華々しい京セラドームでの開幕戦から、わずか2カ月。関西独立リーグが存続の危機に陥っている。リーグ運営会社による所属4球団への分配金未払い問題は、最終的にリーグの資金不足が判明し、支払われないことになった。運営会社は撤退し、4球団が合議制でリーグの舵取りを行う。とはいえ分配金3000万円を球団運営の大事な収入として見込んでいた各球団は、給料の遅配や大幅なコストカットが避けられない事態に追い込まれ、状況は深刻だ。日本初の都市型独立リーグはなぜつまづいたのか。そして、再生に必要なものは何か。先行の四国・九州アイランドリーグ、BCリーグなどの事例も交えて検証したい。
(写真:神戸のホーム球場、スカイマークスタジアム。球場使用料が高く、神戸球団全体の経費は月額で約600万円になっていた)
 独立リーグ運営会社の役割

 関西独立リーグでは、運営会社の「株式会社ステラ」がリーグを統括し、リーグスポンサーによる支援や放映権収入で得た資金を各球団に分配するシステムがとられていた。これはアイランドリーグ、BCリーグでも同様だ。

 5年目を迎えたアイランドリーグでは、各球団の経営状態や観客動員数なども勘案し、傾斜配分で分配金がリーグから支払われている。2年前、親会社がみつからず球団消滅の危機に陥った高知ファイティングドッグスには昨季、約3000万円の分配金が支払われた。一方で観客動員が多く、経営体力のある愛媛マンダリンパイレーツや香川オリーブガイナーズに支払われている分配金は数百万円単位と少ない。また、これとは別に経営難に陥った球団を一時的にサポートするための資金もリーグはプールしている。昨オフは長崎セインツに2000万円を貸し付けた。

 BCリーグでは1年目、一律2000万円を各球団に支払った。2年目以降はリーグ側と各球団が話し合いの場を持ち、現状に即したビジネスモデルを構築した上で資金を分配している。両リーグとも各球団は分社化されているとはいえ、その実情はまだ“よちよち歩き”。地域に浸透するのに時間がかかり、収支は赤字だ。球団が地元に根付き、ひとり立ちをしていく過程で、リーグからの支援は欠かせない。特に関西独立リーグは1年目で、各球団のチケット販売やスポンサー集めの体制がまだ整っていない。各球団は当面の運転資金としてリーグからの3000万円をアテにしていたはずだ。

 リーグスポンサー集めで苦戦?

 リーグ側からは当初、3月末までに分配金が支払われるはずだった。しかし、それは明文化されたものではなかったという。各球団はリーグ側の「間違いなく支払います」との口約束を信じるしかなかったのだ。ここにひとつの落とし穴があった。ある球団の代表者は昨秋、リーグよりスポンサーの候補リストを見せられた。国内で名の知れた大企業がズラッと並んでいた。「現時点でも資金は2億あります」。これだけの企業がスポンサーにつけば、かなりの額になる。そう直感した。

 だが、前後するように米国の金融不安に端を発する世界同時不況の荒波が日本に押し寄せた。リストの中から実際にスポンサーとなったのは、その代表の記憶によればわずか1社。しかも、リーグスポンサーがどのくらいの数、金額で集まっているのか、各球団への報告は全くなされていなかった。

 ようやく球団側が異変に気づいたのは3月中旬。納品されたユニホームのリーグスポンサーのロゴスペースが空いていた。リーグに問い合わせると「4月からの契約なので、後日お送りします」。しかし、4月になってもロゴは届かなかった。そして3000万円の入金もなかった。

「野球を通じて、青少年の健全育成と関西の地域活性化を図ります」
 リーグ設立の趣旨にはそううたわれている。他のリーグを見ればわかるように、最初から経営が軌道に乗るとは限らない。それでも球団を設立し、リーグへの参入を決めたのは、単なる損得勘定ではなく、リーグの理念に共感した部分が大きかったはずだ。

