとはサッカーの質が違います。イングランドにしても、やはり速いですよね。ドイツやイタリアはしっかりした守備から攻撃を組み立てる。合っているのはこちらかなと思います。

二宮: イタリアは合っているかもしれないですね。相手を潰していくというようなスタイルです。
谷口: 日本人だと中盤の選手が1対1を仕掛けてこないので、海外のリーグで1対1の勝負をしてみたいですね。

二宮: 5年後、10年後と、将来的な自分の姿は描いていますか?
谷口: もちろん日本代表に入りたいですし、海外でもプレーしたいですね。それが一番の夢です。


谷口博之(たにぐち・ひろゆき)プロフィール>
1985年6月27日生まれ、神奈川県出身。6歳からサッカーを始め、鴨居SC、横浜F・マリノスjrユース、同ユースを経て、2004年、川崎フロンターレに入団。05年からボランチとしてレギュラーに定着。08年北京五輪代表に選出され、3試合で先発出場した。06年Jリーグベストイレブン、J1・J2通算141試合出場、33得点。182センチ、73キロ。



<小学館『ビッグコミックオリジナル』6月5日号(本日発売)の二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて谷口選手のインタビュー記事が掲載されています。そちらもぜひご覧ください!>