29日、都内のホテルでNPB(日本プロ野球機構)の「新人選択会議」が行なわれた。史上初めて一般客1000人に公開された今ドラフトでの最大の注目はMAX155キロ左腕の菊池雄星(花巻東高)。埼玉西武、阪神、東京ヤクルト、東北楽天、中日、北海道日本ハムの6球団から1位指名され、抽選の結果、西武が交渉権を獲得した。
(写真:当たりクジを引き、破顔一笑の西武・渡辺監督)
 日本中が注目したサウスポーの行き先は昨季の日本一から一転、今季は4位に終わり、チーム再建が来季の課題とされている西武に決定した。一番最初にクジを引き、見事当たりを引いた渡辺久信監督は満面の笑顔を見せながら、次のようにコメントした。
「素直に嬉しい。とにかく自分の右手を信じて、真ん中くらいを引いたと思うが……本当に良かった。もちろんスピードもそうだが、野球に対する姿勢、ピッチャーにとって一番重要なバッターに向かっていく姿勢は一番だと思う。将来的にも素晴しい可能性を秘めたピッチャー。しっかりと育てたい。心おきなく入団してほしい」

 徹底した願懸けが運を引き寄せた。前日の夕食では岩手の地酒「南部美人」をともにした。「彼をはぐくんだ地元の水と米でつくったもので身を清めよう」。ポケットには花巻東高のスクールカラーである紫色のボールペンもしのばせた。下位球団から選手名が読み上げられたが、指名が予想されていたオリックス、千葉ロッテが回避。菊池の名前が出たのは5球団目の西武が最初だった。「もう少し(指名が)くると思っていた。うちが一番最初だとは思わなかった」と想定外の展開も、結果的には追い風となった。20年に1度と言われる逸材に最大級の評価をしながらも、即1軍で使うかどうかは「まだこれから」。球団としては松坂大輔(現レッドソックス)以来の抽選で獲得したスターを大きく育てたい方針だ。

 そして運命の瞬間を高校で見届けた菊池自身は、殺到した報道陣の熱気とは裏腹に、落ち着いた表情で次のように述べた。
「やっとスタートラインに立てたのでほっとしている。様々なことに一生懸命取り組まなければいけないなという責任を感じた。素晴しい、尊敬できるピッチャーが数多くいる球団に引いてもらったので、たくさんのことを学びたい。(西武は)昨年も日本一になっているし、涌井(秀章)さん、岸(孝之)さん、そして松坂(大輔)さんも(過去には)いて、すばらしいピッチャーがたくさんいるという印象。今の自分では(プロで)投げられるようなレベルではないので、ライバルどうこうというより自分の技術を上げたい。今は真っすぐしか投げられないので、変化球もコントロールも、そして真っすぐも甘いので全てをレベルアップしなければ勝てないと思っている。結果よりも『雄星みたいな取り組みをするんだ』と語り継がれるようになりたい」

 一方、菊池の交渉権を得ることができなかった球団はそれぞれ外れ1位を指名。阪神は今春、大学日本一の立役者となった右腕・二神一人(法政大)、ヤクルトは即戦力として期待される左腕・中澤雅人(トヨタ自動車)、楽天は今年開花した右腕・戸村健次(立教大)、中日は1年時から甲子園で活躍した左腕・岡田俊哉(智弁和歌山高)、日本ハムは184センチの長身と端整な顔立ちで“ダルビッシュ2世”と呼ばれる右腕・中村勝(春日部共栄高)をそれぞれ指名した。

 また、岡田彰布氏を新監督に迎えたオリックスはMAX151キロを誇る左腕・古川秀一(日本文理大)、横浜は高校通算69本をマークしたスラッガー筒香嘉智(横浜高)、ロッテは走攻守三拍子そろった社会人屈指の外野手・荻野貴司(トヨタ自動車)、広島は今春センバツ優勝投手の右腕・今村猛(清峰高)、福岡ソフトバンクは野手として評価が高い今宮健太(明豊高)、そして巨人は相思相愛の長野久義(Honda)を1位で指名、交渉権を獲得した。

 各球団の指名選手は次の通り。

<交渉権獲得決定選手>

オリックス
【1巡目】
 古川秀一(日本文理大・投手)
【2巡目】
 比嘉幹貴(日立製作所・投手)
【3巡目】
 山田修義(敦賀気比高・投手)
【4巡目】
 前田祐二(BC福井・投手)
【5巡目】
 阿南徹(日本通運・投手)
(写真:「とにかく左がほしかった」。4人の左腕を指名した岡田新監督)

横浜
【1巡目】
 筒香嘉智(横浜高・内野手)
【2巡目】
 加賀繁(住友金属鹿島・投手)
【3巡目】
 安斉雄虎(向上高・投手)
【4巡目】
 真下貴之(東海大望洋高・投手)
【5巡目】
 福田岳洋(四国九州IL香川・投手)
【育成1巡目】
 国吉佑樹(秀岳館高・投手)
【育成2巡目】
 小林公太(多摩大聖ヶ丘高・投手)

