08−09シーズン、欧州の新天地に活躍の場を求めた日本人選手がいる。FW福田健二。これまで3カ国6つの海外クラブを渡り歩いた彼が選んだ4カ国目の土地はギリシャだった。全く触れたことのない文化や新しい環境、ギリシャサッカーに挑戦したgoleador(スペイン語で“点取り屋”の意味)の1年間を、携帯サイト「二宮清純.com」で彼自身が執筆するコラムのダイジェストで振り返る。
「僕にとってギリシャは以前から身近な場所でした。なぜなら、スペインリーグからギリシャに渡る選手や指導者はかなりの数に上り、逆にギリシャからスペインに戻る選手も毎年多くいるからです。彼らからギリシャリーグの話をよく聞いていたので、僕の中ではギリシャに移籍するという選択は自然なものでした。移籍したのは2部リーグに所属するイオニコス。近年まで1部にいたクラブですから、シーズンの目標は当然、1部昇格でした」

ギリシャで移籍後初ゴールを挙げたのは第3節のことだった。

「9月中旬に開幕したギリシャリーグで、待望の初得点を挙げることができました。第3節のアグロティコス・アステラス戦、後半17分でのゴールでした。

 カウンターアタックで相手守備陣と3対3の状況を作り、中盤の選手がDFを2人引きつけ、ラストパスを足元に出してくれました。前に飛び出してきたGKを冷静に見て、シュートをゴールに流し込めました。

 自分に求められているものは、やはり得点です。3試合目という早い段階で、期待に応えることができてほっとしています。

 FWはゴール以外で活躍したとしても、どこかで不安があるものです。チームの首脳陣、選手はもちろんのこと、サポーターからも信頼を勝ち取るためには、得点という結果が一番わかりやすい。周りから信頼を勝ち取れたかはまだわかりません。ただ、シーズンが終わった時に振り返ってみると、1点目を取ったこの試合が大きかったということになると思っています」

初得点後、福田は立て続けにゴールを奪った。チームも2位を快走し、1部昇格に向けて順調に歩みを進めていくものと思われた。

「先日の第5節、6節の試合で連続ゴールを挙げました。第5節は退場処分の出場停止明けで、モチベーションを高く持って試合に臨むことができました。得点を決めたのは前半31分。チームも1−0で勝利することができました。チームメイト達が僕の得点を祝福してくれたことも嬉しかったですね。

 続く第6節では終了間際にダメ押し点を挙げ、2−0で勝利。イオニコスは5勝1分けで2位につけています。まだシーズンは始まったばかりですが、昇格圏内のこの位置をキープしていきたいですね。

 次節はホームで首位PASヤニナとの直接対決が控えています。今の勢いそのままに、勝ち点3を奪いたいです」

首位奪取に向け必勝態勢で臨んだ第7節。福田とクラブにとって思いもよらなかった災難が降りかかる。

「前回のコラムでは連続ゴールの報告ができたのですが、今回は嬉しくない報告をしなければなりません。第7節の首位攻防戦、前半終了間際に怪我をしてしまいました。ホームで必勝を期した戦いで、負傷してしまったことは本当に悔しいです。

 相手コーナーキックのボールにヘディングで競り合ったのですが、倒れこみながら着地した時に自分の膝の上に相手選手が乗っかってしまったんです。その衝撃で左膝の内側をひねってしまいました。しかもこのシーンでは、こぼれたボールを押し込まれ、先制点を許してしまったんです。

 このプレー直後に前半が終わったのですが、ハーフタイムにチームドクターと相談して交代することになりました。試合後に病院で検査を受け、靭帯損傷で全治1カ月という診断結果が出ました。

 実はサッカー人生の中で、膝の怪我は初めてでした。これまで一度も痛めたことのない箇所なので、どういうものかわからない。だから若干の不安もあります。しかし、サッカーをやっている以上、怪我は誰もが一度は通る道です。今回はたまたま自分に悪い番が来ただけのこと。膝は重要な部分なので、じっくり治療していきたいと思います。試合に出られない時間は積極的な休養と考えたいですね。

 怪我をして1週間、歩くこともままならなかった状態から、今では自力で動けるようになってきました。自宅でゆっくりしながらも、体は汗を掻きたくてウズウズしています。ただ、膝を万全な状態にすることが最優先です。しっかりと治して、またピッチに戻ってきます。復帰できたら、すぐにゴールの報告ができるようにしたいですね」

全治1カ月という診断が下された左膝の負傷。しかし、靭帯損傷というケガは完治が難しく、2カ月以上が経ってもピッチに戻ることは叶わなかった。

「明けましておめでとうございます。怪我をしていた左膝の状態はほぼ良くなりました。12月21日の試合からはベンチ入りしています。しかし、監督から『無理をさせたくない』ということで、いまだピッチに立つことは叶いません。

