日本人初のNBAプレーヤーで昨季は6年ぶりに日本でプレーした田臥勇太(リンク栃木ブレックス)が30日、都内で会見を開き、NBAのダラス・マーベリックスのミニキャンプ(6月11、12日)に招待され、6月2日に渡米することを明らかにした。田臥は6月10日に開幕する東アジア選手権の日本代表候補に選ばれ、11年ぶりに日の丸のユニホームに袖を通すことが確実視されていた。当面は日本代表を離れ、最大の目標であるNBA復帰を目指す。なお、田臥の代表に対する思い、NBAへのこだわりを当HP編集長・二宮清純に語ったBS朝日『勝負の瞬間(とき)』が、31日22:00〜放送される。
(写真:「チャンスをもらえたことはうれしい」と語る田臥)
 5年ぶりのNBAのコートに立つための道は突然ひらけた。東アジア選手権に向け、代表合宿に参加していた28日、代理人を通じてキャンプ招待の連絡が入った。「サマーリーグのトライアウトは6月下旬。この時期から呼ばれるのは初めて」。本人にも予想外の知らせだったが、あらかじめ田臥は代表参加にあたって、トレードチャンスがあれば、そちらを最優先する条件を協会側に出していた。「東アジア選手権に向けては痛手だが、日本バスケット界のため。当初からの予定なので快く送り出すことにした」。日本バスケットボール協会の倉石平強化部長も、その決断に理解を示した。

 NBAの開幕ロースターに入るには厳しい戦いが待っている。通常は7月からスタートするサマーリーグでチームの若手や入団を目指す選手たちがプレーし、選ばれた者のみがサマーキャンプに参加する。さらに9月のトレーニングキャンプ、10月のプレーシーズンを経て、NBAの開幕時点で生き残るのは各チームわずかに12名だ。

 今回、田臥が参加するのは、NBAへの登竜門といわれるサマーリーグの前段階にあたる部分。「先の保証は何もない」。本人によれば、どのくらいの人数が参加し、何名が次のステップに進めるかは、まだ分からないという。田臥にとってマーベリックスは03年、06年のサマーリーグで所属したチームだが、いずれの年も競争を勝ち抜くことはできなかった。

 昨季、田臥は6年ぶりに日本でプレーした。「高いスタッツを残すという個人的な目標も、プレーオフ進出というチームの目標も達成できなかった」。本人には不満が残ったシーズンとはえ、アシスト、スティール部門ではリーグトップ。日本を代表するポイントガードとして存在感を充分に示した。

 そんな田臥の胸のうちでNBAへの夢とともに年々、湧き上がってきたのが日本代表で戦いたいという気持ちだ。これまでは海外でのプレーを重視し、代表入りを辞退してきた男にどんな心境の変化があったのか。31日に放送されるBS朝日『勝負の瞬間』では二宮のインタビューに次のように語っている。

二宮: 田臥選手もご覧になったと思いますけど、野球のWBCで日本はすごく盛り上がりました。最初は不調だったイチロー選手が、どんどん調子をあげて、最後は決勝タイムリーを放った。ドラマのような大団円だった。ああいうのをご覧になったら、日本代表っていいなと興味をお持ちになったのではないかと思います。
田臥: まったく、そのとおりです。国のために戦うっていうことが、こんなに意味があることなんだと。かなり影響を受けましたね。

二宮: 代表入りとなると、本当にひさびさになりますね。
田臥: 高校の時以来ですね。それからも候補に入ったことはあったんですけど、アメリカ挑戦にシフトしていたので辞退してきました。
 サッカー日本代表の中澤(佑二)さんに話を聞いても、自分のためだけではなくて、国のために戦うことを並行していくことも素晴らしいことだと。自分も日本のバスケ界を引っ張らなくてはいけない立場になってきたので、個人の夢と代表での活動を両立させるやり方を示すことも大切だと感じるようになりましたね。

二宮: サッカー日本代表、野球日本代表はもちろんですが、田臥さんがバスケットボールを始めたころよりは、はるかに日本代表に対するブランド価値は上がっている。田臥さんにオリンピックに連れて行ってほしいと思っている日本のファンも多いはずですよ。
田臥: 今までは、そこまでの責任感や考えをあまり持っていませんでした。今回の代表候補入りを機に、そういう気持ちを強く持ってプレーしていこうと思っています。

 この思いは渡米を決断した今もまったく変わらない。それだけに代表を離れることには正直、迷いもあった。「チームも固まってきたし、ヘッドコーチとは英語がしゃべれるので、密なコミュニケーションがとれていた。大会が近づいている中、迷惑をかけてしまう」。それでもキャンプ招待の一報を他の代表候補たちに伝えると、「8月の世界選手権予選(アジア選手権)に出られるようにしとくから頑張ってこい」と逆に励まされた。その言葉に「代表チームの一員だと思って」、チャレンジする気持ちが固まった。

「NBA復帰がどれだけ厳しいかは自分が一番、分かっている。スピードは通用する自信はある。ただ、選手のサイズは、とんでもない世界。シュート力やディフェンスでの1対1の強さがある。うまく対応したい」
 2004年にフェニックス・サンズで日本人として初めて最高峰の舞台でプレー。開幕1カ月半で解雇されて早くも4年半の月日が流れた。当時との違いを本人は「何が必要で、何が足りないかわかっていること」と分析する。「キャンプでもチームプレーより、1対1や3対3で個人の能力をみられると思う。1本でも多くシュートを決めて、アシストするだけ」。経験を大きな武器に173センチの小さな体で難関を乗り越えるつもりだ。

「勝負の瞬間が来たという感じです」
 田臥は会見で力強く言い切った。「これまでで一番、遠い道のりになる」と本人も語るサクセス・ロード。そのスタートラインに日本バスケ界のパイオニアは再び立っている。

 ちなみに31日放送の『勝負の瞬間』では、インタビューに加え、実際にボールを持ってドリブルやシュートのポイントを披露。雑誌の表紙を飾った高校時代からの写真を見比べながら、当時の精神状態を振り返る場面もある。「バスケットは天職」「NBA復帰というチャレンジができるのは日本に僕しかいない」。ひとつひとつの言葉から田臥勇太の魅力が伝わってくる内容だ。バスケットボールファンならず、すべてのスポーツファンが楽しめるスペシャルプログラム。放送は22:00〜22:55。どうぞ、ご期待ください!

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(石田洋之)