千葉ロッテ
【1巡目】
 荻野貴司(トヨタ自動車・外野手)
【2巡目】
 大谷智久(トヨタ自動車・投手)
【3巡目】
 大嶺翔太(八重山商工高・内野手)
【4巡目】
 清田育宏(NTT東日本・外野手)
【育成1巡目】
 山室公志郎(青山学院大・投手)
(写真:「最後まで悩んだ」と菊池を回避し、俊足の荻野を指名した西村新監督)

広島
【1巡目】
 今村猛(清峰高・投手)
【2巡目】
 堂林翔太(中京大中京高・内野手)
【3巡目】
 武内久士(法政大・投手)
【4巡目】
 庄司隼人(常葉橘高・内野手)
【5巡目】
 伊東昴大(盛岡大付高・投手)
【6巡目】
 川口盛外(王子製紙・投手)
(写真:今年の甲子園の春夏優勝投手を“両獲り”した野村新監督)

埼玉西武
【1巡目】
 菊池雄星(花巻東高・投手)
【2巡目】
 美沢将(第一工大・内野手)
【3巡目】
 岩尾利弘(別府大・投手)
【4巡目】
 石川貴(東邦高・外野手)
【5巡目】
 松下建太(早稲田大・投手)
【6巡目】
 岡本洋介(ヤマハ・投手)

阪神
【1巡目】
 二神一人(法政大・投手) ※菊池の外れ指名
【2巡目】
 藤原正典(立命大・投手)
【3巡目】
 甲斐雄平(福岡大・外野手)
【4巡目】
 秋山拓巳(西条高・投手)
【5巡目】
 藤川俊介(近畿大・外野手)
【6巡目】
 原口文仁(帝京高・捕手)

福岡ソフトバンク
【1巡目】
 今宮健太(明豊高・内野手)
【2巡目】
 川原弘之(福岡大大濠高・投手)
【3巡目】
 下沖勇樹(光星学院高・投手)
【4巡目】
 中原恵司(亜細亜大・外野手)
【5巡目】
 豊福晃司(鳥栖高・内野手)

東京ヤクルト
【1巡目】
 中澤雅人(トヨタ自動車・投手) ※菊池の外れ指名
【2巡目】
 山本哲哉(三菱重工神戸・投手)
【3巡目】
 荒木貴浩(近畿大・内野手)
【4巡目】
 平井諒(帝京五高・投手)
【5巡目】
 松井淳(日大国際関係学部・外野手)
【育成1巡目】
 曲尾マイケ(青森山田高・外野手)
【育成2巡目】
 麻生知史(日大国際関係学部・内野手)
(写真:「(4巡目の平井について)ウチでは今村君(清峰高、広島1巡目指名)並みの評価をしていた。非常に楽しみ」と期待する高田監督)

東北楽天
【1巡目】
 戸村健次(立教大・投手) ※菊池の外れ指名
【2巡目】
 西田哲朗(関大一高・内野手)
【3巡目】
 小関翔太(東筑紫学園高・捕手)
【4巡目】
 高堀和也(三菱自動車岡崎・投手)
【5巡目】
 土屋朋弘(シティライト岡山・投手)
【育成1巡目】
 松井宏次(四国九州IL長崎・内野手)
(写真:田中将大らを引き当てた強運を発揮できず、残念そうな島田オーナー)

中日
【1巡目】
 岡田俊哉(智弁和歌山高・投手) ※菊池の外れ指名
【2巡目】
 小川龍也(千葉英和高・投手)
【3巡目】
 中田亮二(亜細亜大・内野手)
【4巡目】
 松井佑介(東京農業大・外野手)
【5巡目】
 大島洋平(日本生命・外野手)
【6巡目】
 諏訪部貴大(Honda・投手)
【7巡目】
 松井雅人(上武大・捕手)
【8巡目】
 吉田利一(奈良産業大・捕手)
【育成1巡目】
 矢地健人(高岡法科大・投手)
【育成2巡目】
 赤田龍一郎(愛知大・捕手)

北海道日本ハム
【1巡目】
 中村勝(春日部共栄高・投手) ※菊池の外れ指名
【2巡目】
 大塚豊(創価大・投手)
【3巡目】
 加藤政義(九州国際大・内野手)
【4巡目】
 運天ジョン・クレイトン(裏添工高・投手)
【5巡目】
 増井浩俊(東芝・投手)
【6巡目】
 荒張裕司(四国九州IL徳島・捕手)
(写真:「菊池は外れて残念」。くじ引きは5戦全敗の梨田監督)

巨人
【1巡目】
 長野久義(Honda・外野手)
【2巡目】
 鬼屋敷正人(近大高専・捕手)
【3巡目】
 土本恭平(JR東海・投手)
【4巡目】
 市川友也(鷺宮製作所・捕手)
【5巡目】
 小野淳平(日本文理大・投手)
【育成1巡目】
 星野真澄(BC信濃・投手)
【育成2巡目】
 河野元貴(九州国際大付高・捕手)
【育成3巡目】
 陽川尚将(金光大阪高・内野手)
【育成4巡目】
 大立恭平(岡山商科大・投手)
(写真:巨人入りを熱望し、他球団の指名を2度拒否した長野の交渉権を得てホッとした様子の原監督)