 僕としてはここまで怪我が長引くとは思っていませんでした。11月の初めに負傷したので、もう2カ月。ヒザの内側の靭帯というのは相当やっかいな部分のようです。練習ではDFとぶつかっても全く問題なし。出場したい気持ちはやまやまですが焦らずに自分の出番を待つのみです。

 現在イオニコスは4位と、昇格圏内の3位までは勝ち点1差のところにつけています。首位までは勝ち点4差です。しかし本来ならばイオニコスはもっと上にいなくてはいけないクラブ。自分の足の状況とあわせて何とも歯がゆい現状です」

10試合の欠場を経て、迎えた待望の復帰戦。この試合で福田は点取り屋としての仕事をしっかりと果たした。

「こんにちは。早速ですが、1月11日に行われた第17節、カヴァラとのアウェー戦で復帰し、決勝ゴールを挙げることができました。左膝の靭帯を痛めて2カ月以上、試合に出ることができず、みなさんにもご心配をおかけしましたが、やっと結果を残すことができました。

 イオニコスはこの試合前まで4位でした。カヴァラは3位のクラブで、勝てば順位が入れ替わり、負ければ突き放されるという非常に重要な試合で、僕がピッチに入ったのは0−0で迎えた後半25分。お互い無得点ながら、押され気味の展開で交代です。なんとかワンチャンスで勝ち越し点が挙げられるよう、僕はDFラインの裏を狙っていました。

 そして、その時はやってきました。スコアレスドロー寸前の後半45分過ぎ。ロスタイム表示の3分になりかけていた時にチャンスは訪れました。

 左サイドバックのイコノムからニアサイドへ低くて早いライナー性のクロスが上がります。クロスが入る少し前から僕はDFと駆け引きをし、一旦彼らの視界から消えました。ボールが来ると同時にニアサイドへ。ボールは右足アウトサイドにピタリと合い、会心のゴールが決まりました。

 終了間際の勝ち越し、しかも2カ月以上の休みがあってのゴール。本当に興奮しました。ゴール後はもみくちゃにされながら、FUKUDAという背中の名前を指差すパフォーマンスをしました。少しでも存在感を示すことができて嬉しかったんです。ずっと信じ続けてくれたチームの仲間達には本当に感謝しています。

 後半戦では今まで休んでいた分も貢献するために、ゴールを決めて結果を残します。そしてイオニコスを1部に昇格させたいです。まだシーズンは折り返し地点を過ぎたところ、今後の僕に期待してください」

しかし、福田の力強い言葉とは対照的に、この頃からイオニコスは下降線を辿ってしまう。僅差の試合で勝ち点を積み重ねることができなくなり、シーズン序盤の好調さが影をひそめてしまった。この頃、福田は厳しいアウェーでの洗礼を受けている。

「第19節ヴェリア戦、第20節アグロティコス・アステーラ戦はアウェーでの試合でしたが、両試合とも悪天候、そしてひどいピッチとの戦いでした。特に第20節の敵地は、ところどころ芝のないようなピッチでコンディションは最悪の一言。これまでパラグアイ、メキシコ、スペイン、ギリシャと4つの国でサッカーをしてきましたが、ここまでひどい環境の中でサッカーをやったのは初めてでした。

 このスタジアムは、サポーター席とピッチが非常に近いんです。しかもピッチの周りを黒い鉄のオリで囲ってありました。かなり危険を感じていたのですが、嫌な予感は的中してしまうもの。ライン際で相手DFと競り合ったときに押されてしまい、そのフェンスに腕から突っ込んでしまいました。

 大事には至らなかったものの両腕の筋肉が切れる程、深い傷を受けました。今も傷は腕に残っています。足から行ってしまっていたらと思うとゾっとします。試合は0−1で敗れ、この日はかなり辛い一日になりました。

 こういう経験も含めて、ギリシャサッカーなんだ、と考えています。地理的にお隣がイタリアなので、ここのサッカーはかなりその影響を受けています。とにかく守って、1点を守り抜くという戦い方が主流。非常に激しい守備が繰り広げられるサッカーです。肉弾戦が耐えませんし、この間のように体に傷が残ることだってあります。

 さらに、アウェーならば、地元ファンからのきつい洗礼も受けます。物が投げ込まれることは当たり前ですし、日本でも一時期問題になったレーザーポインターでの妨害行為も、こちらでは日常茶飯事です」

昇格圏内の3位を確保するための大一番がやってきたのは5月5日の第29節。イオニコスは必勝を期して試合に臨んだ。

「第29節ケルキラ戦。アウェーで4位クラブとの直接対決でした。ここで勝ち点3を手にすれば、まだ望みを捨てずに残り試合を戦うことができます。しかし、負けるようなことがあれば、1部昇格の3位以内は相当厳しくなります。

 僕は先発ではなく、ベンチからのスタートでした。前半を何とか無失点で折り返しましたが、後半23分に先制点を奪われました。僕がピッチに出たのは後半32分から。ところが、81分にも追加点を奪われ、2点のビハインドという苦しい展開になりました。