 しかし、心意気だけでは大きなプロジェクトは進展しない。分配金について明文化しなかった点や、リーグ内での情報共有がなされなかった点をみると、互いの信頼関係を壊さないようにするあまり、スタート前に踏み込んだ議論ができなかったことがうかがえる。先日の会見でのトタバタぶりはリーグのコンセンサスがいかにとれていなかったかを物語っていた。リーグと球団がそのような関係では、遅かれ早かれ船は蛇行しただろう。

 高い注目度の裏で……

 開幕前からリーグの注目度、認知度はアイランドリーグやBCリーグに比べればはるかに高かった。PRに大きく貢献したのは、男子と交じってプレーする初の女子プロ野球選手となった吉田えり投手(神戸)である。ドラフト指名が決まってから、各メディアはこぞって話題をとりあげた。「独立リーグは地に足をつけなければやっていけない。予想外の反響で浮き足立ってしまったのではないでしょうか」。他の独立リーグの関係者はそう語る。

 これだけ注目されれば、お客さんもスポンサーも集まるはず。そんな空気がリーグ内に少なからず存在したことを表すエピソードがある。3つのリーグの担当者が集まり、独立リーグ日本一を決める秋のグランドチャンピオンシップについて協議していた時のことだ。各優勝チームによるホーム&アウェー方式を主張したアイランドリーグとBCリーグに対し、関西独立リーグは京セラドームでの一極集中開催を主張した。

「うちなら2万人は集められる。冠スポンサーもつく。収益が出れば分配できますよ」
「それは神戸対香川や、大阪対富山の組み合わせなら可能かもしれません。でも、アイランドリーグとBCリーグの対戦カードになったら、それだけのお客さんを集められますか?」
 反論に対する明確な答えはなかった。

 そもそもグランドチャンピオンシップを実施するにあたっての日程の確保が関西側にはできていなかった。それは7月後半以降の後期日程のスケジュールが固まっていなかったことに起因する。「正直、本当に1年目のリーグ戦が終わるのか、よそのリーグながら心配になってしまいましたよ」。会議の参加者はこう語っていた。

 目立った見通しの甘さ

 日程が固まらなければ、チケットの販売も告知もできない。そして野球リーグでありながら、オフィシャルサイト上での公式結果の配信も開幕戦に間に合わなかった。「誰が投げて、誰が打ったのか試合に来られない人はまったくわからない」。ネット上にはファンからの不満も寄せられていた。「1から10まで全部準備したと思っても、始まってみれば想定は狂う。クリアしなくてはいけないことが100くらいあるんですよ。リーグも球団も単純に準備不足だったのではないでしょうか」。他の独立リーグで球団立ち上げに携わった人間の意見だ。

 選手の月給が一律20万円という給与体系も高過ぎたとの意見もある。他の2リーグでは選手の給与を10〜40万円と設定しているが、平均すれば15〜20万円。地方と都市部では物価が異なるとはいえ、関西の選手は“好待遇”だった。しかも優秀な選手を確保しようと他の独立リーグから“引き抜き”も行われた。入団にあたって好条件を提示された選手も少なくないという。

 だが実際にフタをあけてみると見通しと現実は乖離した。観客動員数は京セラドームでの開幕戦こそ1万人を超えたが、以後、目標の2000人に到達した試合は4試合しかなかった。球団経営の根幹である入場料収入の計算は大きく狂った。

「関西は人口が多いだけに、試合をすればお客さんが集まると思っていたのでは? 危機感が足りなかったのでしょう」
「球団運営には年間で約1億円〜1億5000万円かかる。確かに3000万円の分配金は大きなウエイトを占めますが、残りは自分たちで営業して集めなくてはいけない。3000万円がなければ、すぐに経営が立ち行かなくなるのでは、球団側の見通しも甘かったのかもしれません」
 今回の件でアイランドリーグ、BCリーグの担当者に話を聞くと、さまざまな意見が飛び出した。

