元女子ソフトボール日本代表の高山樹里が再びオリンピックに挑戦し始めた。2010年のバンクーバー冬季五輪、ボブスレー女子日本代表候補に選出された彼女は今、わずか1枚しかないドライバーの枠をかけて戦っている。代表が決定すれば、夏季五輪メダリストとしては国内初の快挙となる。球技から氷上のソリ競技へ――。未知の世界に足を踏み入れた高山の今を編集長・二宮清純が直撃した。
二宮: ボブスレーの練習を始めて約3カ月が経ちました。国内外の合宿にも参加していますが、ボブスレーという競技はどうですか?
高山: 実際にやってみて、とにかく大変なスポーツだなぁと感じています。ソフトボールと違って個人競技ですし、ボブスレーの競技自体をほとんど知りませんでしたから。テレビでもほとんど見たことがありませんでした。オリンピックでも日本ではあまり放映されないですよね。だから海外に行った時に少し映像で見たくらいだったんです。

二宮: 高山さんが冬のオリンピックを目指すことになるとは、誰も想像がつかなかったと思います。ご自身でも驚かれたんじゃないですか?
高山: 私はこれまでもソフトボール以外のスポーツもやってきていたので、そこまで違和感は感じませんでした。日本では複数の競技をやるのは稀ですが、海外ではそう珍しいことではありません。賛否両論あって、最初にやる人は何か言われることもありますが、私はいろいろなスポーツに挑戦することはいいことだと思っています。

二宮: 慣れていない競技なだけに、不安や緊張感はありますか?
高山: まだそういったものはないですね。私以外は全員経験者ばかりですから、みんな先生だと思っています。

二宮: 逆に言えば、未経験な分、伸びしろ部分も多いということにもなるのでは?
高山: そういう意味で選考に残っているのかもしれないですね。ただ、そのことに甘えるのではなく、今自分ができる最大限のことをやっていきたいなと思っています。

二宮: バンクーバーのコースはスプリンター系よりもパワー系のブレーカーが適していると言われています。パワーなら高山さんの右に出る者はいないのでは?
高山: いえ、体は小さくてもパワーのある選手もいます。その人は以前にも、日本代表に選ばれたことがあるんです。でも、オリンピックには人数調整で出場することができませんでした。その選手は押しが強いですし、走ることもできる。彼女の上をいかなければ、代表には残れないと思います。

二宮: オリンピックは4年間かけてつくりあげていくものだと思いますが、今回ボブスレーの代表となれば、バンクーバーではぶっつけ本番ということになりますが、その点はいかがでしょうか。
高山: バンクーバーまであと4カ月しかありませんからね。でも、この短期間で自分ができることを精一杯やるしかない、と割り切っています。精神面ではソフトボールで培ったものをいかすことができると思っています。もちろん技術面に関してはもっともっと磨いていかなければいけませんが、気持ちの持っていき方などというのは、これまでの経験で十分かなと。ただ、ボブスレーは一発勝負。一回で100%の力を出し切らなければいけないので、そういう部分は勉強していきたいと思っています。

二宮: 映画の『クールランニング』を見て感銘を受けたそうですね。
高山: はい、いいお話でした。映画に出てくるジャマイカの選手たちは周りに何を言われても努力し続け、オリンピックでも活躍した。私も周りからたとえ「何を考えてるの?」と言われても、自分が納得するまでやり通したい。もちろん、代表に選ばれてオリンピックに出場することが一番ですが、もし選ばれなくてもその時は「ここまでやったんだから」と胸を張りたいと思います。

二宮: 今回のチャレンジによって、アスリートとしてのまた新たな引き出しが増えるのではないでしょうか。
高山: そうですね。そうなることを願っていますし、実際にそうなると思っています。

<2009年10月20日発売『ビッグコミックオリジナル』(小学館2009年11月5日号)に高山選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>