 残り3分、左サイドからいいクロスが上がりました。ヘディングで合わせたシュートは惜しくもバーへ、ゴールにはなりませんでした。その後も積極的に攻めたものの、点を取ることはできず、そのまま0−2で試合終了のホイッスル。これで昇格圏内の3位までの勝ち点差は10に広がってしまいました。残り5試合ということを考えると、昇格は相当厳しい状態です。

 残り試合はクラブのため、そして自分のためにも、これまで以上にゴールという結果にこだわっていきたいと思っています」

大一番で勝ちを逃がし、1部昇格が絶望的になったイオニコス。そんなクラブにあっても、負傷から復活した福田は好調を維持していた。そして、今後も思い出に残るであろうPKを蹴る場面が訪れた。

「僕自身のコンディションは以前と変わらず良好で、第31節には2ゴール、第33節は1ゴールを奪いました。

 特に31節の2ゴールはいい形で決めることができました。1点目は後半7分、DFの裏を抜けて、キーパーと1対1になったところ、相手DFに足を引っかけられPKを獲得。今シーズン、今までもPKをもらっていましたが、今回は自分自身で蹴ることにしました。ギリシャに来て初めてのPKです。

 PKを蹴ってこなかったことには理由があります。1年以上前、スペイン2部のラスパルマスにいた時のこと。クラブも自分自身もうまくいっていなかったシーズン、ホームゲームで後半ロスタイムに僕がDFに倒されPKをもらったことがありました。1−2のビハインド、1点獲ればドローに持ち込める場面でした。

 この時、自分からボールを抱えてスポットに置き、PKを蹴りました。ホームの声援を背に蹴ったボールはキーパーの足に弾かれ、同点ゴールを奪うことはできませんでした。

 シュートを蹴った直後、僕はピッチに倒れこみ、しばらく動くことができませんでした。それほど大きなショックだったんです。それ以来、このPK失敗が頭の中から離れることはありませんでした。結局、ラスパルマスはこの試合を落とし、浮上するきっかけを逃がしてしまいました。

 あの経験以来、PKを蹴るチャンスがあっても、毎回苦い記憶がよみがえり躊躇して他の選手に譲っていました。しかし、僕の仕事はゴールを1つでも多く奪うこと。普段の練習から、あの失敗を克服すべくPKを何十本、何百本と練習してきました。

 そして、再び自分が倒されて獲得したPK。今回は迷いがありませんでした。必ず自分で決めてやる。胸に秘めて、ボールをスポットにセットしました。
 キーパーの動きをしっかりと見極めて、相手が飛んだ方向と逆に、インサイドキックで流し込むことができました。

 このゴールは僕にとって、大きな得点です。ずっと心の中にあったモヤモヤが晴れました。スペインに置いてきた借りを、やっと1つ返せたという感じです」

新しい挑戦の地・ギリシャでの1年間を過ごした福田にとって、08−09シーズンはどんなシーズンだったのか。

「今季は勝ちきれない試合が多く、それが3位に食い下がれない要因になりました。振り返ってみると、シーズン序盤の勝ち続けていた時に、自分たちの欠点を修正できなかったことが、中盤から後半にかけての足踏みに繋がりました。勝ち点3を獲得した試合でも、すくなからず反省材料はあるものです。そこを自分たちで修正できなかったことが痛かった。

 そして、クラブの流れが悪くなったところで1度負けてしまうと、連敗が続くという悪循環になりました。若い選手が多いこともあり、なかなか立ち直ることができませんでしたね。

 僕自身の成績は24試合に出場して9得点1アシスト。イオニコスの中では得点王です。ただ、ケガで10試合欠場したことが悔しいです。僕が欠場している間にクラブの勢いが止まってしまった部分もありました。やはり外国人選手としてここにいるわけですから、1つでも多くのゴールを奪ってイオニコスを勝利に導くのが僕の仕事。その点では満足できるシーズンではありませんでした。

 どこのリーグでも同じですが、外国人選手というのは活躍して当たり前と周囲から見られます。そんな中でのケガをしてしまったのだから厳しかったですね。ケガで試合に出られなかった時には自分にできる最大限のこと、若手選手にアドバイスをしたり、ベンチからクラブを盛り上げたり精一杯のことをやってきました。

 今では、初めて海外に出たパラグアイの時とは比べものにならないほど、クラブ多くのものを求められます。責任も増していますしクラブの中心選手としてやっていかなければなりません。多くの場面でそう感じたギリシャでの1年でした。

 昇格を目指して戦ってきた今シーズンですが、残念ながらその目標は達成できませんでした。これからも自分のゴールで未来を切り開いていきます。来季はまだどうなるかわかりませんが、今後のこともこのコラムで報告させてもらいます。今シーズンはご声援ありがとうございました」


 携帯サイト「二宮清純.com」では福田健二選手のコラム【さすらいのgoleador】を好評更新中です。最新コラムは「外国人選手に求められること」。ギリシャリーグで活躍中の福田選手の声をぜひお楽しみください。

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