 資金集めと後援会組織の充実を

 ピンチの後にはチャンスあり――野球では、よくこの言葉が使われる。関西独立リーグも、まさにこの表現がピッタリだ。アイランドリーグも1年目は経営が火の車に陥っていた。選手を確保するトライアウトをドーム球場で開催したこともあり、開幕前から多額の経費がかさんだ。スポンサー営業をしようにも人件費に資金がまわせなかった。経営は悪循環に陥り、ついには給料の遅配も生じた。初年度の赤字は3億1500万円。しかし、度重なる増資で資本金を3億4000万円に伸ばし、なんとか急場をしのいだ。

「今、必要なのはとにかく球団が資金を集めることです。現状は血液が足りない状態。輸血しなければ、死んでしまう」
 立て直しに携わったアイランドリーグの関係者はそう指摘する。まず各球団は当面の運営資金を確保することが先決だ。幸いなことに都市部ゆえに企業の数は多い。いきなり数百万円単位は無理でも数十万円単位であれば支援を申し出るところも出てくるだろう。ここは営業の人員を増やしてでも、早急に開拓しなくてはいけない。

 そして、地域全体で球団を支える体制を構築すべきだ。球団経営が軌道に乗っているところでは、後援会組織が充実している。たとえばBCリーグの信濃グランセローズでは県内81市町村それぞれで後援会組織が立ち上がり、球団を物心両面でサポート。球団側は各地で野球教室を開催し、地域との結びつきを強めている。地域活性化はリーグか掲げていた理念のひとつだ。球団は1営利企業ではなく、地元の公共財。この点をしっかり強調し、自治体や商工会など地元の各団体に協力をもっと仰がなくてはいけない。支える人が増えれば、それぞれの負担は軽減する。親会社だけが四苦八苦している状況では、いずれは立ち行かなくなる。

 地元との関係を密にする中で、コスト削減が可能な部分も出てくる。たとえば球場使用料の減免だ。関西にはアマチュアの野球組織が多数あるため、他の団体と同様に球場使用料を満額で支払っているところが多い。独立リーグだけ特別扱いできないという行政側の論理も理解できる。仮に球場使用料の減免が難しいのであれば、せめて球場内での飲食やグッズ販売の収入がまるまる球団に入る仕組みにすべきだろう。

 リーグ存続に不可欠な試合開催

 プロスポーツにとって、試合は最大のコンテンツであり、収入源である。リーグを続ける以上、この点は見失ってはならない。新型インフルエンザの影響もあり、今週末の試合はすべて中止になった。リーグ戦は28日から再開予定だ。しかし、代替試合分の球場確保も含め、今後の日程は先が見えないところも多い。これまでリーグ側が負担していた審判や公式記録員、ウグイス嬢などの人件費や、公式球を購入する経費も試合の運営費にプラスされる。

 ある関係者は「最悪、試合数の削減も考えなくてはいけない」と語っていた。これは本末転倒だ。試合をしなければ入場料収入も入らない。スポンサーも支援しにくい。選手を保有している意味も薄れてしまう。選手に営業活動やファンサービスに取り組んでもらうことも重要だが、まずは本業の野球で観客を沸かせることが一番だ。プロ球団である以上、野球に専念させる環境を確保することは、最低限の仕事である。

「今回の一件で、独立リーグはダメだというイメージが広がらないか懸念している。同じ仲間としてなんとか頑張ってほしい。そのためのノウハウは可能な限り提供してもいいと思っています」
 そう語る他リーグの経営者もいる。運営会社は撤退したが、まだ球団自体は残っている。そして全国にはアイランドリーグ、BCリーグ合わせて12のチームがある。先行事例から学べば、再建策へのアイデアは出てくるはずだ。

「夢と希望と元気を与える場」として産声をあげたリーグが、今では選手たちの夢と希望と元気を奪う場になりかけている。金がないなら知恵を出そう。まだすべてが終わったわけではない。この騒動がリーグがもう1度、夢見る場所に生まれ変わるための第一歩だと考えたい。

(石田洋之)