0対10で負けても、あまりショックは残らない。「明日、勝てばいいよ」と。

 しかし、1点差で負けると、悔しさが募る。「あの1点が余計だった」「なぜ、あそこで追加点が取れなかったのか……」

 カープファンの中には、このところヤケ酒をあおっている者が多いのではないか。ストレスのたまる試合が続く。

 8月5日現在、44勝49敗1分けで4位。首位・巨人に5ゲーム差を付けられている。残り試合を考えると、もう連敗は許されない。

 借金5つながら、得失点差は36でリーグトップだ。巨人の17を倍以上上回る。

 端的に言えば、「野球が下手」な証拠である。1点差ゲームは17勝24敗。これが逆になっていれば、今頃は首位だ。

 なぜ、カープはクロスゲームに弱いのか。優勝経験者が少ないから? ベンチワークが未熟だから? リリーフ陣が安定しないから? 勝負強いいバッターがいないから? チームリーダーがいないから? 全てあたっているが、この期に及んで、それを指摘しても仕方ない。

 そこでカープの歴史を振り返ると、劇的な優勝を果たした際には、必ずキーマンがいた。75年の初優勝時は、ジョー・ルーツの突然の辞任を受け4試合、監督代行を務めた野崎泰一である。「野崎さんに恥をかかせてはいけない」。皆がその思いを心に刻んだ。

 最後にリーグ優勝を飾った91年には津田恒実がいた。脳腫瘍で戦列を離れざるを得なくなった「津田のためにも」との思いがチームの結束を深めさせた。

 後半戦は「広島のためにも」との思いで戦って欲しい。原爆が投下された8月6日、カープは全員が胸に「PEACE」、背中に「HIROSHIMA」の文字入りで背番号「86」のユニホームに身を包む。そう、「フォア・ザ・ヒロシマ」である。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
 


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